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11「別れ」
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『あけび』の神力の巡りは牧草地の神が魄を移す度に悪くなり、やがて満足に走ることもできないほどにまでなっていく。
思い通りに体を動すことができない老体の辛さとは本来神が知ることのないものだが、牧草地の神はそれを身をもって感じると共に胸の内に寂しさをつのらせていった。
『あけび』の時間は確実に最期へと向かっている。
自らが創り出し、仔犬の頃からずっとその寝顔を眺めてきた『あけび』。
何度もその柔らかな毛並みを撫で、【天界】における長い夜を共に過ごしてきた『あけび』。
そんな『あけび』にもうじき別れを告げなければならないというのに、一体どうして寂しがらずにいられるというのだろう。
牧草地の神は長い【天界】の夜を使い、やがて近いうちに必ず訪れるその時への覚悟をかためた。
そして、白馬に会いに行くようになってから実に118度目を迎えたある日。
『あけび』は日暮れ近くになっても姿を消すことなく白馬のそばに居続けていた。
ーーーーーーー
「あけび、おいで。ここが僕のお家だよ」
この日、白馬はずっとそばにいて離れなかった『あけび』を自らの家へと連れて帰った。
よたよたとしたおぼつかない足取りの『あけび』にちょうどいい大きさの寝床を手際よく用意してやる白馬。
『あけび』が「ここに座っていいよ」と促されるままにその寝床の中へ体を丸めて収まると、白馬は餌と水の入った皿も並べて差し出した。
「あけび、今日もまだ随分と暑かったね。お水だけでも飲まない?」
白馬に応えるために体を起こしたいところだが、すでに『あけび』はそれすらもままならないほど衰弱している。
(あぁ…ここで銀は生活しているんだね)
牧草地の神は『あけび』の見えづらくなった目を通して部屋の中を見渡した。
育ての親の元を離れた白馬は、今はこの小さな家で1人暮らしをしているらしい。
時折『金』が入り浸って困るのだと文句を言っていたこともあるが、そう話している白馬はやけに楽しそうだったことを思い出す。
8歳の頃から18歳を過ぎたくらいの今まで、白馬は牧草地の神が見る限りいつも楽しそうにしていた。
それは牧草地の神にとってなによりも喜ばしいことだ。
(あけび…いよいよ君とお別れだ。とてもとても長い間、私のそばにいてくれてありがとう)
牧草地の神は『器』である『あけび』に精一杯の感謝を伝えた。
『あけび』がもう牧草地の神の屋敷に戻ることはない。
このまま体を【地界】に、白馬のそばに遺してやるからだ。
『あけび』として額を白馬に優しく撫でられるこの温かな一時もこれが最後になる。
だんだんと魄が『器』から引き剥がされていくような感覚を感じながら、牧草地の神は出会った日から今までのことを話す白馬の穏やかな声に耳を傾けた。
「初めて会った時、あけびがなんだかすごく嬉しそうだったのをよく覚えてるよ。ずっと前から知ってたみたいな感じもしたし、僕のことを探してたような気もした。懐かしいなぁ…まさかこんなに長い付き合いになるなんて、あの時は思ってもみなかったよ」
思い出話は尽きることがない。
いつまででもこのゆったりとした静かな時間が続くかのようにさえ思える。
だが、微笑みながらあれこれと話す白馬のことを見つめていた牧草地の神は、ふと自らの魄が『あけび』から抜け出してかたわらに立っていることに気がついた。
それが意味するところは明らかだ。
目の前に横たわる『あけび』。
(あっ)と思う間に、牧草地の神は【天界】にある自身の屋敷の庭に戻ってきていた。
(あ、あけびが……)
留守を守るため屋敷にいるはずの蝶も事情を察してか姿を現さない。
一粒の雫が頬を伝う中、白馬の家がある方向に目を向けた牧草地の神。
不思議なことに白馬の声が聴こえたような気がした。
《あけび…最期は僕のところにいてくれて、ありがとう》
《僕達、またいつか…会おうね》
ーーーーーーーー
『あけび』との別れから数日後。
陸国では各地域それぞれで秋の儀礼が催されていた。
秋の儀礼は人々が神やそれぞれの地域でとれるものに対して日々の感謝を伝える年に1度の祭事だ。
奉納される領主の舞を【天界】から眺めた神々は、陸国中の人々から届けられた沢山の想いを胸に、また真摯に日々の務めをはたしていくことになる。
酪農地域での舞を見届けた後、牧草地の神はまだ微かに残っている『あけび』へ分けた自らの神力を辿って姿を隠しながら【地界】を歩いた。
『器』は神力で創ったものであるため、完全に無に還るまでは弱くその神力を感じることができるだろう。
この神力を辿っていった先にあるのは『あけび』の墓に違いない。
牧草地の神は歩きながら最後に一瞬だけ見た横たわる『あけび』の姿を思い出す。
その首には模様としてあの白い輪が残っていた。
もちろん白馬から贈られた腕輪はきちんと牧草地の神の腕に変わらず通されている。
どうやら最期まで共にすると、その模様は『器』に染み付いて魄が抜け出した後も残るらしい。
白馬を驚かせることにならなくてよかった、と牧草地の神は胸を撫で下ろした。
(さて…この辺りかな?)
酪農地域にある小高い丘の上に行き着いた牧草地の神は近くに最近土が掘り起こされたような跡があるのを見つけ、そこに近づいていく。
小さな花まで供えられているその場所。
自らのものと同じ神力が地の中から周りへ溶け出すようにして流れているのが感じられるその場所。
間違いなく『あけび』はここに埋葬されている。
(わぁ…きちんと弔ってもらって良かったね、あけび)
まだ土の匂いが強くしているここもきっと今に豊かな緑で覆われ、美しい景色を創り出すに違いない。
牧草地の神は丘に手をあてながら厳粛な祭事の後で賑やかになっている地域の様子を眺めた。
こうして人間達が良い日々を送れるようにすることこそが神々の務めであり、存在する理由だ。
人間達のために分けた神力は陸国の様々な部分で活力となり、やがてそれは巡り巡ってまた神力という形で神の元へと還ってくる。
中央広場や地域の家々、草原などからの人々の楽しげな声がここまで聞こえてくるようだ。
(この丘は初めて来たけれど、すごく眺めが良くていいな。あそこの道をずっと下って行けば銀の家にも続いてるはずだし…うん?初めて…初めて?あれ、ここは初めて来た丘だって?)
牧草地の神は目を瞬かせると、ぱっと辺りを見渡した。
通常、【地界】では自らの神力が及ばないところへは行けないはずだ。
つまり、牧草地の神は『牧草の生えていないところへは行けない』ということになるのだが、牧草地の神は『あけび』を辿ってやすやすとここまで来ることができた。
そういえばこの辺りはいつも見回りをしている牧草地からは遠く離れていて、地形のせいで家畜も飼いづらいために健やかな牧草を生やす必要もなく、したがって直々に神力を分け与える必要もない場所ではないか。
いつも日々の務めに追われている牧草地の神はここへ来たことなど1度もなく、ましてや気まぐれに神力を分け与えた覚えもない。
だがしかし訪れたこともないはずのこの場所をよく見てみると、『あけび』の神力によるものとは考えづらいような青々とした牧草がそこら中に育っていた。
(これは…?どうして神力を分けた覚えのないここに牧草が生えているんだ?この様子からするとあけびよりもずっと前からここに私の神力が影響していたことになるけど…そうだな、だいたい18年くらい前かな?18年前だってここへ来た覚えはないのに…)
深く考え込んでいた牧草地の神は思わず「あっ」と声をあげる。
そうだ、直接ここへ来て神力を分け与えたことはなくても、別のものに神力を移したことがあったではないか。
あまりの純粋さに思わず加護をつけたくなり、すぐ側に生えていた1本の草へ神力をわずかに分けて渡したあの日。
あれはちょうど今から18、19年前のことだったはずだ。
(あの子に家までの加護として渡した草はここに埋められたのか…それなら納得がいく。草に移しておいた私の神力が牧草を芽生えさせてこの丘を覆ったんだ)
なんという巡り合わせだろう。
あの少女との出来事がまさかこんなところにも結びついているとは…。牧草地の神も「これは偶然…?」と思わず首を傾げてしまう。
(銀がここにあけびを連れてきたのも、わずかな私の神力を感じたから…だったりして。いや、まさかね。銀は神力を失っているから、いくらなんでもそれはないだろう)
奇妙な縁を感じながら、牧草地の神は【天界】へと戻った。
「牧草地の神」
「うわぁっ!」
【天界】に戻るやいなや背後から声をかけられ、牧草地の神は飛び上がらんばかりに驚く。
突然聞こえてきたその声は聞き馴染みのあるものだった。
「こ、これはこれは、水の神…」
「やぁ牧草地の神」
恭しく礼をする牧草地の神に対し、淡々とした様子で礼を返す水の神。
牧草地の神がひどく驚いたことには触れず、水の神は「君を探していたんだ、話があって」と続けて言った。
