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第七章
瞳の真実
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ヒトミと出会って3ケ月が過ぎようとしていました。
ある日の午後早く、ヒトミが、落ち込んだ顔で帰ってきました。
(どうかしたの?学校は?)
心配そうに、見上げる私に、
『何でもないの、でもね・・・。もう学校なんて行きたくない。』
見る見る彼女の瞳に涙が込み上げてきました。
『ごめんね、カズのお気に入りの絵がなくなっちゃった・・・』
彼女は絵が上手くて、少し前に、私の絵を描いてくれたのです。
私はもちろん大喜びで、壁に貼った自分の絵を何度も眺めました。
今年の校内美術展に、彼女は初めて、その絵を出展したのです。
テーマは「家族」。
母や父、兄弟などの絵が並ぶ中で、1枚だけ貼られたネコの絵は、校内で話題になった様で、ヒトミは興奮気味に話してくれました。
その二日後に起こった出来事です。
『誰かが・・・カズの絵を・・・』
ヒトミが、絵の並ぶ廊下を通りかかると、壁の前にいたみんなが、サっと退いたのです。
その床には、無残に破かれた彼女の絵が、散らばっていました。
それを見た彼女は、その場から、泣きながら走って帰ってきたのでした。
『あんなヤツラ、絶対に許せない!もうこれ以上、ガマンなんてできない!!私の大切な家族の絵を・・・クッソーッ!!』
あんなに激しい彼女を、私は初めて見ました。
『私は何も悪いことしていない!なのに・・・あんなヤツラ、死んでしまえばいい!・・・悔しいよ・・・。どうして私だけ、こんな目に・・・。』
ヒトミの心の痛みや悔しさ、寂しさ、悲しみがひしひしと伝わって来ました。
絨毯についた手に、次から次へと涙がこぼれ落ちていました。
(ヒトミ・・・)
私は、その手を優しく舐めてあげることしかできませんでした。
気が付くと、もう夕暮れになっていました。
『カズ・・・。お前は優しいね。心配させてごめん。お前だけは、私の味方だね。』
だいぶ落ち着いた彼女が微笑みました。
『今夜は、豪華なディナーにしましょ。買い物行ってくるから、待っててね。』
そう行って、彼女はいつもの買い物バッグを持って出て行きました。
その晩は、ヒトミの宣言通り、豪華なおかずが並びました。
わたしの好物の「お刺身」もありました。
『お母さんの分は、ちゃんとあるから、遠慮しないで食べてね。』
(遠慮するネコ・・・は、多分いないと思います。)
私たちは、いろんな話をしながら、楽しいディナーを堪能したのです。
もっとも、私は時おり、
『ニャ。』
と相槌をうつしかできませんでしたが・・・。
食べ終わってからは、ベッドの上に移り、話しをしました。
少しして、ヒトミは、押入れの奥から、古ぼけた箱を出してきたのです。
『カズに私の大切なものを見せてあげる。』
そう言って、箱の中身を見せてくれました。
いくつかの写真は、彼女の小さい時の写真でした。
『これがね、私のお父さんとお母さん。私が撮ったんだよ。』
優しそうな若い夫婦が笑顔で写っていました。
『お父さんはね、私がちっちゃい頃に死んじゃったの。おばさんたちは、病気だって言ってたけど、本当はね、お仕事を頑張りすぎて、自殺しちゃったんだって。かわいそうだよね・・・。』
言葉が詰まった彼女を見上げる。
『ハハ。ごめんごめん。えっとねぇ~、これが、私のボーイフレンドよ。』
小学生の男の子が写っており、右上に私には読めませんが、名前らしい文字が書いてありました。
(へ~こいつかぁ・・・。えらくチビじゃん。)
ネコに「チビ」と言われる人も珍しいと思います。
『それからね、これがとっておきなの。』
(・・・!!)
