You Could Be Mine 【改訂版】

てらだりょう

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そのいち

そのいち-4

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誰や。

『尊です。わかる?』

昨日のNo.1の声。

おう?なんだ?朝っぱらから営業すか?

「わ、わかるよ。おはよう」

『おはよう。良かった、覚えてくれてて』

くすくすと尊が笑った。その声に、心拍数が上跳ねがる。

「ずいぶん早起きだね」

『うん。まだ寝てないからね。ねぇ。お昼時間ある?』

なんだ?同伴とかしねぇぞ?

あたしの警戒心に気付いたのか。

『安心して。営業の電話じゃないから』

そう言ってまたクスクス笑った。

「えっと…どの様なご用件でしょう?」

営業じゃなきゃ、何の用だ。

『グランドホテルわかるよね?』

「うん。わかるけど」

『一緒にランチしよう。1時に予約入れとくからきてね。待ってるから。じゃ後でね』

「はっ?えっ?もしもし!?」

ツーツーツー…

言うだけ言って電話が切れた。

な、なに?人の都合も聞かずに。

ランチだとぅ!?

でも、営業じゃないって言ってたし。

グランドホテルのランチって、ビュッフェだよな。

そして。

デザートも食べ放題だったな。

午後1時。

約束の時間にホテルのクロークにいるあたし。

ああ、食い気に負けたともさ。

でも、ぜってー同伴なんかしねぇぞ!

食い逃げする気で、クレジットカードも置いてきたしお金もギリギリしか財布に入れてない。

しかし、ここはランチと言ってもお一人様3800円もしやがる。

実家に半寄生中の身には、少々お高いからな。

尊は来てるのかな。

キョロキョロしてると。

「みのりさん」

低くて、柔らかい声で呼ばれた。

振り向くと、尊がにこやかに微笑んでた。

昨日の妖しいスーツ姿じゃなく、上質そうなコットンの長袖シャツにデニム。

髪はセットしてなくて、前髪がおでこにかかってる。

なんか、昨日より若く見える。

「みのりさん可愛い!」

あたしを見てにっこり笑う。

か、可愛いて!

顔が熱くなるようなこと言うなっ!!

今日のあたしの服装は、淡い紫のシフォンのワンピース。

ランチとは言えホテルでお食事するのに、Tシャツにデニムはなかろうと、タンスから引っ張り出した滅多に着ないワンピース。

「水原様、いらっしゃいませ。お荷物はお預かり致しましょうか?」

尊は、持っていた大きめのブランドの紙袋を見て。

「いや、これはいい」

と答えた。

店内に入ると、窓際の席に通された。

ここは18階なんで見晴らしが良い。

向かい合わせに座ると。

「みのりさん、来てくれてありがとう」

またにっこり。

や、ヤメテくれ。その笑顔。

あたしの心拍数は限界近くまで上がる。

「あ、あの。今日寝てないん?」

「ん?あれから、少し寝たよ。心配してくれたの?」

「や、まあ、ちょっと」

「ありがとう。みのりさん優しいね」

と、またにっこり。

マジでヤメロぉ!心拍数がおかしな事になってんだよぉ!!

「あのね、これ、みのりさんに」

尊は、持っていた紙袋をテーブル越しにあたしに差し出す。

「なに?これ」

「大した物じゃないよ。みのりさんと俺が出逢えた記念」

記念品とな?

このブランドの袋には紅白饅頭でも入ってんのか?

「開けてみて?気に入ってくれるといいけど」

ふふふ、と、笑う尊。

「はあ」

薄紙の包装を破れない様に開くと。

「はあ?」

中には紙袋と同じブランドのバッグが入ってた。

「こ、こんなの!も、貰えないよ!」

大した物じゃないって、アンタ。

こないだ三越のショップ行った時に見たけどかなり良いお値段ついてたよ?

会ったばかりなのに、何考えてんの、アンタ!?

慌ててバッグを紙袋にしまい、ずい、と。

尊に押し返した。

「どうして?」

「こんな高い物、貰えない。貰う理由無いしっ」

「俺の気持ちだから。受け取って?」

気持ちってなんだよ!?

ホストの営業ってここまでやるのか!?

「受け取って?」

なんだ、その哀しい瞳は。

眉毛がちょっと下がって、悲しそうな顔。

そんな顔するなよおお!

「わ、わかったから」

そんな顔するのやめてくれっ!

「受け取ってくれる?」

「喜んで頂きます!」

そう言ったら。その途端。

尊は、ぱあっと笑顔になって。

まるで子供みたいで。

子供がすごくうれしいときに笑ってるみたいな顔で。

ああ。昨日も見たな。こんな顔。

そう思いながらあたしは。

ありがとう、と言うしかなかった。 
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