18 / 23
支配
しおりを挟む
なまでの渇望が、危険な光となって渦巻いていた。
「ユキは、俺の女だ」カイが言った。
「いいや、俺のだ!」キースが叫んだ。
「彼女は、僕のマドンナだよ」マルセルが囁いた。
「……ご主人様は、この俺だけのものだ」セスが呟いた。
一触即発。
次の瞬間には、血で血を洗う仲間割れが起きてもおかしくない。
その、張り詰めた糸が切れようとした、その時。
ゆきは、パン、と一度だけ、手を打ち鳴らした。
たったそれだけの、小さな音。
しかし、その音は、まるで絶対的な法則のように、四人の男たちの動きを完全に停止させた。
「……もう一度言いますよ。いちいち争わないで……」
ゆきは、ゆっくりと四人を見渡した。
その視線は、もはや怯えた少女のものではない。
自らの家臣の愚かな争いを、冷ややかに、しかしどこか慈しむように見つめる、絶対的な女王の眼差しだった。
「あなたたちは、何か勘違いをしているんじゃない。私は、誰か一人のものにはならないわ」
彼女は、まずカイの前に立った。
「カイ。貴方は、力で私を支配しようとした。その腕に抱かれるのは、安心できる。……けれど、それだけでは、私の心は満たされないの」
次に、キースの前に立つ。
「キース。貴方は、狡猾さで私を堕とそうとした。その危険な駆け引きは、私を興奮させる。……けれど、それだけでは、私は貴方のものにはならない」
そして、マルセルの前に。
「マルセル。貴方は、私を美しく着飾らせて、倒錯的な愛を教えてくれた。その歪んだ愛情は、心地いいの。……けれど、私はあなただけの籠の中の鳥にはならない」
最後に、セスの前に。
「セス。貴方は、忠誠を誓い、私の犬となった。その献身は、私の心を慰める。……けれど、それだけでは、私は貴方だけの主人にはならない」
ゆきは、四人の中心に戻ると、両腕を広げた。
その姿は、まるで十字架にかけられた聖女のようであり、また、全てを支配する魔王のようでもあった。
「私は、貴方たちの全てを欲している。カイの力も、キースの狡猾さも、マルセルの美も、セスの忠誠も。そのどれか一つでも欠けては、私は今の私でいられない」
「……!」
「だから、もう争うのはやめなさい。貴方たちは、誰か一人が私を独占することなどできない。……私が、貴方たち四人全員を、独占するのだから」
それは、愛の告白などではなかった。
絶対的な支配の、宣言だった。
私だけのせいにではない。
あなた達が私を壊し、お前達の理想の女王を作り上げたのだ。
四人の男たちは、言葉を失い、ただ目の前の女王然とする女を見つめることしかできなかった。
彼らは、それぞれが自分のやり方で、彼女を手に入れようとしていた。
しかし、その実、最初から、この少女の手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかったのだ。
抵抗など、意味がない。
この女の前では、王も、反逆者も、騎士も、犬も、等しく、ひれ伏すしかないのだ。
やがて、最初に膝をついたのは、カイだった。
この砦の絶対支配者が、ゆっくりと、しかし確実に、彼女の足元に跪いたのだ。
それを見て、キースが、マルセルが、そしてセスが、次々と、その後ろに続く。
四人の、あまりに個性的で、誇り高い獣たちが、たった一人の無力な女王の前で自ら頭を下げ服従を誓ったのだ。
ゆきは、その光景を、満足げに見下ろした。
そして、自分の足元に跪く四人の男たちに、慈母のように、そして悪魔のように、微笑みかけた。
「よくできました、私の可愛い獣たち。……さあ、夜はまだ長いですわ。今宵は、四人まとめて、可愛がってあげましょう」
その言葉が、この歪で、倒錯し、そしてどこまでも甘美な、彼女だけの王国の始まりを告げていた。
辺境の砦に囚われた無力な少女は、もうどこにもいない。
いるのはただ、四人の獣を従え、その愛と欲望のすべてを喰らって君臨する、永遠の女王だけだった。
「ユキは、俺の女だ」カイが言った。
