12 / 30
第二章 埋められた悪魔
第二節
しおりを挟む
次の日、ムムは痛む頭を押さえながら水を欲して身体を起こした。昨日は思ったより飲みすぎていたようだ。昨日の冷たい言葉に反して、松葉が執拗にムムの呑む手を止めようとしていたことが微かに蘇る。
これだからまっつーは。ムムは松葉のその好意を知っていながらそれを利用するような行動をする自分に反省をした。いつかは恩返しをしたいと思いながらも、具体的な目論みは何も思い浮かばない。それほど松葉はムムに尽くしているのだ。
「お人好しってわけでもないもんな」
松葉の性格上、ムムにしている行為がどれだけの好意を秘めているかなど、ムムには手に取るように分かる。そこまで鈍感ではないと自分を評価しているからだ。しかしそれがどういった種類の好意であるかまでは考えが及ばない。それがムムらしさだと、松葉がいれば鼻で笑うだろう。
水を注ぎながらムムは考える。もちろん内容は昨日の藍沢ユズのことだ。死体は間違いなく藍沢ユズであることが確認された。ムムにはよく分からないが遺伝子がどうとかいった確認方法だそうだ。松葉からの説明を受けたのだが、しかし、素人であるムムにはそれが確定したということしか理解できなかった。つまり、あの遺体は藍沢ユズ本人で間違いはないのだ。その上で、新たな問題が生じる。
あの手紙を書いたのはだれか、というものだ。ユズが死んで三年が経った今、持ち物を処分してくれと手紙を送った意図は何か。江ノ墓地で見つかったのは何故か。小さな問題がいくつも現れては消えていく。
飲んだコップをそのままに、ムムは天を仰いだ。謎が溜まっていくままで、解決の糸口が何もない。
何か、そう、きっかけが必要だ。糸の先を手繰り寄せるための。
*
外を出たムムが最初に目にしたのは青い空だった。今日は天気がいいらしい。どこまでも澄んだ青にしかめっ面をしたムムは、自分の大事なカラコンをつけていないことに気づく。
赤。アレがないと始まらない。
カラコンを付けに帰ろうとした足が止まる。カラコンがなければ、もしかすれば、赤下ムムとして見られなかったものが見えてくるかもしれない、とそう思ったのだ。ムムとしてではなく、誰か分からない人として、江ノを歩き回ってみよう。ムムは決意を固めた。
いつもなら無造作に伸ばしている髪を無理やり帽子の中に隠す。"少しでも印象を変えたければ、面積が大きいものから変える"理論的に言えば当然なことなのだ。ムムはふと考えて、いつものようなカジュアルと形容できる服をやめ、クローゼットから履いた記憶も、ましてや買った記憶もないスカートを取り出した。テーマは、そう、流行に敏感な女性。ムムは完全に乗り気で自身をテーマに合わせたものへと変えた。
外に出る時の靴や香水に至るまで、その全てを女性らしい格好へと変えたムムは、優雅に背筋を伸ばしながら江ノを見渡した。
ムムとして見ていた世界はどこか曇っていたらしい。青くウザさしかなかった空は心を晴れ渡らせ、ムムの顔色を輝かせるものに変える。ムムは少しだけ昔に戻った気分になった。昔の、そう、高校生の頃に。
ムムが高校生の頃、不運にも一人の親友が命を落とした。火災に巻き込まれ、そのまま死亡。大きく空を広がる炎に焼かれたのだ。死因は灰になり分からずじまいだが、それでも焼死したのは間違いない。その炎を忘れないようにと、ムムは自分に罪を課した。それがあの赤いカラコンだ。これから先、ずっとあの事件を忘れないように。そして、いつか必ず犯人を捕まえるために。
被害者であるムムの親友の名前は、灰木カノンである。
これだからまっつーは。ムムは松葉のその好意を知っていながらそれを利用するような行動をする自分に反省をした。いつかは恩返しをしたいと思いながらも、具体的な目論みは何も思い浮かばない。それほど松葉はムムに尽くしているのだ。
「お人好しってわけでもないもんな」
松葉の性格上、ムムにしている行為がどれだけの好意を秘めているかなど、ムムには手に取るように分かる。そこまで鈍感ではないと自分を評価しているからだ。しかしそれがどういった種類の好意であるかまでは考えが及ばない。それがムムらしさだと、松葉がいれば鼻で笑うだろう。
水を注ぎながらムムは考える。もちろん内容は昨日の藍沢ユズのことだ。死体は間違いなく藍沢ユズであることが確認された。ムムにはよく分からないが遺伝子がどうとかいった確認方法だそうだ。松葉からの説明を受けたのだが、しかし、素人であるムムにはそれが確定したということしか理解できなかった。つまり、あの遺体は藍沢ユズ本人で間違いはないのだ。その上で、新たな問題が生じる。
あの手紙を書いたのはだれか、というものだ。ユズが死んで三年が経った今、持ち物を処分してくれと手紙を送った意図は何か。江ノ墓地で見つかったのは何故か。小さな問題がいくつも現れては消えていく。
飲んだコップをそのままに、ムムは天を仰いだ。謎が溜まっていくままで、解決の糸口が何もない。
何か、そう、きっかけが必要だ。糸の先を手繰り寄せるための。
*
外を出たムムが最初に目にしたのは青い空だった。今日は天気がいいらしい。どこまでも澄んだ青にしかめっ面をしたムムは、自分の大事なカラコンをつけていないことに気づく。
赤。アレがないと始まらない。
カラコンを付けに帰ろうとした足が止まる。カラコンがなければ、もしかすれば、赤下ムムとして見られなかったものが見えてくるかもしれない、とそう思ったのだ。ムムとしてではなく、誰か分からない人として、江ノを歩き回ってみよう。ムムは決意を固めた。
いつもなら無造作に伸ばしている髪を無理やり帽子の中に隠す。"少しでも印象を変えたければ、面積が大きいものから変える"理論的に言えば当然なことなのだ。ムムはふと考えて、いつものようなカジュアルと形容できる服をやめ、クローゼットから履いた記憶も、ましてや買った記憶もないスカートを取り出した。テーマは、そう、流行に敏感な女性。ムムは完全に乗り気で自身をテーマに合わせたものへと変えた。
外に出る時の靴や香水に至るまで、その全てを女性らしい格好へと変えたムムは、優雅に背筋を伸ばしながら江ノを見渡した。
ムムとして見ていた世界はどこか曇っていたらしい。青くウザさしかなかった空は心を晴れ渡らせ、ムムの顔色を輝かせるものに変える。ムムは少しだけ昔に戻った気分になった。昔の、そう、高校生の頃に。
ムムが高校生の頃、不運にも一人の親友が命を落とした。火災に巻き込まれ、そのまま死亡。大きく空を広がる炎に焼かれたのだ。死因は灰になり分からずじまいだが、それでも焼死したのは間違いない。その炎を忘れないようにと、ムムは自分に罪を課した。それがあの赤いカラコンだ。これから先、ずっとあの事件を忘れないように。そして、いつか必ず犯人を捕まえるために。
被害者であるムムの親友の名前は、灰木カノンである。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる