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そのじゅうに

そのじゅうに-6

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車中は無言。

学問の神様が祀られてるお社へ。

基本的に観光地ではないんで。

ここくらいしか来るとこ無い。

本殿でお参りしたらぶらぶら散策。

「ねえ、みのりさん。これなんて読むの?」

尊が有名な短歌の前で立ち止まる。

「ひがし?かぜ?」

尊さんは活字嫌いの元ヤンすからね。

「こち、だよ。こ・ち!」

口を出す冬馬くん。

「東風吹かば匂いおこせよ梅の花、だよなあ、二宮」

「うっせえんだよ、てめえに聞いてんじゃねえんだよっ!」

「地元民のくせに知らねえのかよ。ここに誰が祀られてんのかも知らねえんじゃねえの?」

「それくらい知ってるさ!」

「へえ?誰よ?」

「スガワラっ!…」

尊はあたしを見て。

「誰だっけ?」

て、言った。

菅原道真公。

で、ございます。

「なあ、モチあんだろ?有名なヤツ」

あたしの隣で冬馬くんが言った。

「参道で売ってるから勝手に食えよっ」

割り込む尊。

「一緒に食おうぜ、二宮」

構わず反対側に回り込む冬馬くん。

「一人で食えっ」

割り込む尊。

あたしの周りぐるぐると。

なにしとんじゃ。

結局、モチは三人で。

食べた。

 ベンチであたしを真ん中にして。

ぼそぼそ。

モチ食べる。

トイレ、行きたいな。

立ち上がった。

「「どこ行く」」

「の?みのりさん!?」

「んだ?二宮!?」

うっせえな。

「トイレ!!」

二人を残して裏手のトイレへ。

一体。あたし達は。

なにが楽しいんだ!?

トイレから出て、ベンチの後ろから二人を見た。

お互いそっぽ向いて。

「あーあ、せっかくスケ調整して来たのによお。少しはよお、トモダチ同士で語り合うくれえさせろよな。心が狭いなあ?」

「っせえな。しゃべらせてやってんだろ。文句あんならけえれよ!」

「やってるってなんだよ!?二宮としゃべんのにてめえの許可がいんのかよっ」

「みのりさんは俺んだからなっ」

なんか、そっぽ向きながら言い合いしとります。

「あのなあ?二宮はモノじゃねえだろが。自由を尊重しろっ」

「してるさ。けどお前みたいのが手え出そうとしてくっから眼が離せねえんだよっ」

「あ、そう言やここって縁切りの願掛けもあったな。てめえと二宮の縁も切ってもらうかあ?」

「ざけんなっ!俺とみのりさんの縁は誰にも切れねえよっ!一生切るもんかよっ」

エキサイト中。

戻りにくい。

「一生だあ?」

「一生だっ!」

冬馬くんがちょっとトーンを落として

「なんだよ、結婚でもするつもりかよ」

言った。

「そんなん、てめえに関係ねえだろ」

尊が答えた。

「ふん。そのつもり無くて一生とか言ってんのかよ」

「いつかする」

「いつかってなんだよ」

「うるせえな」

「いつかとか言ってたら二宮ばばあになっちまうじゃねえかよ。そうなる前に俺がもらっとくわ」

「ざけんなっ!みのりさんは俺んだ!!今は出来ねえけどっ」

尊が立ち上がって。

「絶対俺と結婚すんだよっ!!」

拳を握り締めた。
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