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4話 悪夢
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豪華な監獄での生活が数日過ぎた。
私の体は、徐々にこの生活に順応し始めていた。
美味しい食事、柔らかいベッド、美しい服。
それらは確実に私の心を麻痺させていく。だが、魂は悲鳴を上げていた。
(いやだ……いやだ……いやだ……!)
夜中、悪夢にうなされて飛び起きた。
夢の中で、私は大勢のαに囲まれていた。誰もが獣のような目で私を見て、その手を伸ばしてくる。
助けを求めても、誰もいない。暗く、冷たい絶望だけがそこにあった。
「はっ……はぁっ……!」
荒い呼吸を整えようと胸を押さえる。冷や汗が首筋を伝った。
いつもと同じ、広すぎる部屋。静寂が、耳の奥で不気味に響く。
(蒼真さんは……?)
無意識に、彼の姿を探していた。
いつもなら、私が目を覚ますとどこからか現れるのに。今夜は、いない。
その事実に気付いた瞬間、悪夢の続きのような強烈な孤独と恐怖が、私を襲った。
「……いやっ……一人に、しないで……!」
パニックに陥った私は、ベッドから転がり落ちるようにして壁際のインターホンに駆け寄った。震える指で、何度も何度もボタンを押す。
「お願い……来て……蒼真さん……!私のこと守ってくれるって言った!」
もう、プライドも抵抗心もなかった。
ただ、この身を裂くような孤独から逃れたかった。もう苦しいのは嫌。
彼に会いたい。彼の匂いに包まれて、安心したい。
数秒が永遠のように感じられた後、ガチャリ、とドアが開いた。
駆け込んできたのは、バスローブ姿の蒼真だった。彼は私の尋常ではない様子を見て、目を見開いた。
「柚羽!?どうした!」
「こわいの……ひどい夢を、見て……一人は、もういや……っ」
言葉にならない嗚咽が漏れる。
蒼真は何も言わず、床にうずくまる私を力強く抱きしめた。
彼の腕の中は、いつもと同じ、静かな森の香りがした。その香りを吸い込むと、狂ったように鳴っていた心臓が、安心感に包まれて少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「大丈夫だ。俺はここにいるよ」
「君を傷つけるものなどどこにもいない。俺が君をちゃんと守ってあげる。」
彼は私の背中を優しくさすりながら、何度もそう繰り返した。
その声と温もりに、私は子供のようにしがみついて泣いた。
「……大丈夫だ。もう、怖い夢は見ない」
しばらくして、私が落ち着いたのを見計らい、蒼真は私を抱きかかえてベッドへと運んだ。そして、自分もその隣に横になる。
「……っ」
体を離そうとするが、彼は許さない。むしろ、さらに強く抱き寄せられた。
「今夜は、このままそばにいてやる。だから、安心して眠りなさい」
「でも……」
「『でも』じゃないだろう?」
彼の声は、有無を言わさぬ力強さを持っていた。
「君が俺を求めたんだ。それにこっちのほうがよく眠れる。」
その言葉に、顔が熱くなる。
そうだ。私が、彼を呼んだんだ。
一人でいるのが怖くて、彼にそばにいてほしくて。
もう、私は彼なしでは、夜の闇にさえ耐えられなくなっている。
「……ごめんなさい。迷惑かけて」
「謝らなくていい。俺は嬉しいよ。柚羽に求められて。」
彼は私を安心させるように髪を優しく撫でた。
「君が、俺を必要としてくれて」
その声には、心からの喜びに満ちていた。
この人は、私が弱って、自分に依存すればするほど、喜ぶんだ。
その事実に気づいて、背筋がぞっとした。でも、もう遅い。
私はすでに、彼の術中に嵌ってしまっている。
私の体は、徐々にこの生活に順応し始めていた。
美味しい食事、柔らかいベッド、美しい服。
それらは確実に私の心を麻痺させていく。だが、魂は悲鳴を上げていた。
(いやだ……いやだ……いやだ……!)
夜中、悪夢にうなされて飛び起きた。
夢の中で、私は大勢のαに囲まれていた。誰もが獣のような目で私を見て、その手を伸ばしてくる。
助けを求めても、誰もいない。暗く、冷たい絶望だけがそこにあった。
「はっ……はぁっ……!」
荒い呼吸を整えようと胸を押さえる。冷や汗が首筋を伝った。
いつもと同じ、広すぎる部屋。静寂が、耳の奥で不気味に響く。
(蒼真さんは……?)
無意識に、彼の姿を探していた。
いつもなら、私が目を覚ますとどこからか現れるのに。今夜は、いない。
その事実に気付いた瞬間、悪夢の続きのような強烈な孤独と恐怖が、私を襲った。
「……いやっ……一人に、しないで……!」
パニックに陥った私は、ベッドから転がり落ちるようにして壁際のインターホンに駆け寄った。震える指で、何度も何度もボタンを押す。
「お願い……来て……蒼真さん……!私のこと守ってくれるって言った!」
もう、プライドも抵抗心もなかった。
ただ、この身を裂くような孤独から逃れたかった。もう苦しいのは嫌。
彼に会いたい。彼の匂いに包まれて、安心したい。
数秒が永遠のように感じられた後、ガチャリ、とドアが開いた。
駆け込んできたのは、バスローブ姿の蒼真だった。彼は私の尋常ではない様子を見て、目を見開いた。
「柚羽!?どうした!」
「こわいの……ひどい夢を、見て……一人は、もういや……っ」
言葉にならない嗚咽が漏れる。
蒼真は何も言わず、床にうずくまる私を力強く抱きしめた。
彼の腕の中は、いつもと同じ、静かな森の香りがした。その香りを吸い込むと、狂ったように鳴っていた心臓が、安心感に包まれて少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「大丈夫だ。俺はここにいるよ」
「君を傷つけるものなどどこにもいない。俺が君をちゃんと守ってあげる。」
彼は私の背中を優しくさすりながら、何度もそう繰り返した。
その声と温もりに、私は子供のようにしがみついて泣いた。
「……大丈夫だ。もう、怖い夢は見ない」
しばらくして、私が落ち着いたのを見計らい、蒼真は私を抱きかかえてベッドへと運んだ。そして、自分もその隣に横になる。
「……っ」
体を離そうとするが、彼は許さない。むしろ、さらに強く抱き寄せられた。
「今夜は、このままそばにいてやる。だから、安心して眠りなさい」
「でも……」
「『でも』じゃないだろう?」
彼の声は、有無を言わさぬ力強さを持っていた。
「君が俺を求めたんだ。それにこっちのほうがよく眠れる。」
その言葉に、顔が熱くなる。
そうだ。私が、彼を呼んだんだ。
一人でいるのが怖くて、彼にそばにいてほしくて。
もう、私は彼なしでは、夜の闇にさえ耐えられなくなっている。
「……ごめんなさい。迷惑かけて」
「謝らなくていい。俺は嬉しいよ。柚羽に求められて。」
彼は私を安心させるように髪を優しく撫でた。
「君が、俺を必要としてくれて」
その声には、心からの喜びに満ちていた。
この人は、私が弱って、自分に依存すればするほど、喜ぶんだ。
その事実に気づいて、背筋がぞっとした。でも、もう遅い。
私はすでに、彼の術中に嵌ってしまっている。
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