「5日後に天候が荒れるという通達が来た。人里付近の被害は抑え込むけど、土地を肥えさせるためにそれぞれの地域で少しずつ地が崩れることになるので、牧草地の神も備えを。それから、なにか要望があればいつも通り私まで」
「はい、水の神。お心遣いに感謝いたします」
「うん」
言葉少ない水の神はそれからじっと牧草地の神を見つめ、なにか言いたげにしている。
見かねた牧草地の神が「あの…どうなさいましたか」と訊ねると、水の神は少し悩む様子を見せてから「後で君の屋敷へ行っても構わないか」と話しだした。
「話したいことが…いや、聞きたいことがあって。見回りと他の神々への通達が終わり次第、向かわせてもらいたい」
「えぇ、それはもちろん、もちろん良いですよ!私もゆっくりお話がしたいと思っていたんです、水の神の都合の良い時にいらしてください、お待ちしていますから!」
「…うん」
他にもなにか言いたそうにした水の神だが、結局「では、また後で」と言って去っていった。
水の神が屋敷に来てまで話したいこととは何なのか分からないが、『あけび』がいなくなったことで再び広大な屋敷に1人となってしまっていた牧草地の神は長い夜の間を誰かと語り合えるのがすでに楽しみでならない。
牧草地の神は意気揚々と足を踏み出し、今日の分の務めをはたしにいった。
思い通りに体を動すことができない老体の辛さとは本来神が知ることのないものだが、牧草地の神はそれを身をもって感じると共に胸の内に寂しさをつのらせていった。
『あけび』の時間は確実に最期へと向かっている。
自らが創り出し、仔犬の頃からずっとその寝顔を眺めてきた『あけび』。
何度もその柔らかな毛並みを撫で、【天界】における長い夜を共に過ごしてきた『あけび』。
そんな『あけび』にもうじき別れを告げなければならないというのに、一体どうして寂しがらずにいられるというのだろう。
牧草地の神は長い【天界】の夜を使い、やがて近いうちに必ず訪れるその時への覚悟をかためた。
そして、白馬に会いに行くようになってから実に118度目を迎えたある日。
『あけび』は日暮れ近くになっても姿を消すことなく白馬のそばに居続けていた。
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「あけび、おいで。ここが僕のお家だよ」
この日、白馬はずっとそばにいて離れなかった『あけび』を自らの家へと連れて帰った。
よたよたとしたおぼつかない足取りの『あけび』にちょうどいい大きさの寝床を手際よく用意してやる白馬。
『あけび』が「ここに座っていいよ」と促されるままにその寝床の中へ体を丸めて収まると、白馬は餌と水の入った皿も並べて差し出した。
「あけび、今日もまだ随分と暑かったね。お水だけでも飲まない?」
白馬に応えるために体を起こしたいところだが、すでに『あけび』はそれすらもままならないほど衰弱している。
(あぁ…ここで銀は生活しているんだね)
牧草地の神は『あけび』の見えづらくなった目を通して部屋の中を見渡した。
育ての親の元を離れた白馬は、今はこの小さな家で1人暮らしをしているらしい。
時折『金』が入り浸って困るのだと文句を言っていたこともあるが、そう話している白馬はやけに楽しそうだったことを思い出す。
8歳の頃から18歳を過ぎたくらいの今まで、白馬は牧草地の神が見る限りいつも楽しそうにしていた。
それは牧草地の神にとってなによりも喜ばしいことだ。
(あけび…いよいよ君とお別れだ。とてもとても長い間、私のそばにいてくれてありがとう)
牧草地の神は『器』である『あけび』に精一杯の感謝を伝えた。
『あけび』がもう牧草地の神の屋敷に戻ることはない。
このまま体を【地界】に、白馬のそばに遺してやるからだ。
『あけび』として額を白馬に優しく撫でられるこの温かな一時もこれが最後になる。
だんだんと魄が『器』から引き剥がされていくような感覚を感じながら、牧草地の神は出会った日から今までのことを話す白馬の穏やかな声に耳を傾けた。
「初めて会った時、あけびがなんだかすごく嬉しそうだったのをよく覚えてるよ。ずっと前から知ってたみたいな感じもしたし、僕のことを探してたような気もした。懐かしいなぁ…まさかこんなに長い付き合いになるなんて、あの時は思ってもみなかったよ」
思い出話は尽きることがない。
いつまででもこのゆったりとした静かな時間が続くかのようにさえ思える。
だが、微笑みながらあれこれと話す白馬のことを見つめていた牧草地の神は、ふと自らの魄が『あけび』から抜け出してかたわらに立っていることに気がついた。
それが意味するところは明らかだ。
目の前に横たわる『あけび』。
(あっ)と思う間に、牧草地の神は【天界】にある自身の屋敷の庭に戻ってきていた。
(あ、あけびが……)
留守を守るため屋敷にいるはずの蝶も事情を察してか姿を現さない。
一粒の雫が頬を伝う中、白馬の家がある方向に目を向けた牧草地の神。
不思議なことに白馬の声が聴こえたような気がした。
《あけび…最期は僕のところにいてくれて、ありがとう》
《僕達、またいつか…会おうね》
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『あけび』との別れから数日後。
陸国では各地域それぞれで秋の儀礼が催されていた。
秋の儀礼は人々が神やそれぞれの地域でとれるものに対して日々の感謝を伝える年に1度の祭事だ。
奉納される領主の舞を【天界】から眺めた神々は、陸国中の人々から届けられた沢山の想いを胸に、また真摯に日々の務めをはたしていくことになる。
酪農地域での舞を見届けた後、牧草地の神はまだ微かに残っている『あけび』へ分けた自らの神力を辿って姿を隠しながら【地界】を歩いた。
『器』は神力で創ったものであるため、完全に無に還るまでは弱くその神力を感じることができるだろう。
この神力を辿っていった先にあるのは『あけび』の墓に違いない。
牧草地の神は歩きながら最後に一瞬だけ見た横たわる『あけび』の姿を思い出す。
その首には模様としてあの白い輪が残っていた。
もちろん白馬から贈られた腕輪はきちんと牧草地の神の腕に変わらず通されている。
どうやら最期まで共にすると、その模様は『器』に染み付いて魄が抜け出した後も残るらしい。
白馬を驚かせることにならなくてよかった、と牧草地の神は胸を撫で下ろした。
(さて…この辺りかな?)
酪農地域にある小高い丘の上に行き着いた牧草地の神は近くに最近土が掘り起こされたような跡があるのを見つけ、そこに近づいていく。
小さな花まで供えられているその場所。
自らのものと同じ神力が地の中から周りへ溶け出すようにして流れているのが感じられるその場所。
間違いなく『あけび』はここに埋葬されている。
(わぁ…きちんと弔ってもらって良かったね、あけび)
まだ土の匂いが強くしているここもきっと今に豊かな緑で覆われ、美しい景色を創り出すに違いない。
牧草地の神は丘に手をあてながら厳粛な祭事の後で賑やかになっている地域の様子を眺めた。
こうして人間達が良い日々を送れるようにすることこそが神々の務めであり、存在する理由だ。
人間達のために分けた神力は陸国の様々な部分で活力となり、やがてそれは巡り巡ってまた神力という形で神の元へと還ってくる。
中央広場や地域の家々、草原などからの人々の楽しげな声がここまで聞こえてくるようだ。
(この丘は初めて来たけれど、すごく眺めが良くていいな。あそこの道をずっと下って行けば銀の家にも続いてるはずだし…うん?初めて…初めて?あれ、ここは初めて来た丘だって?)
