その杯に葡萄酒を~オメガバ―ス編~

蓬屋 月餅

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第1章

3「特別な一杯」

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  診療所での偶然の出会いによって新たに琥珀と黒耀というつがいの男達と友人になった夾は、それからというもの、ほぼ毎日のように【觜宿ししゅくさかずき】で彼らと顔を合わせては話をするようになっていた。
 明るく社交的な性格をしている琥珀と落ち着いた性格の黒耀はなんということもない話をしながらも夾が漠然と抱いていた不安などを取り去っていってくれるような温かく面倒見の良い人達であり、夾は2人のことを頼れる兄のような存在だと思うようになっていったのだ。
 彼らが親交を深めるのに全く時間がかからなかったのも不思議ではないだろう。
 黒耀と琥珀は元々この【觜宿の杯】の常連であり、それこそよくここで食事や酒を楽しんでいたそうなのだが、つがいとなって子を儲けて以降はここを訪れる機会が少なくなっていたらしい。
 しかし夾と知り合ってから、彼らは子供達が学び舎の長期休みを終えて家に帰ってきた後も ほとんど毎日のようにどちらかだけでも必ず【觜宿の杯】へ来て料理を頼み、そしてそれを持ち帰るようになった。
 夾は琥珀達が自分に気を遣ってわざわざ【觜宿の杯】に来ているのではないかと思っていたのだが、琥珀はそうではないのだと少し気まずそうにしながら言う。

「こんなこと言うの、ちょっと恥ずかしいんだけどさ…僕達はあんまり料理が上手じゃないんだ。僕も黒耀も料理ができなくてね、味が悪いってわけじゃないんだけど とにかく作るのに時間がかかるんだよ。手際良くできない…っていうのかな。子供達が生まれる前から頑張って練習してはいたんだけど未だにそれは変わらなくてさ、それこそ僕と黒耀の2人きりだった時はそれでも構わなかったんだけど…やっぱり子供がいるとあんまり時間かけて用意してるわけにもいかないし、時々僕の実家から料理を分けてもらったりしてなんとか用意してたんだ。本当はここで料理をもらっていった方が楽なんだよなぁとは思ってたんだけど、でもなんとなくそのままズルズルとね」

「さすがに今でも1品くらいは必ず僕か黒耀で用意するようにはしてるけど、こうやって料理を持ち帰ると僕達も負担がないし、子供達も品数多く食べれるしでお互いに良いんだ。もっと早くそうしとけば良かったねって黒耀とも話してるところなんだよ」

 夾は昔から料理が出来る方であり、手際の良さもそこそこであるため、いまいち琥珀の言う『料理をするのにとにかく時間がかかる』という感覚がよく分からなかったのだが、しかし「頑張って作ってもさ、ここでもらっていった料理の方を美味しそうに食べてる姿見たら…もうそれでいいかってなるんだよね」と言う寂しそうな横顔を見ると何だか少しその気持ちが分かったような気がしたのだった。
 そんな琥珀達にも1品か2品くらいはよく作る得意料理があるそうで、それらを振舞うと子供達は本当に喜んでくれるのだという。
 きっと彼らの食事事情に関してはそのようにするのが最も良いのだろう。
 それにこういった『中食なかしょく』というのは陸国では珍しくもないことなので、むしろそれを活用することで家族との時間を多くとることができるのならばその方がいいに違いない。