目の前に置かれた写真に、私は釘付けになりました。
(そんなことって・・・まさか・・・)
ゆっくり、私の遠い記憶がよみがえってきました。
『この子達はね、小さい時に神社で拾ったの。本当はもう一匹いたんだけどね、お母さんと行った時には、2匹しかいなくて。』
まぎれもない、私の妹たちでした。
『お母さんと二人で、一生懸命に何日も探したんだよ。でも見つけられなくて・・・。どこかで生きていてくれたらいいけど・・・。』
(ここに、いるよ・・・。ヒトミ。)
何だか胸の辺りがキュンとしていました。
『ヒメとリコって言うの。ヒメはね、拾ってからすぐに、別の家にもらわれて行ったんだ。リコはずっと、私の友達で、一緒に暮らしてたんだけど・・・』
ふと見ると、彼女の目からは、涙がこぼれ始めていました。
『リコはね、車に轢かれてしんでしまったの・・・。私がちゃんとドアを閉めなかったから。私の後を追いかけて出てきて・・・。私のせいなの・・・許してねリコ。』
(ヒトミのせいじゃないよ。泣かないで。妹たちは、ちゃんと幸せに生きていたんだ。ヒトミのおかげで・・・。良かった・・・。)
私はずっと気がかりであった妹たちのことが分かり、心の奥にあった悲しみが、一つ消えるのを感じました。
と、同時に・・・
(まさか・・・もしかして?)
ふと見ると、別の写真に、背中に箱を付けた女の子が写っていました。
(この子は!!)
その写真を見つめる私に気付いたヒトミ。
『そんなに見ないでよ。恥ずかしいから、それがちっちゃい時の私よ。』
涙を流しながら、彼女が照れ笑いをしました。
そうして、小さな袋を開いたのです。
「リンリン♪」
その音を忘れるはずがありません。
『この鈴はね、小学校に入学した時に、お父さんがランドセルに付けてくれたの。この鈴を鳴らすとね、いつもネコちゃんたちが、走ってきたんだよ。一度、壊れたんだけど、彼が直してくれたの。懐かしいわ・・・』
(ヒトミは、あの時の女の子なんだ。大好きだったあの女の子なんだ。)
『わっ!どうしたのカズ!』
思わず私は、ヒトミの胸に飛びついたのでした。
(ありがとう、ヒトミ。私たちを助けてくれてありがとう。)
私のヒゲを、涙が伝っていました。
『変なカズ。なんであなたが泣くのよ・・・。センチってるのは私なんだからね。』
ヒトミの頬にも、涙が次から次へと流れていました。
ある日の午後早く、ヒトミが、落ち込んだ顔で帰ってきました。
(どうかしたの?学校は?)
心配そうに、見上げる私に、
『何でもないの、でもね・・・。もう学校なんて行きたくない。』
見る見る彼女の瞳に涙が込み上げてきました。
『ごめんね、カズのお気に入りの絵がなくなっちゃった・・・』
彼女は絵が上手くて、少し前に、私の絵を描いてくれたのです。
私はもちろん大喜びで、壁に貼った自分の絵を何度も眺めました。
今年の校内美術展に、彼女は初めて、その絵を出展したのです。
テーマは「家族」。
母や父、兄弟などの絵が並ぶ中で、1枚だけ貼られたネコの絵は、校内で話題になった様で、ヒトミは興奮気味に話してくれました。
その二日後に起こった出来事です。
『誰かが・・・カズの絵を・・・』
ヒトミが、絵の並ぶ廊下を通りかかると、壁の前にいたみんなが、サっと退いたのです。
その床には、無残に破かれた彼女の絵が、散らばっていました。
それを見た彼女は、その場から、泣きながら走って帰ってきたのでした。
『あんなヤツラ、絶対に許せない!もうこれ以上、ガマンなんてできない!!私の大切な家族の絵を・・・クッソーッ!!』
あんなに激しい彼女を、私は初めて見ました。
『私は何も悪いことしていない!なのに・・・あんなヤツラ、死んでしまえばいい!・・・悔しいよ・・・。どうして私だけ、こんな目に・・・。』
ヒトミの心の痛みや悔しさ、寂しさ、悲しみがひしひしと伝わって来ました。
絨毯についた手に、次から次へと涙がこぼれ落ちていました。
(ヒトミ・・・)
私は、その手を優しく舐めてあげることしかできませんでした。
気が付くと、もう夕暮れになっていました。
『カズ・・・。お前は優しいね。心配させてごめん。お前だけは、私の味方だね。』
