1 / 36
プロローグ
しおりを挟む
アルファとベータとオメガ。
人々には男女を示す第1性別とは別に、それら3つを示す第2性別がある。
体格などに優れたアルファ、一般的な性質であるベータ、そして第1性別に関わりなく男性でも妊娠などが可能なオメガだ。
ほとんど見た目では分からないその第2性別を判別するのに役立つものがアルファとオメガのみが放ったり感じたりすることができるという【香り】であり、生後5ヶ月ほどになると陸国ではどの赤子も必ずそうした特性を利用した第2性別の判定を行うことになっている。
判定の仕方はいたって単純だ。
医師立ち会いの下、まだ誰とも番っていない成人したアルファとオメガそれぞれに赤子を抱き上げてもらい、赤子がオメガに反応を示せばアルファ、アルファに反応を示せばオメガ、どちらにも顕著な反応を見せなかった場合はベータと判定するのだ。
赤子の両親はそうして判明した第2性別に従ってその子が将来【香り】などに左右されずきちんとした生活を送ることが出来るようにと導いていくことになる。
この判別をするには生後6ヶ月という時期がもっとも適しているのだが、それは赤子が他の感情などの要因に惑わされることなく一番純粋に分かりやすい反応を示す頃だとされているからであり、そうして判定された第2性別はまず間違っていることはない。
そう。その結果というのは実際かなり正確なのである。
しかし、その正確な判定結果に対して疑問をもつ1人の男がいた。
陸国の鉱業地域と酪農地域を隔てる大通り【鉱酪通り】。
その大通りの鉱業地域側にある荷車整備工房で働く『夾』という整備職人は、まさにその生後5ヶ月の頃の判定でオメガとされたものの、同年代の子供達が【香り】を放つようになってからも一向にその兆候を見せることなく オメガらしい経験を何一つ体験しないまま成人していて、自身が男性オメガであるということをどうにも信じることができずにいたのだ。
彼は幼い頃から自身が男性オメガであると聞いて育ちはしたが、元々男性オメガは圧倒的に数が少なく、広い陸国全体から見ても数えるほどしかいないとされているため、自分以外の男性オメガに一切会ったことがなかった。
つまりそれまでに会ったことのあるオメガといえば必然的に女性オメガばかりであったわけだが、その女性オメガ達はオメガの特性もあってなのか可憐な雰囲気を纏っていることがほとんどであり、【香り】がどうこう以前に体つきも何もかもが違う男性体の自分が彼女達と同じであるとはとても思えなかったのだ。
それにかかりつけの医師にも『この年齢になっても香りを放たないというのは少し珍しいと思います』と言われれば、彼が自分のことを『ベータではないにせよ不完全なオメガなんだ』と思ってもおかしくはないだろう。
そもそも【香り】というのは対となる性の人と番になる際などには必須のものであり、アルファやオメガにとってはなくてはならない非常に重要なものだ。
そのためそれがまったくないとなると将来的に発生するであろう心身の健康への影響は多岐にわたると考えられ、ただの体質の問題だとして片付けられるような話ではなく、夾のことを大切に育ててきた彼の祖父母や兄はとても心配していた。
しかし実際に一番思い悩んでいたのは夾自身だった。
彼は自分の体が一向に【香り】を放つ気配がないことに対して一時期とても悩んでいたのだ。
知識としてオメガが…いや、男性オメガが番となったアルファの子を産むことができるということを知った彼は、まだ子供の時分から『自分はどんな【香り】の持ち主に心惹かれることになるのだろうか』『子を産み育てるというのはどんな感じなのだろうか』『いつか自分も他の番達のように仲睦まじく想い合えるアルファに出逢えるのだろうか』というようなことを考えてはひそかに自分の【香り】が放たれる日を待っていたのだが、その日はいつまで経っても訪れることなく、月日を重ねるごとに増してゆく落胆と苦悩を抱えながら10代を過ごした。
どれだけ思い悩んだとしても状況は変わらないと分かっていたが、それでも自分のオメガ性が放つ【香り】に想いを馳せずにはいられなかったのだ。
それでもついに一度も【香り】を放つことなく成長し、オメガであるという確証も、はたまたオメガではないという確証も、そのどちらもないという曖昧な中で生きてきた夾。
(俺はオメガだけどオメガじゃない。どっちつかず、中途半端な体で…やっぱり本当はベータなんじゃないだろうか)
だが人生というのはいつ何時どのような変化が訪れるか分からないものだ。
いつまで経っても発現しないオメガ性を諦めつつ今更その状況が一転することになるとは思いもしていなかった彼にも、ある日思いがけない変化が訪れることになるのだった。
