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第1章
プロローグ
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陸国のほぼ中央にある一軒家。
そこでは2人の男、『樫』と『蔦』が夫婦同然の暮らしをしている。
恋人であり、同居人であり、仕事仲間であり、そして夫夫の2人。
彼らは朝日が射し込む頃に同じ寝台で目覚め、揃って食事をし、仕事をするのも隣同士というほど、四六時中一緒に行動している。
だが、互いにそれを不便に思っているわけではない。
2人はそれぞれ少し特殊な体質、性格をしているため、互いが互いになくてはならない存在であり、むしろそうして一緒に過ごす方が居心地が良いのだ。
ーーーーーーーーー
「…なにしてるんだ、樫……」
朝日が窓から射し込む爽やかな朝。
目覚めた樫が寝台を降りようとすると、隣で同じ寝具に包まっていた蔦に腕を掴んで引き止められる。
寝起きであまり力の入っていない手がサワサワと素肌に触れるとくすぐったくてたまらず、樫は「やめろよ…」とその手から逃れようとした。
「朝だよ、朝。おまえも起きろ」
「ん…」
「起きろってば。まったく…とっくに目を覚ましてたくせに」
寝具の中でひとしきりもがき、寝台から逃すまいとしていた蔦の細い腕からようやく逃れることができた樫。
そのまま寝台から降りるものの、捕まえていた相手を逃してしまった腕の主は不満そうに寝具から顔を出して目を細めた。
蔦は色白で、線の細さが印象的な男だ。
寝癖によって毛先のはねた髪も相まって、まるで親鳥の翼の間から外を伺う雛のようにも見える。
樫が『まだ寝っ転がっていたい』と言いたげな蔦の頬を軽くつまんで起きるよう促すと、蔦はふくれっ面になって「誰のせいだ…誰のせいなんだよ…自分のこと、棚に上げて…」と唇を尖らせた。
「俺はお前の2倍も3倍も疲れてるんだぞ…もうちょっとくらい いいだろ…」
「おまえ…俺の2倍も3倍も気持ち良くなってたんじゃないのか。そもそも昨日先に仕掛けてきたのは…」
「………」
反論するのをやめた代わりに、さらにしかめっ面になった蔦。
どうやら今朝の気だるさは…いつもよりもずっとひどいらしい。
そんな蔦の表情に樫は少々昨夜の自分の行動に対して反省の意をもちつつ「…分かったよ」と首を横に振った。
「おまえは俺よりも疲れてるんだ。もう少し横になっておけよ。その代わりに俺は朝ご飯を…」
「あぁ、いやいや、起きるよ……起きるから…手ぇ貸して、ほら…早く」
「なんだよ、もう」
寝具の中からまっすぐ上に向かって伸びた蔦の両腕を引っ張って上体を起こしてやると、それまで薄目だった彼の目が少しずつ開き始めた。
「料理は…樫に任せるとよくないからな。丸焦げか生煮えか…」
「おい」
「事実だろ」
ーーーーーーー
そんなやり取りから始まる2人の毎日。
彼らの出逢いと始まりは何もかもが急だった。
これはそんな彼らの物語だ。
そこでは2人の男、『樫』と『蔦』が夫婦同然の暮らしをしている。
恋人であり、同居人であり、仕事仲間であり、そして夫夫の2人。
彼らは朝日が射し込む頃に同じ寝台で目覚め、揃って食事をし、仕事をするのも隣同士というほど、四六時中一緒に行動している。
だが、互いにそれを不便に思っているわけではない。
2人はそれぞれ少し特殊な体質、性格をしているため、互いが互いになくてはならない存在であり、むしろそうして一緒に過ごす方が居心地が良いのだ。
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「…なにしてるんだ、樫……」
朝日が窓から射し込む爽やかな朝。
目覚めた樫が寝台を降りようとすると、隣で同じ寝具に包まっていた蔦に腕を掴んで引き止められる。
寝起きであまり力の入っていない手がサワサワと素肌に触れるとくすぐったくてたまらず、樫は「やめろよ…」とその手から逃れようとした。
「朝だよ、朝。おまえも起きろ」
「ん…」
「起きろってば。まったく…とっくに目を覚ましてたくせに」
寝具の中でひとしきりもがき、寝台から逃すまいとしていた蔦の細い腕からようやく逃れることができた樫。
そのまま寝台から降りるものの、捕まえていた相手を逃してしまった腕の主は不満そうに寝具から顔を出して目を細めた。
蔦は色白で、線の細さが印象的な男だ。
寝癖によって毛先のはねた髪も相まって、まるで親鳥の翼の間から外を伺う雛のようにも見える。
樫が『まだ寝っ転がっていたい』と言いたげな蔦の頬を軽くつまんで起きるよう促すと、蔦はふくれっ面になって「誰のせいだ…誰のせいなんだよ…自分のこと、棚に上げて…」と唇を尖らせた。
「俺はお前の2倍も3倍も疲れてるんだぞ…もうちょっとくらい いいだろ…」
「おまえ…俺の2倍も3倍も気持ち良くなってたんじゃないのか。そもそも昨日先に仕掛けてきたのは…」
「………」
反論するのをやめた代わりに、さらにしかめっ面になった蔦。
どうやら今朝の気だるさは…いつもよりもずっとひどいらしい。
そんな蔦の表情に樫は少々昨夜の自分の行動に対して反省の意をもちつつ「…分かったよ」と首を横に振った。
「おまえは俺よりも疲れてるんだ。もう少し横になっておけよ。その代わりに俺は朝ご飯を…」
「あぁ、いやいや、起きるよ……起きるから…手ぇ貸して、ほら…早く」
「なんだよ、もう」
寝具の中からまっすぐ上に向かって伸びた蔦の両腕を引っ張って上体を起こしてやると、それまで薄目だった彼の目が少しずつ開き始めた。
「料理は…樫に任せるとよくないからな。丸焦げか生煮えか…」
「おい」
「事実だろ」
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そんなやり取りから始まる2人の毎日。
彼らの出逢いと始まりは何もかもが急だった。
これはそんな彼らの物語だ。
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