「いいや、俺のだ!」キースが叫んだ。
「彼女は、僕のマドンナだよ」マルセルが囁いた。
「……ご主人様は、この俺だけのものだ」セスが呟いた。
一触即発。
次の瞬間には、血で血を洗う仲間割れが起きてもおかしくない。
その、張り詰めた糸が切れようとした、その時。
ゆきは、パン、と一度だけ、手を打ち鳴らした。
たったそれだけの、小さな音。
しかし、その音は、まるで絶対的な法則のように、四人の男たちの動きを完全に停止させた。
「……もう一度言いますよ。いちいち争わないで……」
ゆきは、ゆっくりと四人を見渡した。
その視線は、もはや怯えた少女のものではない。
自らの家臣の愚かな争いを、冷ややかに、しかしどこか慈しむように見つめる、絶対的な女王の眼差しだった。
「あなたたちは、何か勘違いをしているんじゃない。私は、誰か一人のものにはならないわ」
彼女は、まずカイの前に立った。
「カイ。貴方は、力で私を支配しようとした。その腕に抱かれるのは、安心できる。……けれど、それだけでは、私の心は満たされないの」
次に、キースの前に立つ。
「キース。貴方は、狡猾さで私を堕とそうとした。その危険な駆け引きは、私を興奮させる。……けれど、それだけでは、私は貴方のものにはならない」
そして、マルセルの前に。
「マルセル。貴方は、私を美しく着飾らせて、倒錯的な愛を教えてくれた。その歪んだ愛情は、心地いいの。……けれど、私はあなただけの籠の中の鳥にはならない」
最後に、セスの前に。
「セス。貴方は、忠誠を誓い、私の犬となった。その献身は、私の心を慰める。……けれど、それだけでは、私は貴方だけの主人にはならない」
ゆきは、四人の中心に戻ると、両腕を広げた。
その姿は、まるで十字架にかけられた聖女のようであり、また、全てを支配する魔王のようでもあった。
「私は、貴方たちの全てを欲している。カイの力も、キースの狡猾さも、マルセルの美も、セスの忠誠も。そのどれか一つでも欠けては、私は今の私でいられない」
「……!」
「だから、もう争うのはやめなさい。貴方たちは、誰か一人が私を独占することなどできない。……私が、貴方たち四人全員を、独占するのだから」
それは、愛の告白などではなかった。
絶対的な支配の、宣言だった。
私だけのせいにではない。
あなた達が私を壊し、お前達の理想の女王を作り上げたのだ。
四人の男たちは、言葉を失い、ただ目の前の女王然とする女を見つめることしかできなかった。
彼らは、それぞれが自分のやり方で、彼女を手に入れようとしていた。
しかし、その実、最初から、この少女の手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかったのだ。
抵抗など、意味がない。
この女の前では、王も、反逆者も、騎士も、犬も、等しく、ひれ伏すしかないのだ。
やがて、最初に膝をついたのは、カイだった。
この砦の絶対支配者が、ゆっくりと、しかし確実に、彼女の足元に跪いたのだ。
それを見て、キースが、マルセルが、そしてセスが、次々と、その後ろに続く。
四人の、あまりに個性的で、誇り高い獣たちが、たった一人の無力な女王の前で自ら頭を下げ服従を誓ったのだ。
ゆきは、その光景を、満足げに見下ろした。
そして、自分の足元に跪く四人の男たちに、慈母のように、そして悪魔のように、微笑みかけた。
「よくできました、私の可愛い獣たち。……さあ、夜はまだ長いですわ。今宵は、四人まとめて、可愛がってあげましょう」
その言葉が、この歪で、倒錯し、そしてどこまでも甘美な、彼女だけの王国の始まりを告げていた。
辺境の砦に囚われた無力な少女は、もうどこにもいない。
いるのはただ、四人の獣を従え、その愛と欲望のすべてを喰らって君臨する、永遠の女王だけだった。
38
あなたにおすすめの小説
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる