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番外編18 続・野球帽と初恋(和臣視点)
一 初恋のひと
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※新居への引っ越し後、結婚パーティー前の出来事です。
午後一時。
社員食堂の空きを見計らい、俺はひとり、長テーブルで、持参したお手製弁当を広げている。そして考えごとをしていた。
しばらくして声を掛けてきた者がいた。
「おっす、和臣くん。どしたの。アンニュイじゃん。もうすぐ結婚パーティーなのに」
顔をあげたそこにいたのは、定食のトレーを手にした同期A。
その背後に、後輩で俺の元部下、そして多紀くんとなにゆえか関わりのあるオシャレ風メガネ男。
符丁Aが埋まったので、お前は格下げ。下げ下げ。
Fにでもしておこう。元部下F。
「葉子、倉なんとか……お昼?」
「倉本っす」
「最近ご機嫌だったのに。あっ、相田くんのことでしょ。お見通しの葉子さんだね。よっしゃランチミーティングしよ。はい小野寺くん、議題! 目的!」
「……」
「なぁにー? 喧嘩でもしたー? 早く謝りなよ。理由なんて後付けでいいよ。夫婦円満の秘訣はとりあえず謝る!」
「喧嘩はしていない……はず」
「えー? ぎくしゃく?」
「いや……このところ、少し違和感があって……」
違和感がある。としか言いようがない。多紀くんの様子がヘン。
気づいたのは、つい一昨日のことだ。
なんだか、よそよそしいのである。
思い起こせば、先々週にまで遡る。仙台に行って帰ってきた頃からだと思い至った。
気がつくと、多紀くんは俺のことをじっと観察している。俺は暇がなくとも頻繁に多紀くんを見ているのでやたらと目が合う。
俺は目が合うのが嬉しくてすぐに多紀くんにぺたぺたしに行く。ぺたぺた。
だが多紀くんはなぜか目をそらす。かといって触るのを嫌がったりはせず、むしろ視線をそらしながらも手を繋いだり探ってきたり、多紀くんのほうからぴたっと寄り添ってきたり、以前よりも少し積極的になった。
身体的距離は近いし、俺の前髪を柔らかく弄んだり、指先で頬を撫でてきたり、着替えを手伝ってきたり、なんだか甲斐甲斐しい素振りを見せるし。時々、黙って考えごとをしていたり。
うーん、思い起こすと挙動不審で可愛い可愛い。多紀くんはいつも可愛い。
しかし、やはり違和感はあるのである。何かを隠しているのだろうか。だが生活スタイルに変わりはない。何なんだろう。
ここ二日ほど、違和感の正体や原因について一人考えているのだが、思い当たることがないため困っている。
仙台で何かあっただろうか。
だが、トイレ以外はほとんどの時間、二人で行動していた。お風呂も一緒に入った。
犬どもの散歩も、歯磨きも、食事も、俺の衣類を片づけるときも常に隣にいた。
一人にした時間はない。俺のアルバムを気に入って持ち帰っていたことぐらいかな。記憶をなぞっているが、多紀くんが変化するような出来事は何もなかったと思う。
「えー、なんだろ? なにか訊いてる? 倉本」
「んぁ、先週会った時ーー……あ、いや、ナシナシ」
俺はキレた。テーブルを指の関節で叩いた。
「倉本。そこで止めるな。吐いたものは飲み込むな。言うなら言い切れ」
「言え言え」
「……言っていいんですかね? でもこれ、課長に悪いんで……」
Fは失言したという顔をしている。課長に悪いということは、俺にとって良いニュースではないのだろう。それをお前が知っていて俺が知らないなんて許せない。
Aは屈託なく笑った。
「倉本と浮気ー? ないない」
「それはないですハイ」
もったいぶりやがって。
俺が睨みつづけていると、Fは気まずそうにつぶやいた。
「……多紀、初恋の人に再会したらしいっす」
俺は目の前が真っ暗になった。
午後一時。
社員食堂の空きを見計らい、俺はひとり、長テーブルで、持参したお手製弁当を広げている。そして考えごとをしていた。
しばらくして声を掛けてきた者がいた。
「おっす、和臣くん。どしたの。アンニュイじゃん。もうすぐ結婚パーティーなのに」
顔をあげたそこにいたのは、定食のトレーを手にした同期A。
その背後に、後輩で俺の元部下、そして多紀くんとなにゆえか関わりのあるオシャレ風メガネ男。
符丁Aが埋まったので、お前は格下げ。下げ下げ。
Fにでもしておこう。元部下F。
「葉子、倉なんとか……お昼?」
「倉本っす」
「最近ご機嫌だったのに。あっ、相田くんのことでしょ。お見通しの葉子さんだね。よっしゃランチミーティングしよ。はい小野寺くん、議題! 目的!」
「……」
「なぁにー? 喧嘩でもしたー? 早く謝りなよ。理由なんて後付けでいいよ。夫婦円満の秘訣はとりあえず謝る!」
「喧嘩はしていない……はず」
「えー? ぎくしゃく?」
「いや……このところ、少し違和感があって……」
違和感がある。としか言いようがない。多紀くんの様子がヘン。
気づいたのは、つい一昨日のことだ。
なんだか、よそよそしいのである。
思い起こせば、先々週にまで遡る。仙台に行って帰ってきた頃からだと思い至った。
気がつくと、多紀くんは俺のことをじっと観察している。俺は暇がなくとも頻繁に多紀くんを見ているのでやたらと目が合う。
俺は目が合うのが嬉しくてすぐに多紀くんにぺたぺたしに行く。ぺたぺた。
だが多紀くんはなぜか目をそらす。かといって触るのを嫌がったりはせず、むしろ視線をそらしながらも手を繋いだり探ってきたり、多紀くんのほうからぴたっと寄り添ってきたり、以前よりも少し積極的になった。
身体的距離は近いし、俺の前髪を柔らかく弄んだり、指先で頬を撫でてきたり、着替えを手伝ってきたり、なんだか甲斐甲斐しい素振りを見せるし。時々、黙って考えごとをしていたり。
うーん、思い起こすと挙動不審で可愛い可愛い。多紀くんはいつも可愛い。
しかし、やはり違和感はあるのである。何かを隠しているのだろうか。だが生活スタイルに変わりはない。何なんだろう。
ここ二日ほど、違和感の正体や原因について一人考えているのだが、思い当たることがないため困っている。
仙台で何かあっただろうか。
だが、トイレ以外はほとんどの時間、二人で行動していた。お風呂も一緒に入った。
犬どもの散歩も、歯磨きも、食事も、俺の衣類を片づけるときも常に隣にいた。
一人にした時間はない。俺のアルバムを気に入って持ち帰っていたことぐらいかな。記憶をなぞっているが、多紀くんが変化するような出来事は何もなかったと思う。
「えー、なんだろ? なにか訊いてる? 倉本」
「んぁ、先週会った時ーー……あ、いや、ナシナシ」
俺はキレた。テーブルを指の関節で叩いた。
「倉本。そこで止めるな。吐いたものは飲み込むな。言うなら言い切れ」
「言え言え」
「……言っていいんですかね? でもこれ、課長に悪いんで……」
Fは失言したという顔をしている。課長に悪いということは、俺にとって良いニュースではないのだろう。それをお前が知っていて俺が知らないなんて許せない。
Aは屈託なく笑った。
「倉本と浮気ー? ないない」
「それはないですハイ」
もったいぶりやがって。
俺が睨みつづけていると、Fは気まずそうにつぶやいた。
「……多紀、初恋の人に再会したらしいっす」
俺は目の前が真っ暗になった。
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