牧草地の神は目を瞬かせると、ぱっと辺りを見渡した。
通常、【地界】では自らの神力が及ばないところへは行けないはずだ。
つまり、牧草地の神は『牧草の生えていないところへは行けない』ということになるのだが、牧草地の神は『あけび』を辿ってやすやすとここまで来ることができた。
そういえばこの辺りはいつも見回りをしている牧草地からは遠く離れていて、地形のせいで家畜も飼いづらいために健やかな牧草を生やす必要もなく、したがって直々に神力を分け与える必要もない場所ではないか。
いつも日々の務めに追われている牧草地の神はここへ来たことなど1度もなく、ましてや気まぐれに神力を分け与えた覚えもない。
だがしかし訪れたこともないはずのこの場所をよく見てみると、『あけび』の神力によるものとは考えづらいような青々とした牧草がそこら中に育っていた。
(これは…?どうして神力を分けた覚えのないここに牧草が生えているんだ?この様子からするとあけびよりもずっと前からここに私の神力が影響していたことになるけど…そうだな、だいたい18年くらい前かな?18年前だってここへ来た覚えはないのに…)
深く考え込んでいた牧草地の神は思わず「あっ」と声をあげる。
そうだ、直接ここへ来て神力を分け与えたことはなくても、別のものに神力を移したことがあったではないか。
あまりの純粋さに思わず加護をつけたくなり、すぐ側に生えていた1本の草へ神力をわずかに分けて渡したあの日。
あれはちょうど今から18、19年前のことだったはずだ。
(あの子に家までの加護として渡した草はここに埋められたのか…それなら納得がいく。草に移しておいた私の神力が牧草を芽生えさせてこの丘を覆ったんだ)
なんという巡り合わせだろう。
あの少女との出来事がまさかこんなところにも結びついているとは…。牧草地の神も「これは偶然…?」と思わず首を傾げてしまう。
(銀がここにあけびを連れてきたのも、わずかな私の神力を感じたから…だったりして。いや、まさかね。銀は神力を失っているから、いくらなんでもそれはないだろう)
奇妙な縁を感じながら、牧草地の神は【天界】へと戻った。
「牧草地の神」
「うわぁっ!」
【天界】に戻るやいなや背後から声をかけられ、牧草地の神は飛び上がらんばかりに驚く。
突然聞こえてきたその声は聞き馴染みのあるものだった。
「こ、これはこれは、水の神…」
「やぁ牧草地の神」
恭しく礼をする牧草地の神に対し、淡々とした様子で礼を返す水の神。
牧草地の神がひどく驚いたことには触れず、水の神は「君を探していたんだ、話があって」と続けて言った。
「5日後に天候が荒れるという通達が来た。人里付近の被害は抑え込むけど、土地を肥えさせるためにそれぞれの地域で少しずつ地が崩れることになるので、牧草地の神も備えを。それから、なにか要望があればいつも通り私まで」
「はい、水の神。お心遣いに感謝いたします」
「うん」
言葉少ない水の神はそれからじっと牧草地の神を見つめ、なにか言いたげにしている。
見かねた牧草地の神が「あの…どうなさいましたか」と訊ねると、水の神は少し悩む様子を見せてから「後で君の屋敷へ行っても構わないか」と話しだした。
「話したいことが…いや、聞きたいことがあって。見回りと他の神々への通達が終わり次第、向かわせてもらいたい」
「えぇ、それはもちろん、もちろん良いですよ!私もゆっくりお話がしたいと思っていたんです、水の神の都合の良い時にいらしてください、お待ちしていますから!」
「…うん」
他にもなにか言いたそうにした水の神だが、結局「では、また後で」と言って去っていった。
水の神が屋敷に来てまで話したいこととは何なのか分からないが、『あけび』がいなくなったことで再び広大な屋敷に1人となってしまっていた牧草地の神は長い夜の間を誰かと語り合えるのがすでに楽しみでならない。
牧草地の神は意気揚々と足を踏み出し、今日の分の務めをはたしにいった。
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