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そのに

そのに-6

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お風呂から出て、ベッドの下に脱ぎ散らした服と。

いつも遣いの下着。

勝負下着なんぞ用意したことは無いけど。

こんな事になるなら、もうちょっといやつにしとけば良かった。

かなり今更やけど。

こんなことになるとか想像すらしとらんし。

「みのりさん」

尊は裸のままベッドに腰掛けて、来て、と言った。

一度手にした下着を置いて、ベッドまで行くと。

「ここ座って」

脚を拡げてあたしの場所を作る。

背中を向けてそこに収まる。

後ろから手をまわし、あたしの肩に顔を埋める。

「みのりさん、好き」

今日だけで何回聞いたやろ。

「サラサラの髪も」

髪を撫でながら。

「可愛い顔も」

ほっぺた撫でながら。

「細い肩も」

肩撫でながら。

「小さい手も」

あたしの手持ち上げて、キス。

「胸も。小さくて可愛い」

その手で胸を覆う。

小さいは余計じゃ!

「細い腰も」

手が下に。

「綺麗な足も」

ふともも撫でる。

「それから、ここも」

「ふぁんっ」

手が滑り込んできた。

「全部、好き。全部俺のもの」

指が割り込んでくる。

「たっ…尊」

まだするつもりかっ!?

「ふふっ」

尊が笑った。

「さっき洗ったばかりなのに…」

ちっ違うっ!

それは単に生理的なものでっ!

指が蠢く。

あたしの身体は、指に反応してじわじわと熱くなってく。

「あっ…やあっんっ」

「こんなになって…もう」

それはアンタが触るからやろがああああ!




いつの間にか遠くにいっていた意識が、音楽に呼び戻される。

Wild World。あたしの携帯の着信音。

少し寝てたみたい。

隣を見ると、すやすやと眠る、尊。

寝顔も綺麗やな。

と、見とれてる場合じゃなくて。

尊を起こさない様に、そおっとベッドを降りてソファーに置いたバッグをまさぐる。

携帯のディスプレイは見慣れた表示。

ヤバい。松本氏だ。

「……天海でごぜぇます」

本名じゃなく仕事用の名前で応答する。

あたしのペンネームは"天海 瞬"だ。

『…お疲れ様です』

いつ聞いてもトーン低いな、この声。

『原稿進んでますか?』

「はっハイ!三分の二くらいは…ははは」

嘘です。

三分の一です。

『……』

「……」

『嘘でしょう?』

「……嘘です」

『……』

「いっ、今やってます!」

『…さっきお宅に電話したら、おしゃれしてどっか行きましたよー、とお母様が仰ってましたが』

ぐっ。

おかんめ!

『どこで何をなさってるんですか。仕事もしないで』

「お」

…とことホテルにいます。

とは言えない。

『お?』

「お友達とランチしてました」

『……』

ち、沈黙が怖い。

『締め切り、いつかわかってますよね?』

「ハイ!重々、承知しております!です」

松本氏がはーっ、とため息ついた。

『只でさえ原稿遅い上に、スケジュール管理も出来ないんですか』

「いやっ!あの、締め切りまでには必ず…」

先月の入稿、締め切り一分前でした。

『…とにかく。遊んでないで、今すぐ帰って仕事して下さい。いいですね?』

「はっ!かしこまりましたっ!では失礼します!」

重苦しいまま電話が切れた。

まだ新人作家のあたしにとって、編集さんは神様の様な存在。

だから逆らうなんてもってのほか。

「電話、誰から?」

尊の声がした。 

「担当の編集さん」

「ふうん」

尊はベッドに胡座をかいて。

「こっち来て」

足を拡げて、その間をポンポン、と叩いた。

ベッドに近づくと、あたしの手を取って、背中を向かせて座らせる。

後ろから腰の辺りに手を回して、あたしの肩に顎を乗せる。

て、ゆーか、好きやね、この体勢。

「担当って、男?女?」

「男の人やけど…」

それがどうした?

「みのりさんが他の男と喋るの、嫌」

はあ?

「俺以外の男に、みのりさんの可愛い声聞かせるなんて嫌」

「いや、仕事だし」

それ言ったら自分はどうなるんじゃ!

「みのりさん」

軽くあたしの顎を持って、後ろを向かせる。

唇が重なる。

舌が、絡まる。

優しくて、うっとりするキス。

「みのりさん?」

唇を離して、尊が口を開いた。

「俺の事、好き?」

あたしの瞳を見ながら言う。

あたしはコクン、と頷いた。

「ちゃんと言って?俺の事、好きって」

「…好き」

「ん。ありがと。大好き」

尊は満足した様に微笑んで、ぎゅう、っとあたしを抱き締めた。
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