人々には男女を示す第1性別とは別に、それら3つを示す第2性別がある。
体格などに優れたアルファ、一般的な性質であるベータ、そして第1性別に関わりなく男性でも妊娠などが可能なオメガだ。
ほとんど見た目では分からないその第2性別を判別するのに役立つものがアルファとオメガのみが放ったり感じたりすることができるという【香り】であり、生後5ヶ月ほどになると陸国ではどの赤子も必ずそうした特性を利用した第2性別の判定を行うことになっている。
判定の仕方はいたって単純だ。
医師立ち会いの下、まだ誰とも番っていない成人したアルファとオメガそれぞれに赤子を抱き上げてもらい、赤子がオメガに反応を示せばアルファ、アルファに反応を示せばオメガ、どちらにも顕著な反応を見せなかった場合はベータと判定するのだ。
赤子の両親はそうして判明した第2性別に従ってその子が将来【香り】などに左右されずきちんとした生活を送ることが出来るようにと導いていくことになる。
この判別をするには生後6ヶ月という時期がもっとも適しているのだが、それは赤子が他の感情などの要因に惑わされることなく一番純粋に分かりやすい反応を示す頃だとされているからであり、そうして判定された第2性別はまず間違っていることはない。
そう。その結果というのは実際かなり正確なのである。
しかし、その正確な判定結果に対して疑問をもつ1人の男がいた。
陸国の鉱業地域と酪農地域を隔てる大通り【鉱酪通り】。
その大通りの鉱業地域側にある荷車整備工房で働く『夾』という整備職人は、まさにその生後5ヶ月の頃の判定でオメガとされたものの、同年代の子供達が【香り】を放つようになってからも一向にその兆候を見せることなく オメガらしい経験を何一つ体験しないまま成人していて、自身が男性オメガであるということをどうにも信じることができずにいたのだ。
彼は幼い頃から自身が男性オメガであると聞いて育ちはしたが、元々男性オメガは圧倒的に数が少なく、広い陸国全体から見ても数えるほどしかいないとされているため、自分以外の男性オメガに一切会ったことがなかった。
つまりそれまでに会ったことのあるオメガといえば必然的に女性オメガばかりであったわけだが、その女性オメガ達はオメガの特性もあってなのか可憐な雰囲気を纏っていることがほとんどであり、【香り】がどうこう以前に体つきも何もかもが違う男性体の自分が彼女達と同じであるとはとても思えなかったのだ。
それにかかりつけの医師にも『この年齢になっても香りを放たないというのは少し珍しいと思います』と言われれば、彼が自分のことを『ベータではないにせよ不完全なオメガなんだ』と思ってもおかしくはないだろう。
そもそも【香り】というのは対となる性の人と番になる際などには必須のものであり、アルファやオメガにとってはなくてはならない非常に重要なものだ。
そのためそれがまったくないとなると将来的に発生するであろう心身の健康への影響は多岐にわたると考えられ、ただの体質の問題だとして片付けられるような話ではなく、夾のことを大切に育ててきた彼の祖父母や兄はとても心配していた。
しかし実際に一番思い悩んでいたのは夾自身だった。
彼は自分の体が一向に【香り】を放つ気配がないことに対して一時期とても悩んでいたのだ。
知識としてオメガが…いや、男性オメガが番となったアルファの子を産むことができるということを知った彼は、まだ子供の時分から『自分はどんな【香り】の持ち主に心惹かれることになるのだろうか』『子を産み育てるというのはどんな感じなのだろうか』『いつか自分も他の番達のように仲睦まじく想い合えるアルファに出逢えるのだろうか』というようなことを考えてはひそかに自分の【香り】が放たれる日を待っていたのだが、その日はいつまで経っても訪れることなく、月日を重ねるごとに増してゆく落胆と苦悩を抱えながら10代を過ごした。
どれだけ思い悩んだとしても状況は変わらないと分かっていたが、それでも自分のオメガ性が放つ【香り】に想いを馳せずにはいられなかったのだ。
それでもついに一度も【香り】を放つことなく成長し、オメガであるという確証も、はたまたオメガではないという確証も、そのどちらもないという曖昧な中で生きてきた夾。
(俺はオメガだけどオメガじゃない。どっちつかず、中途半端な体で…やっぱり本当はベータなんじゃないだろうか)
だが人生というのはいつ何時どのような変化が訪れるか分からないものだ。
いつまで経っても発現しないオメガ性を諦めつつ今更その状況が一転することになるとは思いもしていなかった彼にも、ある日思いがけない変化が訪れることになるのだった。
23
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる