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三 バレンタインの話
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「狭山くんっ! ごめーんちょっといい? まだいてよかったー!」
「あ、店長」
店長はケーキ予約表を片手に走ってくる。
寿人さんの姿に気づき、きゃっと声をあげた。
「あらやだ。お話中に失礼しますぅ」
「いえ」
「狭山くんっ、いま、山の手店の大口顧客から、シュークリームの大量予約あったみたいなのね。かき集めたらいけるからこれからマネージャーが配送に出るんだけど、在庫が薄くなっちゃうの、作れないかなー!?」
俺は寿人さんを仰いだ。今日の遅出は俺しか残っていない。
寿人さんは呆れながら苦笑した。
「お引止めしてすみません。お願いします」
「わかりました!」
「では、僕はこれで。続きはまた今度」
「はい。ありがとうございます」
寿人さんが去っていった後、店長は目ん玉が転がりそうなほど見開いて、俺の手をとってはしゃいだ。
「ひゃー! なにあれ! 寿人様って狭山くんの前ではいつもあんな感じなの!?」
「え?」
「あの人が笑うとこ初めて見た!」
「あー。俺は二度目か、三度目ですかねぇ」
「やるじゃん! いいもん見ちゃった! レアよ! バレンタインに奇跡! やっぱりイケメンの笑顔って栄養~!」
店長はうっとりし、身を捩ってもだえている。もう一度作業服を着た俺は厨房に戻った。店長があとからついてくる。
「狭山くんが来てからというもの! 寿人様よく本社に顔見せるわよねっ。狭山くん、もしかして!?」
「え?」
「やーん、秘密の恋……! ロボ寿人様の凍りついた機械のハートを溶かし! 熱くさせる! 社内恋愛ー!!」
「え、違いますよ……」
「寂しく孤独な寿人様がついに……出会っちゃったのね……! 運命のひとに……!」
店長のテンションが最高潮に達し、店長は力を失い、大きなため息をつき、「ハートブレイクだわ……」と呟いて、お店に戻っていった。
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