 とにかくそうして早めの夕食の時間を黒耀や琥珀と共に【觜宿の杯】で過ごすようになった夾。
 だが、なんとさらに彼は『セン』とも接点を持つようになっていた。
 しばらくは裏の調理場での仕事に専念することになっていたはずの『セン』と夾との間になぜそのような接点が生まれたのかというと、それは『セン』がまた以前のように表に出てきて仕事をするようになったからなのだ。
 というのも【觜宿の杯】は酒場だということもあって誰かが酒を頼むと直接目の前で注文した酒類を用意することになっているのだが、まだそれらの用意をするのは仕事を手伝っている若い兄弟には荷が重かったようで、結局裏方に回っていた『セン』が元通りその仕事を担うことになったのである。
 そうして必然的に夾と『セン』は顔を合わせるようになったというわけだ。
 初めは警戒するように遠巻きにしていた『セン』は、琥珀達と和やかに話をしている夾の様子を見て徐々にその会話に混ざるようになり、そしてその流れから夾も少しずつ彼のことを知っていった。
『セン』が『せん』という愛称であるということ
年は夾の5歳上であるらしいということ
生まれも育ちも酪農地域だということ
兄弟で食堂と酒場をそれぞれ切り盛りしているということ
色々な酒類を組み合わせて新たな一杯を作り出すのが上手いこと…など。
 それこそ『せん』はあまり積極的に自分のことを語るというわけではなく、本名も明かさないままだったが、琥珀達との何気ない会話を交わしつつ彼のことを知れていくとなんだか距離が縮まった気がして夾はひそかに嬉しく思ったものだ。
 そして『せん』が仕事をしている姿を直接目にしながら、夾はあらためてこの男の美しさ、格好良さに目を奪われた。
ピシっと着込んだ釦付きのシワ1つない衣が良く似合う 長身細身なその体
しなやかで繊細な印象を受ける指
油灯の明かりを受けてキラキラと輝く明るい赤銅色の髪
仕事に対する丁寧な姿勢
どんな人とも話題を合わせて話すことが出来る類稀な話術
 その一つ一つがなぜか気になって、夾は度々琥珀達と会話をしながらも目の端で『せん』の姿を追うなどしていた。
 実のところ夾や琥珀達は夕方の早い時間にこの【觜宿の杯】へ集まっているため、酒類などが多く注文され始める前にはそれぞれ帰途についてしまっているのだが、しかし背後の壁に備え付けられた酒棚から目的の酒瓶を迷うことなく取っては分量を正確に量りとり、他の酒類と混ぜ合わせて提供するというその『せん』による一連の動作はひとたび目にすれば忘れることが出来ないほど洗練されていて素晴らしいのだ。
 夾はそんな姿に見惚れてつい【香り】を放ちそうになたこともあったため、それ以降はお守りとして持っていたごく弱い効き目の抑制薬(効果時間約1~2時間程度のもの)を服用してから【觜宿の杯】へと向かうようになっている。
 直接的に距離が縮まるというようなことはなかったが、それでも夾の生活は着実にそれまでとは大きく異なるものへと変化していた。


ーーーーーー


「ねぇ!コウちゃんさ、今日酪農地域に来てなかった?ちらっと見かけたんだけど…馬を連れてきてたよね、あれってコウちゃんだったんじゃない?」

 初秋の頃の出会いから2ヵ月ほどが過ぎ、すっかり肌寒い季節になったある日のこと。
 夾がいつものように【觜宿の杯】へ向かうと すでにそこには琥珀がいて、身体を温めるために提供されたらしい白湯を飲みながらにこにこと話しかけてきた。
 夾は「あっ、ご覧になってたんですか」と席に着きながら頷く。

「そうです、今日は工房で預かっていた馬を酪農地域の馬房まで連れに行く用事がありまして。ついでにそのまま車輪の調子が悪いものだとかを見てくれと言われたので、いくつか修理のために持ち帰ったりもしました」
「あぁ、だからか!次見たときにはすごい荷物を抱えて帰っていってたみたいだから どうしたのかなと思ってたんだ。あれだけの木材とかを抱えて帰るのは大変でしょ?」
「いえ、なんともないですよ、あれくらいなら。いつももっと重いものを持ったり運んだりしてますからね、大型の荷車なんかだと車輪一つだけでも結構な重さになりますし」

 夾が疲れた様子すら見せずに言うと琥珀は「わぁ…すごく力持ちなんだね」と感心したように言った。
 一般的に男性オメガというのはベータの男性よりも少し筋肉量などが少なく、力も弱いことが多いとされている。
 しかし夾は日々の鍛錬のゆえか力仕事である荷車整備を難なくこなすほどの筋力を誇っていて、そこらの男達よりも重いものを難なく持てるくらいになっているのだった。
 夾が男性オメガだと知っている琥珀はそうした部分に驚いたのだろう。

「まったく、いつもそんな楽しそうにして。よく話が尽きないな」

 2人が和やかに話をしているところへ 奥の調理場の方から器に入った料理を持ったせんが出てきた。
 夾が小さく会釈をすると、琥珀は差し出された料理を受け取りながら「話したいことはいくらでもあります~、コウちゃんと話すのはすごく楽しいもん」とにこやかに言って、そばに置いてあったかごへとその料理を詰め始める。
 どうやらこの料理は夾が来る前に注文しておいていたものらしい。
 いつもであればこんなにも早く料理を注文していることはないのに、と夾が思っていると、琥珀はそれから「じゃあ僕、今日はこれで帰るね、またねコウちゃん!」とかごを持って席を立とうとした。

「えっ、今日はずいぶんと早く帰るんですね」

 夾が驚いて訊ねると琥珀は「うん、実は今日は上の子の誕生日でさ」と頬を綻ばせる。

「家族でお祝いするんだ、焼き菓子は今黒耀が頑張って作ってるよ。僕もこれからもう何品か作って大好物をたくさん用意してあげるつもり」

 えへへ、と心から嬉しそうに微笑む琥珀。

「えっ、そうだったんですか、それは…それは本当におめでとうございます、上の子はたしか8歳でしたよね?ということは9歳になったんですか」
「うん!そうだよ、今日で9歳になったの!もーっ、子供の成長って本当に早いものでさぁ…ふふっ、ついこの間まで赤ちゃんだと思ってたのにね。毎年この誕生日が来る度にびっくりしちゃうよ。ありがとうね、コウちゃん!」
「いえ、そんな…」

 琥珀が見せた穏やかな表情に夾は思わずほぅっと息をついた。
 それは夾が昔憧れたつがいのいる男性オメガの姿そのものであり、まさに彼の理想の姿だったのだ。
 つがいと共に子を育て、その成長を見守るということ。
 けっして1人では実現できない夢であり、生活だ。
 自分もあんな風になれたらどんなに良いだろうかと考えてしまうが、しかしその域に達するには相当険しい道のりが待っているに違いない。
 荷物をまとめて立ち去ろうとするそんな琥珀を心底羨ましく思ってしばし言葉もなく見つめてしまっていた夾。
 だが彼は次の瞬間にはハッとして「あっ、じゃあ俺も帰ります、今日は」と慌てて立ち上がった。

(さすがにここに1人でいるのはちょっと…琥珀さんか黒耀さんがいるからなんとかここで食事ができてたのに…!)

 まだ料理を頼んでもいない夾は琥珀がこのまま帰ってしまうと実質1人で食事の始めから終わりまでをせんと過ごすことになってしまうため、それならいっそここで帰ってしまった方が良さそうだと考えたのだ。
 しかし琥珀に「え?いいじゃん、コウちゃんはここで食べていきなよ」と再び席に座らせられてしまう。

「今日の献立には前にコウちゃんが美味しいって言ってたやつがあるんだよ?次はいつ出るか分からないんだし、ゆっくりここで食べていったらいいよ。そんな慌てて帰らなくても、ね?」
「えっ、いえでもそれは…」
「センだってその方がいいと思うよね?」

 琥珀は目の前の長机を挟んだ向こう側にいるせんへと唐突に話を振った。
 そのせんこそ、まさに夾が帰ろうとしている理由なのだが…それを言い出せずに夾が気まずく思っていると、せんは「…あぁ」と口を開く。

「べつにこのままここで食べていったらいいのに」
「ほら、ね?センもそう言ってることだし コウちゃんはここでゆっくりしていきなってば!第一、このまま帰っちゃったら夕飯はどうするの?せめて料理を持ち帰るとかしないと困っちゃうでしょ、ね?」