だいぶ落ち着いた彼女が微笑みました。
『今夜は、豪華なディナーにしましょ。買い物行ってくるから、待っててね。』
そう行って、彼女はいつもの買い物バッグを持って出て行きました。
その晩は、ヒトミの宣言通り、豪華なおかずが並びました。
わたしの好物の「お刺身」もありました。
『お母さんの分は、ちゃんとあるから、遠慮しないで食べてね。』
(遠慮するネコ・・・は、多分いないと思います。)
私たちは、いろんな話をしながら、楽しいディナーを堪能したのです。
もっとも、私は時おり、
『ニャ。』
と相槌をうつしかできませんでしたが・・・。
食べ終わってからは、ベッドの上に移り、話しをしました。
少しして、ヒトミは、押入れの奥から、古ぼけた箱を出してきたのです。
『カズに私の大切なものを見せてあげる。』
そう言って、箱の中身を見せてくれました。
いくつかの写真は、彼女の小さい時の写真でした。
『これがね、私のお父さんとお母さん。私が撮ったんだよ。』
優しそうな若い夫婦が笑顔で写っていました。
『お父さんはね、私がちっちゃい頃に死んじゃったの。おばさんたちは、病気だって言ってたけど、本当はね、お仕事を頑張りすぎて、自殺しちゃったんだって。かわいそうだよね・・・。』
言葉が詰まった彼女を見上げる。
『ハハ。ごめんごめん。えっとねぇ~、これが、私のボーイフレンドよ。』
小学生の男の子が写っており、右上に私には読めませんが、名前らしい文字が書いてありました。
(へ~こいつかぁ・・・。えらくチビじゃん。)
ネコに「チビ」と言われる人も珍しいと思います。
『それからね、これがとっておきなの。』
(・・・!!)
目の前に置かれた写真に、私は釘付けになりました。
(そんなことって・・・まさか・・・)
ゆっくり、私の遠い記憶がよみがえってきました。
『この子達はね、小さい時に神社で拾ったの。本当はもう一匹いたんだけどね、お母さんと行った時には、2匹しかいなくて。』
まぎれもない、私の妹たちでした。
『お母さんと二人で、一生懸命に何日も探したんだよ。でも見つけられなくて・・・。どこかで生きていてくれたらいいけど・・・。』
(ここに、いるよ・・・。ヒトミ。)
何だか胸の辺りがキュンとしていました。
『ヒメとリコって言うの。ヒメはね、拾ってからすぐに、別の家にもらわれて行ったんだ。リコはずっと、私の友達で、一緒に暮らしてたんだけど・・・』
ふと見ると、彼女の目からは、涙がこぼれ始めていました。
『リコはね、車に轢かれてしんでしまったの・・・。私がちゃんとドアを閉めなかったから。私の後を追いかけて出てきて・・・。私のせいなの・・・許してねリコ。』
(ヒトミのせいじゃないよ。泣かないで。妹たちは、ちゃんと幸せに生きていたんだ。ヒトミのおかげで・・・。良かった・・・。)
私はずっと気がかりであった妹たちのことが分かり、心の奥にあった悲しみが、一つ消えるのを感じました。
と、同時に・・・
(まさか・・・もしかして?)
ふと見ると、別の写真に、背中に箱を付けた女の子が写っていました。
(この子は!!)
その写真を見つめる私に気付いたヒトミ。
『そんなに見ないでよ。恥ずかしいから、それがちっちゃい時の私よ。』
涙を流しながら、彼女が照れ笑いをしました。
そうして、小さな袋を開いたのです。
「リンリン♪」
その音を忘れるはずがありません。
『この鈴はね、小学校に入学した時に、お父さんがランドセルに付けてくれたの。この鈴を鳴らすとね、いつもネコちゃんたちが、走ってきたんだよ。一度、壊れたんだけど、彼が直してくれたの。懐かしいわ・・・』
(ヒトミは、あの時の女の子なんだ。大好きだったあの女の子なんだ。)
『わっ!どうしたのカズ!』
思わず私は、ヒトミの胸に飛びついたのでした。
(ありがとう、ヒトミ。私たちを助けてくれてありがとう。)
私のヒゲを、涙が伝っていました。
『変なカズ。なんであなたが泣くのよ・・・。センチってるのは私なんだからね。』
ヒトミの頬にも、涙が次から次へと流れていました。
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