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15 セレナの居場所
しおりを挟む長い間、セレナを悩ませてきたクラーラ。そのクラーラは今、牢に居る。これからは、あの女に邪魔されることなく、夫と息子たちと過ごすことが出来るのだ。セレナは、結婚以来ずっと抱えていた胸のつかえが取れて、清々していた。
セレナは、ふとルーベンに尋ねた。
「ルーベン様。クラーラはその後、どうしているのですか?」
「…………私の両親の死について、関与を仄めかしているそうだ」
「……!?」
思いも寄らぬ夫の返答に、セレナは息を呑んだ。ルーベンの両親は、セレナがアルファーロ侯爵家に嫁いで来る2年前に、馬車の事故で亡くなっている。まさか、クラーラが関わっていたなんて――――
「あいつは私の両親を殺したうえに、更に私の大切な君をも殺そうとしたんだ。絶対に許さない。あんな女を妹のように思っていた自分の愚かさにも反吐が出る」
ルーベンは吐き捨てるように、そう言った。セレナは言葉が出て来なかった。
黙り込むセレナに、ルーベンは一転して優しい口調で話しかける。
「セレナ。何も心配しなくていい。あの女が君に近付くことは、もう決してないから安心してくれ」
「……はい」
セレナに対する殺人未遂だけでなく、ルーベンの両親を殺害したとなれば、クラーラが牢を出ることは、まず一生ないはずだ。それどころか処刑される可能性すらある。どちらにせよ、セレナがクラーラに会うことは、もうないだろう。
「ルーベン様。私、あの女の顔を二度と見たくありませんわ」
ルーベンの目が、一瞬ギラリと光った。
「わかってる。大丈夫だよ、セレナ。私に任せてくれ」
「任せてくれ」? ルーベンの言葉に違和感を覚えるセレナ。
「母上、どうしたの?」
「母上、大丈夫?」
気付くと、いつの間にかルシオとファビオがセレナのすぐ側まで来て、心配そうに彼女の顔を覗き込んでいた。
「え? ええ、何でもないわ」
慌てて笑顔を作るセレナ。
「母上、クラーラはもう来ないからね」
「母上、もう大丈夫だよ」
ルシオとファビオが、セレナの手をギュっと掴む。
「僕が母上を守るから安心して!」
「母上! 僕も!」
「えっ? あ、ありがとう……」
何故だろう? 理由の分からない微かな不安がセレナの胸をよぎった。
ルーベンが、息子たちの頭を愛おしそうに撫でる。
「ルシオ、ファビオ。私と一緒にずっとセレナを守っていこうな」
「「はい、父上!!」」
息子たちは嬉しそうにルーベンを見上げた。
事件から5ヶ月後、クラーラが獄中で亡くなった。持病が急激に悪化したそうである。セレナはその事実を、あの夜会以来、時折連絡を取り合っているバネッサから教えられた。持病の薬は、クラーラの実家から定期的に差し入れられていたはずだが……おそらく獄中の生活が身体に堪えたのだろう。
屋敷では、誰もクラーラについて触れない。あんなに頻繁にこの屋敷を訪れていたというのに――まるでクラーラの存在自体が最初から無かったかのようだ。
セレナはほんの少し、クラーラに憐憫の情を覚えた。
*************
「母上! 今日は孤児院に行く日でしょ? 僕も行きます!」
「母上ー! 僕も行くー!」
「あらあら、では一緒に行きましょう。ただし、ちゃんとお手伝いをしてね」
「「はい!!」」
仮の孤児院が完成し、屋敷で預かっていた幼児7人も今はそちらに移っている。ルシオとファビオは可愛がっていたその子たちに会いたがり、セレナの孤児院訪問に度々同行するようになっていた。積極的に小さい子の相手をしてくれるので、二人とも立派な戦力である。
夕方まで孤児院で過ごし息子たちと帰宅したセレナを、ルーベンが迎える。
「ただいま戻りました」
「おかえり、セレナ。孤児院の子達は元気だったかい?」
「ええ、とても」
笑みを零すセレナを抱き寄せ、額にキスを落とすルーベン。
穏やかな日々が過ぎて行く。
優しくて理解のある夫。素直で可愛い息子たち。
セレナは思う――自分の居場所は、大切な家族の居るこの場所なのだと――
もう、セレナを傷付ける者は誰もいなかった。
セレナを苛立たせる者さえ、不思議なほど現れない。
「私は本当に幸せ者ね。恵まれ過ぎて怖いくらいだわ」
セレナは口癖のように、そう言った。
微笑するセレナを満足そうに見つめるルーベンとルシオとファビオ。
セレナ、ここが君の終の居場所だよ。
母上の場所は僕たちが守るからね。
母上、ずっと一緒に居て。
「セレナ、愛してる」
「母上! 大好き!!」
「母上! 僕もー! 大好きー!!」
目障りな存在は全て排除するからね。安心してくれ、セレナ。
邪魔者は消してあげる。大丈夫だよ、母上。
イヤなヤツは居なくなればいいんだ! いつも笑ってて! 母上!
「ありがとう。私も愛してるわ」
終わり
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みんなの感想(14件)
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ホラー…(´-﹏-`;)
国王様、エライ人に側室を(;´∀`)
主人公の今後が…
久し振りに何度目か?の読み返しに来ました。(たまに読みたくなる)
息子達は兎も角、旦那の鈍さにムカつく💢💢(笑)
セレナがあっさり許してしまったのに物足りなさを感じてしまい…
これ、最後男三人 妻・母への罪の意識で壊れてしまってる感が怖い!!
読んでて。。。セレナが許さなかった場合話が読みたいな~
感想ありがとうございます。
ルーベンは極端な男です。幼馴染との関係がセレナにどう映るか全然わからなかったくせに、最後はセレナを守ろうとするあまりヤんでるし……
セレナはルーベンを許したというよりも、自分の居場所を守ったという感じでしょうか。
面白かったです😊
しかし最後…まさかの3人とも笑
似たもの親子だなw
でも国王様ももうちょっと分かりやすく説明して欲しかったですよね〜♫
でもそしたら、セレナ様そうそうに家出してたかもしれないから、結果良かったのかしら…?
感想ありがとうございます。
顔もそっくりだけれど、ヤバさもそっくりな危ない3人です……
国王は寡黙で渋~い男性というイメージなのですが、言葉が足りてませんよね~。