 琥珀の言うことももっともであり、その上 せんにもそう言われてしまうといよいよ夾は帰りづらくなってしまう。
 結局彼は「じゃ、僕は帰るね!また明日~」と【觜宿の杯】を出ていく琥珀を見送り、初めて【觜宿の杯】で1人 長い時間を過ごすことになった。
 今はまだ人々が夕食にするには早い時間なので、【觜宿の杯】の中はもちろん 隣の【柳宿の器】にも他に人はおらず、本当に夾とせんしかいないという状況が出来上がってしまう。
 にわかに緊張してしまう夾だが、せんはあくまでも【觜宿の杯】のあるじとしてなのか緊張している様子も気まずそうな様子も見せずに夾に話しかけてきた。

「…今日の献立はこんな感じですけど、どうしますか。なにを召し上がりますか」

「いつも木の実の炒め物だとかをよく注文されてますけど、今日もそうしますか」

  せんがあまりにも普通に接してくるのですっかり面食らってしまった夾は、手渡された献立表を見て「あ…そうですね、それじゃあこの木の実の炒め物と、それから…」といくつかの料理を注文することにする。
 料理の好みを察されていたことに夾が驚きながらも気恥ずかしく思っていると、璇はさらに「木の実炒めがお好きなんですね」と話す。

「献立に入っていると必ず注文していますけど、炒め物がお好きなんですか」

 夾はまた驚いてしまった。
 まさかせんからそのようにして食の好みに関する話をされようとは…これまでには一切なかったことである。
 そのため彼は少しぎこちなくなりながら「炒め物…というよりも木の実が好き、なんです」となんとか答えた。

「工芸地域では木の実がよく採れるということもあって何かと料理に使われていたりするんですけど、俺は工芸地域で育ったので木の実は子供の頃からよく口にしていて…物心ついた時から好きだったんです。ここの木の実の炒めものはとても美味しいし、献立にあるといつも頼みたくなってしまって」
「そうだったんですか」
「木の実を使ったお菓子とかもすごく好きなので、子供の頃はいつも自制するのが大変でした。今ではそういったものを食べる機会が少ないのでむしろ助かってます、やっぱり食べすぎはよくないですから」

 一体どういう風の吹き回しなのかと混乱する夾をよそに、璇は「そんなにお好きなんですか」と 白湯を一杯出すと、注文された料理の用意をしに奥の調理場へと下がっていった。
 琥珀達に対してするような くだけた話し方や態度とは異なるところからしても、璇が夾のことをそこまで親しく思っていないことは明らかだ。
 しかし璇からの声がけはそれだけにとどまらなかったのである。
 料理を運んできた後、璇は皿を机に置きながら言った。

「…お飲み物はお茶でいいんですか。なにかお好みの酒類があればご用意しますけど」

 再びそんな風にして話しかけられた夾はまだ少しぎこちなさを残していたものの、料理を頼んだ時よりは少し人が増えてきて完全な2人きりという状況を脱していたおかげもあってか「あぁ、いえ、お酒は…仕事で結構朝早く出たりもするのであんまり飲まないんです」と自然に答えることができる。

「普段飲まないので、そもそもどんなものが好みだとかいうのもよく分からなくて…すみません、ここは酒場なのに」
「いえ。いつもこの後ろの酒棚をご覧になっているようでしたので注文しかねていたのかと」
「それは…ただ色んな酒瓶がこうやって並んでいるのがすごく綺麗だなと思って見てしまっていただけなんです。俺にはどれがどんなお酒だとかは分かりませんけど、でもきっと風味とかがみんな違うんでしょうね」

 夾が酒棚の中の1本を指して「こういう表記のものとかも綺麗ですよね」と素直に話すと、璇は少し考えてから「せっかくならこれを使って一杯お造りしましょうか」と提案した。

「これは香り付けのためのものなので、厳密には酒ではないんです。酒類の代わりにお茶などを使えば風味を似せたものができますから、もしよかったらご用意しますけど」
「えっ、いいんですか」
「はい」

