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終幕 複数
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ゆきは、跪く四人の男たちを見下ろした。
その瞳には、もはや慈悲も、ためらいもない。
ただ、絶対的な支配者としての、冷たく、そして燃えるような光だけが宿っていた。
「可愛い、私の獣たち。……褒美を、あげましょう」
彼女はまず、カイの手を取った。
砦の王である男の手を、まるで子供を導くように、自らの裸身へと誘う。
「カイ。貴方は、私の最初の男。その力で、この私を、もう一度、貴方だけのものだと思い知らせてごらんなさい」
その言葉は、命令だった。
カイは、プライドと欲望に顔を歪ませながらも、主の命令に従う獣のように、ゆきを抱きかかえ、天蓋付きのベッドへと運んだ。
彼が、そのたくましい身体でゆきに覆いかぶさり、深くその身を繋げようとした、その瞬間。
「――待ちさない」
ゆきの制止の声に、カイの動きが止まる。
ゆきは、ベッドの脇に控えるマルセルに、妖しく微笑みかけた。
「マルセル。貴方は、私の唇が寂しがっているとは思わない?」
マルセルは、その意図を瞬時に理解した。彼は恍惚とした表情でベッドに上がり、カイがゆきの身体を求めるそのすぐ側で、ゆきの唇を深く、甘く、貪り始めた。
二人の男に、同時に身体の上下を塞がれる。支配的なカイの熱と、倒錯的なマルセルの舌。
相反する快感が、ゆきの全身を駆け巡った。
「く……っ、ぅ……ん……」
ゆきが甘い声を漏らすと、カイはもう我慢ならんとばかりに、その腰を動かし始めた。
だが、その動きは以前のような一方的なものではない。マルセルの存在を意識し、彼の与える快感に負けじと、ゆきの身体が最も喜ぶ角度と深さを、必死に探っている。
「キース」
ゆきは、カイに貫かれ、マルセルに唇を塞がれながら、部屋の隅で嫉妬に身を焦がす狼に、声をかけた。
「貴方は、私の胸が空いているでしょう? それとも、ただ見ているだけで満足できるというの?」
その挑発に、キースの理性が焼き切れた。
彼はベッドに飛び乗ると、ゆきの豊かな双丘にその顔を埋めた。
片方を手で揉みしだき、もう片方を、まるで赤子のように貪欲に吸い始める。
その舌先が、硬く尖った先端を執拗に嬲るたびに、ゆきの背筋を新たな快感の電流が走った。
「あ……ああ……っ! き、す……だめ……!」
三人の男たちによって、同時に三つの快感を与えられる。
もはや、どこからの刺激がどうなっているのか、思考が追いつかない。
ただ、快楽の奔流に、意識ごと呑み込まれていくだけだった。
「……ご主人、様……」
その時、ベッドの下の床に跪いていたセスが、懇願するように、震える声でゆきの名を呼んだ。
彼は、この神聖な儀式に参加することも許されず、ただその光景を見上げることしかできない。
その目に浮かぶのは、放置され虐められた歓喜と、そして仲間外れにされたことへの、深い絶望。
ゆきは、喘ぎながらも、その忠実な犬を見捨てはしなかった。
ベッドから、素足の一方を、そっと下ろす。
「セス。……私の可愛い駄犬。貴方は、私の足元がお似合いよ。私が、この男たちに穢されている間、私の足の先まで、貴方の忠誠心で清めなさい」
その言葉は、セスにとって、何よりもの福音だった。
彼は、涙を流しながら、ゆきの足にすがりついた。
そして、まるで聖体を拝むかのように、その足の指の一本一本を、丁寧に、熱心に、その舌で清め始めた。
四人の男。四つの欲望。四つの快感。
カイの力強い抽送が、ゆきの奥深くを抉り。
マルセルの巧みな舌が、ゆきの理性を奪い。
キースの貪欲な吸啜が、ゆきの上半身を支配し。
セスの献身的な奉仕が、ゆきの足元から、じわりと熱を伝えてくる。
そのすべてが、ゆきという一つの祭壇に捧げられていた。
ゆきは、もはや自分が誰なのかも分からなくなるほどの、快感の渦の中で、天を仰いだ。
「ああ……っ、あ……あぁ……!」
最初に限界を迎えたのは、カイだった。
彼は雄叫びを上げると、そのすべてをゆきの胎内に注ぎ込む。
その熱い奔流と同時に、ゆきの身体もまた、大きく痙攣し、一度目の絶頂を迎えた。
しかし、宴は終わらない。
カイが力尽きるのと入れ替わるように、キースがその場所を奪い取った。
彼の欲望は、先ほどまでの嫉妬で、さらに硬く、熱く、膨れ上がっている。
「ユキ……! 俺だけを、見て……!」
彼は、カイが与えたものとは比べ物にならないほどの、激しい衝動で、ゆきを突き上げ始めた。
その間も、マルセルのキスは止まず、セスの奉仕もまた、続いている。
二度、三度と、快感の波が寄せては返す。
ゆきは、朦朧とする意識の中、理解した。
ああ、これが、私が望んだ王国。
私のために争い、私のために憎み合い、そして、私の前で、一つになる。
「喧嘩はよして……」
ゆきが、掠れた声で呟いた。
その一言で、すべての男たちの動きが、ぴたりと止まる。
それでも男たちの動きが止まったのは、ほんの一瞬。
ゆきは、力尽きて自分から離れようとするカイの耳を掴み、その顔を引き寄せた。
「……どこへ行くの? 私が、もう満足したとでも?」
その瞳は、まだ悦びの熱に潤み、渇望に濡れている。
カイは、その悪魔的な女王の眼差しに、再び獣の唸り声を上げた。
彼の欲望は、一度果てたはずなのに、彼女の言葉一つで、いとも簡単に蘇る。
「ユキ……お前は、本当に……!」
「ええ。私、欲張りなの」
ゆきは、カイを再びその身に受け入れながら、ベッドの脇に控えるマルセルに視線を送った。
「マルセル。貴方の指は、まだ仕事が残っているでしょう? 私もっとあなたの指で感じていたいの……」
マルセルは、うっとりとため息をつくと、その芸術家のような指で、キースの激しい律動に揺れるゆきの身体を、なぞり始めた。
胸の尖りを優しく弾き、首筋を撫で、そして、二人が結合している、そのすぐ傍の花弁を、慈しむように刺激する。
外からの刺激と、内側からの激しい突き上げ。二重の快感に、ゆきの思考は快楽の色に染め上げられていく。
カイが二度目の絶頂を迎えるのと、マルセルの指によってゆきが新たな快感の頂に達するのは、ほぼ同時だった。
「ああっ!」
「んっ♡……ぁあ♡……はぁぁん♡……はっ♡……ぁ!」
二つの喘ぎ声が、部屋に重なる。
カイが今度こそ力尽き、ゆきの上から崩れ落ちる。その亡骸を、ゆきは無造作にベッドの脇へと転がした。
そして、次にその指先で招いたのは、マルセルだった。
「さあ、次は貴方の番よ、私の芸術家。貴方の美しさで、この私を、満たしてごらんなさい」
マルセルは、カイとキースによって荒らされた祭壇に、恭しくその身を捧げた。
彼の動きは、先の二人とは全く違う。
まるで、繊細な楽器を奏でるかのように、優雅で、芸術的で、そしてどこまでも官能的だった。
彼は、ゆきの身体に咲いた赤い花のひとつひとつに口づけを落とし、その美しさを讃えながら、ゆっくりと、しかし確実に、愛を伝える様に触れる。
「綺麗だ……ユキ……。男たちの欲望に染まった君は、どんな宝石よりも、退廃的で、美しい……」
「もっと……言って、マルセル……」
「ああ……僕の女神。僕だけの、マドンナ……!」
その時、ゆきは床に跪いたままの、最後の男に目をやった。
セスと呼ばれた忠犬は、びくりと身体を震わせる。
「貴方は、ずっとお預けね。……でも、もう待ちくたびれたでしょう?」
「ご、ご主人様……っ」
「来なさい。そして、私に口づけを。マルセルが奏でるこの調べを、貴方の舌で、もっと甘美なものにしてごらんなさい」
セスは、四つん這いのまま、ベッドに這い上がった。
そして、マルセルがゆきの身体を愛でている、そのすぐ傍らで、ゆきの唇を、まるで壊れ物に触れるかのように、恐る恐る、しかし熱心に貪り始めた。
彼の不器用で、しかしひたむきな口づけが、マルセルの芸術的な交わりとは違う、生々しい熱を加える。
やがて、マルセルが美しい声で喘ぎながら、その倒錯的な愛をゆきの中に注ぎ込んだ。
そして、ついに、最後の男の番が来た。
ゆきは、マルセルを優しく突き放すと、自らセスの上に跨った。
忠実な犬は、予期せぬ女王からの寵愛に、ただただ、震えることしかできない。
「さあ、私の可愛い犬。最後の褒美です。……光栄に思いなさい」
ゆきは、自らの手で、彼の忠誠の証を掴むと、それをゆっくりと、女王の玉座へと迎え入れた。
「―――っ!!」
セスは、声にならない悲鳴を上げた。
ゆきは、自らが主導権を握り、ゆっくりと腰を上下させ始めた。
見下ろす女王の圧倒的な姿と、その胎内に受け入れられたという至上の悦びに、セスの意識は何度も飛びかける。
その光景を、力尽きたはずのカイ、キース、マルセルが、嫉妬と羨望の入り混じった瞳で見つめている。
彼らの視線が、ゆきには快感へ導く最高のスパイスだった。
「ああ……ああ、あああああっ!」
ゆきは、セスの限界が近いことを感じると、さらに深く、速く、その腰を動かす。
四人分の欲望と快楽を一身に受け止めた身体が、今、最後の絶頂を迎えようとしていた。
「皆、私をよく見なさい……! これが、貴方たちが作り出した女王よ……!」
ゆきが叫んだ瞬間。
セスのすべてが、女王の胎内へと捧げられた。
そして、その熱い奔流を合図に、ゆきの身体もまた、今までのどれとも比較にならない、天と地が反転するほどの、絶対的な快感の頂点へと達した。
白い光が、視界のすべてを焼き尽くす。
どれほどの時間が流れたのか。
ゆきが意識を取り戻した時、彼女は四人の男たちの身体の上に、まるで勝利のトロフィーのように、ぐったりと横たわっていた。
カイの胸に頭を預け、キースの腕を枕にし、マルセルの足に脚を絡ませ、そして、セスの身体を、その下敷きにしている。
四人の男たちは、皆、燃え尽きたように、しかし至上の幸福に満たされた表情で、穏やかな寝息を立てていた。
「今宵は、ここまで。……全員、私の傍らで眠りなさい。私の、可愛い獣たち」
ゆきは、その光景を、満足げに見下ろした。
自分の肌には、四人の男たちの香りが、複雑に、そして甘美に、混じり合っている。
昨夜、自分の部屋の扉を開けた時、この結末を誰が想像できただろうか。無力な少女は、完全に死んだ。
この砦は、私のもの。
この男たちは、私のもの。
この世界のすべては、私のもの。
そして今、この辺境の砦に、四匹の猛獣をその身ひとつで従える、唯一無二の女王が、真の戴冠式を終えたのだ。ゆきは、そっと目を閉じた。
遠くで、夜明けを告げる鳥の声が聞こえる。
女王の、永く、そして甘美な治世が、今、始まろうとしていた。
その瞳には、もはや慈悲も、ためらいもない。
ただ、絶対的な支配者としての、冷たく、そして燃えるような光だけが宿っていた。
「可愛い、私の獣たち。……褒美を、あげましょう」
彼女はまず、カイの手を取った。
砦の王である男の手を、まるで子供を導くように、自らの裸身へと誘う。
「カイ。貴方は、私の最初の男。その力で、この私を、もう一度、貴方だけのものだと思い知らせてごらんなさい」
その言葉は、命令だった。
カイは、プライドと欲望に顔を歪ませながらも、主の命令に従う獣のように、ゆきを抱きかかえ、天蓋付きのベッドへと運んだ。
彼が、そのたくましい身体でゆきに覆いかぶさり、深くその身を繋げようとした、その瞬間。
「――待ちさない」
ゆきの制止の声に、カイの動きが止まる。
ゆきは、ベッドの脇に控えるマルセルに、妖しく微笑みかけた。
「マルセル。貴方は、私の唇が寂しがっているとは思わない?」
マルセルは、その意図を瞬時に理解した。彼は恍惚とした表情でベッドに上がり、カイがゆきの身体を求めるそのすぐ側で、ゆきの唇を深く、甘く、貪り始めた。
二人の男に、同時に身体の上下を塞がれる。支配的なカイの熱と、倒錯的なマルセルの舌。
相反する快感が、ゆきの全身を駆け巡った。
「く……っ、ぅ……ん……」
ゆきが甘い声を漏らすと、カイはもう我慢ならんとばかりに、その腰を動かし始めた。
だが、その動きは以前のような一方的なものではない。マルセルの存在を意識し、彼の与える快感に負けじと、ゆきの身体が最も喜ぶ角度と深さを、必死に探っている。
「キース」
ゆきは、カイに貫かれ、マルセルに唇を塞がれながら、部屋の隅で嫉妬に身を焦がす狼に、声をかけた。
「貴方は、私の胸が空いているでしょう? それとも、ただ見ているだけで満足できるというの?」
その挑発に、キースの理性が焼き切れた。
彼はベッドに飛び乗ると、ゆきの豊かな双丘にその顔を埋めた。
片方を手で揉みしだき、もう片方を、まるで赤子のように貪欲に吸い始める。
