「君の妄想、全部聞こえてるよ?」~古本屋の呪いで、クールな美少女と脳内イチャラブ同期(シンクロ)してしまった件~

月下花音

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第8話

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 夏休みが明けて、大学に新たな嵐が吹き荒れた。
 その名は、西園寺レオ。
 帰国子女、資産家の御曹司、そしてモデル並みのルックスを持つ、正真正銘の「王子様」。

 そして何より最悪なことに、彼は一ノ瀬こころの幼馴染。

「久しぶりだね、こころ。相変わらず綺麗だ」

 キャンパスのカフェテリア。
 レオが自然な動作で一ノ瀬さんの髪に触れる。
 フランス映画のワンシーン。
 周囲の女子学生たちが黄色い悲鳴を上げてる。

 対する僕は、少し離れた席で、冷めたカツカレーを前に震えてた。

(あー、爆発しろ。リア充爆発しろ)
(なんだあの気障な野郎は。前世はイタリアの種馬か?)
(一ノ瀬さんに触るな。その手は消毒だ。火炎放射器を持ってこい)

 僕の脳内は嫉妬の炎で業火。
 当然、その熱波は一ノ瀬さんに直撃してるはず。

 一ノ瀬さんがチラリと僕を見る。
 その顔は少し困ったように歪んでる。

「……レオ、やめて。目立つから」

「照れるなよ。ハグくらい、挨拶だろう?」

 レオが一ノ瀬さんを抱き寄せようとする。

 ブチッ。

 僕の中で何かが切れる。

(触るなああああああ!!)
(一ノ瀬さんは僕のだ! 僕だけの女神だ!)
(その薄汚い手をどけろ! 地獄の業火で焼かれろ!)

 ドガッ!

 一ノ瀬さんが突然、テーブルを叩いて立ち上がる。
 顔面蒼白。

「こころ?」

「……ごめん、レオ。ちょっと、気分が……」

 口元を押さえて、ふらふらとカフェテリアを出て行く。
 レオが心配そうに見送る。
 僕は慌てて後を追った。

     

 中庭のベンチで、一ノ瀬さんはぐったりしてた。

「……一ノ瀬さん」

「……うるさい」

 睨みつけてくる。
 その目は潤んでて、怒りよりも疲労の色が濃い。

「あんたの嫉妬、重すぎ。……頭が割れるかと思った」

「す、すみません……」

「『火炎放射器』とか『地獄の業火』とか……物騒すぎるのよ」

 ため息をつく。

「でも……」

 少しだけ顔を上げる。

「……あいつに触られそうになった時、あんたが怒ってくれて……少しだけ、ホッとした」

 え?

「レオは、昔から強引で……私、断るのが苦手だから」

 一ノ瀬さんが弱々しく笑う。

「だから、あんたの心の声が、私の代わりに怒ってくれてるみたいで……頼もしかった、かも」

 ズキュン。
 僕の心臓が撃ち抜かれる。
 何それ。
 可愛すぎる。

(一ノ瀬さん……! 一生守ります! 火炎放射器で!)

「だから火炎放射器はやめてってば!」

 僕の肩を叩く。
 その時。

「へえ、仲がいいんだね」

 背後から声。
 西園寺レオ。
 爽やかな笑顔で立ってるけど、その目は笑ってない。

「君が、柏木優也くん?」

「は、はい」

「こころから話は聞いてるよ。……『面白い友達』がいるってね」

 友達。
 その言葉に棘を感じる。

「でも、彼女にはもっと相応しい相手がいると思うんだ。……例えば、僕とかね」

 宣戦布告。
 レオが一歩近づく。

「こころは僕の婚約者候補なんだ。悪いけど、邪魔しないでくれるかな?」

 婚約者候補。
 その言葉の重みに、僕は言葉を失う。
 所詮、僕はただの「妄想男」。
 リアルな王子様には勝てないのか?

 いや、違う。
 僕には、一ノ瀬さんとの「秘密の共有」がある。
 この呪いがある限り、僕たちの絆は誰にも切れないはず。

 そう思った瞬間、一ノ瀬さんが僕の手を握る。
 強く、痛いほどに。

「……レオ」

 一ノ瀬さんが凛とした声で言う。

「私、柏木くんのこと……」

 言いかけたその時。

 キーン。

 僕と一ノ瀬さんの頭の中に、鋭い耳鳴りが響く。
 視界が歪む。
 そして、プツンと何かが切れる音。

(……え?)

 突然、静寂が訪れる。
 一ノ瀬さんの手の温もりはある。
 でも、頭の中に常にあった「繋がっている感覚」が、消えてた。

 まさか。
 呪いが、解けた?
 このタイミングで?

 一ノ瀬さんが呆然と僕を見上げる。
 その瞳には、僕と同じ動揺が映ってた。

(第8話 完)

第8話完 次話へ続く
次回、突然の「沈黙」。呪いが消え、心の声が聞こえなくなった二人。言葉で伝えなければならない焦りと、すれ違う想い。最大の危機が訪れる!
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