 思わぬ璇からの提案。
 夾は今日は一体何がどうなっているのだろうかと思いながらも頷いて応え、そうして璇に一杯作ってもらうことにしたのだった。
 ちょうど料理が食べ終わる頃に提供できるよう準備をするというので楽しみにしながら食事を済ませた夾。
 夾が選んだ1本は派手な色をしているわけではないが、細く繊細な字体による表記がされていて、どことなく上品な感じがするものだ。
 璇はその1本を使用しつつ流れるような手つきで特別な一杯を用意した。
 本物の酒を使ったものとまったく同じというわけにはいかないだろうが、しかし口に含んだ瞬間ふわりと木の樽のような心地良い香りがするそれは たちまち夾のお気に入りとなって「美味しいです…!とても!」という感嘆を込めた感想を引き出す。

「お茶でもこんなに美味しいものができるんですね?まるで本当のお酒みたいな感じがしてすごく不思議です。甘くないのに飲みやすくて…すごく美味しい」

 夾は成人してからもほとんど酒を飲んだことがなく、酒の良さというものもまったく解していなかったのだが、この一杯はそんな彼の考えに一石を投じて『酒を飲んでみるのも悪くないかもしれない』とも思わせてしまうものだった。
 そうした夾の偽らざる賞賛が届いたのか、璇も使用した道具などを片付けながら「そうですか、それならよかった」と言葉少なに応える。
 どうして璇が突然こんな特別な一杯を作ってくれたのかについてはよく分からないままだったが「………あの、本当にありがとうございました」と夾が改めて礼を言うと、さらに璇は「いえ」と一言だけを残して忙しくなり始めた仕事に戻っていったのだった。

 夕食を求めてきた人によって次第に混雑していく【觜宿の杯】。
 夾は手元の一杯を飲み終えると、机を片づけにきた兄弟や他の机の方で忙しそうにしている璇にそっと小さく頭を下げて【觜宿の杯】を出た。
 肌寒い風がすぐそばを吹き抜けていくものの、妙にぽかぽかとしている夾にはむしろそれが心地良くも感じられる。
 酒を飲んだわけでもないのにこうも胸が温まっているような感じがするのは、もしかしたら先ほど飲んだあの一杯から香った木の樽のような香りがほんの少しだけ針葉樹のもののように思えたからかもしれない。

(美味しかったな…本当に)

 それは初めてまともに夾が璇と会話をした日だった。


ーーーーーーー


 それからも特に大きな進展はないまま日々が過ぎ、陸国の季節も移ろってゆく。
 夾は相変わらず家と仕事場と【觜宿の杯】を行き来するという生活を送っていたが、その間にオメガ性が発現していなかった時には関係なく過ごしていた【発情】をも経験するようになっていた。
 【発情】とはアルファやオメガが特に【香り】を強く放ってしまう期間のことだ。オメガの場合はおおよそ約2ヵ月から2ヵ月半に一度訪れるとされている。
 体が熱っぽくなって意図せず【香り】を放ち続けてしまう発情時は、その状態で人のいるところへ行くと 対となる性を誘惑して悲惨な事件を引き起こすことにもつながってしまうため、発情時用の抑制薬を飲み、一切【香り】を放たない体となって過ごさなければならないのだ。
 抑制薬を飲みさえすれば体に不調をきたすこともないため日常生活を送るのにも支障はなく、仕事も変わらずすることができる。
 元々夾が男性オメガだということを知っている整備工房の親方は自身の一人娘もオメガだということもあって彼の体に気を使ってくれているが、オメガだということを強調するわけでもなく良い意味である程度放っておいてくれているので、夾も気兼ねなく仕事に臨むことができていた。

 体の変化を受け入れながら前とは少しだけ異なる新たな生活を着実に積み重ねていった夾。
 そして彼は2度の発情を乗り越えつつ寒さの厳しかった冬を過ごし、降り積もった雪が溶ける春を迎えた。
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