その舌先が、硬く尖った先端を執拗に嬲るたびに、ゆきの背筋を新たな快感の電流が走った。
「あ……ああ……っ! き、す……だめ……!」
三人の男たちによって、同時に三つの快感を与えられる。
もはや、どこからの刺激がどうなっているのか、思考が追いつかない。
ただ、快楽の奔流に、意識ごと呑み込まれていくだけだった。
「……ご主人、様……」
その時、ベッドの下の床に跪いていたセスが、懇願するように、震える声でゆきの名を呼んだ。
彼は、この神聖な儀式に参加することも許されず、ただその光景を見上げることしかできない。
その目に浮かぶのは、放置され虐められた歓喜と、そして仲間外れにされたことへの、深い絶望。
ゆきは、喘ぎながらも、その忠実な犬を見捨てはしなかった。
ベッドから、素足の一方を、そっと下ろす。
「セス。……私の可愛い駄犬。貴方は、私の足元がお似合いよ。私が、この男たちに穢されている間、私の足の先まで、貴方の忠誠心で清めなさい」
その言葉は、セスにとって、何よりもの福音だった。
彼は、涙を流しながら、ゆきの足にすがりついた。
そして、まるで聖体を拝むかのように、その足の指の一本一本を、丁寧に、熱心に、その舌で清め始めた。
四人の男。四つの欲望。四つの快感。
カイの力強い抽送が、ゆきの奥深くを抉り。
マルセルの巧みな舌が、ゆきの理性を奪い。
キースの貪欲な吸啜が、ゆきの上半身を支配し。
セスの献身的な奉仕が、ゆきの足元から、じわりと熱を伝えてくる。
そのすべてが、ゆきという一つの祭壇に捧げられていた。
ゆきは、もはや自分が誰なのかも分からなくなるほどの、快感の渦の中で、天を仰いだ。
「ああ……っ、あ……あぁ……!」
最初に限界を迎えたのは、カイだった。
彼は雄叫びを上げると、そのすべてをゆきの胎内に注ぎ込む。
その熱い奔流と同時に、ゆきの身体もまた、大きく痙攣し、一度目の絶頂を迎えた。
しかし、宴は終わらない。
カイが力尽きるのと入れ替わるように、キースがその場所を奪い取った。
彼の欲望は、先ほどまでの嫉妬で、さらに硬く、熱く、膨れ上がっている。
「ユキ……! 俺だけを、見て……!」
彼は、カイが与えたものとは比べ物にならないほどの、激しい衝動で、ゆきを突き上げ始めた。
その間も、マルセルのキスは止まず、セスの奉仕もまた、続いている。
二度、三度と、快感の波が寄せては返す。
ゆきは、朦朧とする意識の中、理解した。
ああ、これが、私が望んだ王国。
私のために争い、私のために憎み合い、そして、私の前で、一つになる。
「喧嘩はよして……」
ゆきが、掠れた声で呟いた。
その一言で、すべての男たちの動きが、ぴたりと止まる。
それでも男たちの動きが止まったのは、ほんの一瞬。
ゆきは、力尽きて自分から離れようとするカイの耳を掴み、その顔を引き寄せた。
「……どこへ行くの? 私が、もう満足したとでも?」
その瞳は、まだ悦びの熱に潤み、渇望に濡れている。
カイは、その悪魔的な女王の眼差しに、再び獣の唸り声を上げた。
彼の欲望は、一度果てたはずなのに、彼女の言葉一つで、いとも簡単に蘇る。
「ユキ……お前は、本当に……!」
「ええ。私、欲張りなの」
ゆきは、カイを再びその身に受け入れながら、ベッドの脇に控えるマルセルに視線を送った。
「マルセル。貴方の指は、まだ仕事が残っているでしょう? 私もっとあなたの指で感じていたいの……」
マルセルは、うっとりとため息をつくと、その芸術家のような指で、キースの激しい律動に揺れるゆきの身体を、なぞり始めた。
胸の尖りを優しく弾き、首筋を撫で、そして、二人が結合している、そのすぐ傍の花弁を、慈しむように刺激する。
外からの刺激と、内側からの激しい突き上げ。二重の快感に、ゆきの思考は快楽の色に染め上げられていく。
カイが二度目の絶頂を迎えるのと、マルセルの指によってゆきが新たな快感の頂に達するのは、ほぼ同時だった。
「ああっ!」
「んっ♡……ぁあ♡……はぁぁん♡……はっ♡……ぁ!」
二つの喘ぎ声が、部屋に重なる。
カイが今度こそ力尽き、ゆきの上から崩れ落ちる。その亡骸を、ゆきは無造作にベッドの脇へと転がした。
