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大学生 6

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声だけでわかった。

....気がつかない振りをしようかと思った。

でもビリーが

『誰?知り合い?』

って言うから。

知らない振り できなくて....。

ビリーが私の肩に腕をまわしながら その腕の大きな手で頭を緩く抱き寄せる。

その拍子に振り向き

ただ 私を見る目付きは 記憶の中のどの凰雅さんよりも冷酷な空気を醸し出していて。

そんなふうに見るなら 私に構う意味が分からない。


そんな凰雅さんの態度に傷つきながら 一方で高鳴る気持ちをもて余している。

...なんて愚かなんだろう。



凰雅さんと私はつかの間 睨み合い

私の方が先に目をそらした。

凰雅さんに 冷たく睨まれるのは 凄く心が痛かったから....。


この前は深い意味がなくても やさしかったのに。


私は凰雅さんを無視して ビリーの腕を掴み

『知らない人。行こう。』

そう言って歩き出した。


もう振り返らなかったから 凰雅さんがどんな顔をしていたか知らない。


ホテルを出る時 ビルボードに気がついたけれど あのホテルで出版社のパーティーが開かれていた。さっき見た雑誌の出版社だったから 凰雅さんもそのパーティーに出席していたんだろうか。

...すごい偶然。

要らないのに。




ホテルを出てからビリーが

『知らない人じゃないよね?』

私が何とも言えない複雑な顔をしていると
やさしく頭を抱き寄せながら

『....オウガだろう?ユイの大好きな』

『今は違うわ』

『そう?』

ビリーは

納得していなくてもやさしく寄り添ってくれる。

近くのベンチを見つけて 私を座らせ 抱き締めてくれた。


私は 凰雅さんの冷たい態度に思ったより傷ついていたみたいで。

私が泣いているのに全然違う話をしてくれる。


そのうち私が笑顔になるのを知っているから。

ありがとう ビリー



私にとってビリーは男の人ではなくて

ビリーにとって私は女の人ではない。

これは 私達しか知らない事だから。




夕食を済ませてホテルに戻り 離れがたかった私達はビリーの部屋に行った。 

私は 最近日本で交通遺児のボランティアに参加していて バザーのお手伝いや
交通遺児以外も含む 塾に行けない環境の子達の放課後勉強会なるものにも参加していている。
結構英語では役にたててるつもり

なんて 話で盛り上がり

『僕の部屋に泊まる?シングルだけど』

二人で ぷっ と吹き出して

『ハイスクールでダンスパーティーの後 女の子に追いかけられたビリーと』
『男の子に追いかけられたユイとシングルの部屋に泊まったよね』

あの後二人が付き合ってる事になって。

端から見たらそう見えるよね。

そんな話をしていたらすっかり遅くなって 11時前になっていた。

慌てて 

『大変!早く帰らないと!』

そう言いながら部屋を出て 一緒にエレベーターを降りる。

『送るよ』

『いいの。まだ日本に慣れてないでしょう?』


そんなやり取りをしながら ビリーがエレベーターに気を取られたそのタイミングで告げた。

『ビリー じゃあ帰ったら連絡するから 心配しないで。また明日ね』

そう言って駅へ歩き出した。



振り返ると苦笑いをしたビリーが手を振ってくれた。
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