そして、次にその指先で招いたのは、マルセルだった。
「さあ、次は貴方の番よ、私の芸術家。貴方の美しさで、この私を、満たしてごらんなさい」
マルセルは、カイとキースによって荒らされた祭壇に、恭しくその身を捧げた。
彼の動きは、先の二人とは全く違う。
まるで、繊細な楽器を奏でるかのように、優雅で、芸術的で、そしてどこまでも官能的だった。
彼は、ゆきの身体に咲いた赤い花のひとつひとつに口づけを落とし、その美しさを讃えながら、ゆっくりと、しかし確実に、愛を伝える様に触れる。
「綺麗だ……ユキ……。男たちの欲望に染まった君は、どんな宝石よりも、退廃的で、美しい……」
「もっと……言って、マルセル……」
「ああ……僕の女神。僕だけの、マドンナ……!」
その時、ゆきは床に跪いたままの、最後の男に目をやった。
セスと呼ばれた忠犬は、びくりと身体を震わせる。
「貴方は、ずっとお預けね。……でも、もう待ちくたびれたでしょう?」
「ご、ご主人様……っ」
「来なさい。そして、私に口づけを。マルセルが奏でるこの調べを、貴方の舌で、もっと甘美なものにしてごらんなさい」
セスは、四つん這いのまま、ベッドに這い上がった。
そして、マルセルがゆきの身体を愛でている、そのすぐ傍らで、ゆきの唇を、まるで壊れ物に触れるかのように、恐る恐る、しかし熱心に貪り始めた。
彼の不器用で、しかしひたむきな口づけが、マルセルの芸術的な交わりとは違う、生々しい熱を加える。
やがて、マルセルが美しい声で喘ぎながら、その倒錯的な愛をゆきの中に注ぎ込んだ。
そして、ついに、最後の男の番が来た。
ゆきは、マルセルを優しく突き放すと、自らセスの上に跨った。
忠実な犬は、予期せぬ女王からの寵愛に、ただただ、震えることしかできない。
「さあ、私の可愛い犬。最後の褒美です。……光栄に思いなさい」
ゆきは、自らの手で、彼の忠誠の証を掴むと、それをゆっくりと、女王の玉座へと迎え入れた。
「―――っ!!」
セスは、声にならない悲鳴を上げた。
ゆきは、自らが主導権を握り、ゆっくりと腰を上下させ始めた。
見下ろす女王の圧倒的な姿と、その胎内に受け入れられたという至上の悦びに、セスの意識は何度も飛びかける。
その光景を、力尽きたはずのカイ、キース、マルセルが、嫉妬と羨望の入り混じった瞳で見つめている。
彼らの視線が、ゆきには快感へ導く最高のスパイスだった。
「ああ……ああ、あああああっ!」
ゆきは、セスの限界が近いことを感じると、さらに深く、速く、その腰を動かす。
四人分の欲望と快楽を一身に受け止めた身体が、今、最後の絶頂を迎えようとしていた。
「皆、私をよく見なさい……! これが、貴方たちが作り出した女王よ……!」
ゆきが叫んだ瞬間。
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そして、その熱い奔流を合図に、ゆきの身体もまた、今までのどれとも比較にならない、天と地が反転するほどの、絶対的な快感の頂点へと達した。
白い光が、視界のすべてを焼き尽くす。
どれほどの時間が流れたのか。
ゆきが意識を取り戻した時、彼女は四人の男たちの身体の上に、まるで勝利のトロフィーのように、ぐったりと横たわっていた。
カイの胸に頭を預け、キースの腕を枕にし、マルセルの足に脚を絡ませ、そして、セスの身体を、その下敷きにしている。
四人の男たちは、皆、燃え尽きたように、しかし至上の幸福に満たされた表情で、穏やかな寝息を立てていた。
「今宵は、ここまで。……全員、私の傍らで眠りなさい。私の、可愛い獣たち」
ゆきは、その光景を、満足げに見下ろした。
自分の肌には、四人の男たちの香りが、複雑に、そして甘美に、混じり合っている。
昨夜、自分の部屋の扉を開けた時、この結末を誰が想像できただろうか。無力な少女は、完全に死んだ。
この砦は、私のもの。
この男たちは、私のもの。
この世界のすべては、私のもの。
そして今、この辺境の砦に、四匹の猛獣をその身ひとつで従える、唯一無二の女王が、真の戴冠式を終えたのだ。ゆきは、そっと目を閉じた。
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