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アンヌ婦人と赤い靴
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金髪でセミロング姿をしたご令嬢、エラにはアンヌと呼ばれる母親が存在していた。
アンヌの容姿はエラとよく似てはいたが、長い髪を結っておっとりとした雰囲気を持つ人物である。
また、病弱で床に伏せる事は特段に不思議な話ではなかった。
そして年配メイドのリズはかつて、アンヌの養育係を務めた人物に他ならなかった。
キャルロット家へ嫁ぐときにアンヌは信頼を置いていたリズを説得し、メルバン家から連れて来たのである。
ウィリアム侯爵とアンヌの出会いは舞踏会でのアクシデントが切っ掛けとなった。
その前にこの舞踏会を催しした今は亡きランスロット伯爵がどのような人物であるか少しだけ解説しておく必要がある。
ランスロット伯爵の風貌は年老いており、1国の王にも劣らぬ風格の持ち主であった。
また、民を重んじた事で民衆の信頼も厚いものであった。
ランスロット伯爵の招待で出向いた会場は和やかな雰囲気で始まった。
しかし、その和やかな雰囲気は一瞬にして消えた。
地震で建物が激しく揺れ、ろうそくや皿、シャンデリアなどが大量に落ちて来たのだった。
建物は火の海が走るが如く、燃え広がっていく。
そこに倒れていたのが両親の説得により、政略結婚の目的で出向いていたメルバン家のアンヌだった。
アンヌを見たウィリアム侯爵は抱き抱えて建物から脱出を試みた。
この時に落としたのがアンヌの履いていた見慣れない綺麗なルビー色をした上品な靴、アンヌの馬車を見送った後に偶々その靴を拾ったのがウィリアム侯爵だった。
所が意識が朦朧としていたアンヌは助けてもらった紳士を正確には覚えてはいなかった。
アンヌは命の恩人を探すため、両親の反対を押し切って執事に頼んだ末、落とした靴を探し当てたのだった。
再会したウィリアム侯爵とアンヌは約2年程の歳月をかけて少しづつ心の距離を縮めていき、”この人以外に愛せる人は現れない”と確信を持ったアンヌはメルバン家を飛び出してウィリアム侯爵との結婚に至るのだった。
時を超えてエラが6~7歳だったこの頃、同時にメルバン家の遠縁に当たるリバース子爵に不穏な疑いと噂がまことしやかに流れていたのであった。
その内容とは大まかには王であるオルレアン公王室を失脚させるというものであった。
しかし、例えリバース子爵が王家を意図して失脚させたとしても、何の利益も得られるものでは無かった。
この情報を聞きつけていたのがウィリアム侯爵に忠誠を誓った側近、アルフレッドだった。
容姿は生真面目で白髪交じりで眼鏡をかけ、手入れの行き届いた紳士服を纏っている。
所変わって現在のエラはと言うと、ひょろっとした新人門番のドニーを引き連れて森に入っていたのだった。
金髪でセミロングの髪をかきあげたエラは何か気合を入れている様だった。
「ドニー、今日はカエル、カタツムリ、蛇を捕まえるのよ。」
この一声を聞いて困惑したのは恐らくドニーだけではない筈。
「お嬢様、それを捕まえて何をするおつもりで・・・」
ドニーの顔は非常に困惑めいて歪んでいたのだった。
これに元気よく反応したのが他でもないエラだった。
「それは勿論、捕まえて調理するのよ!」
この自信めいた顔は正にドヤ顔と言わずして、他に見当たる言葉は無かった。
それを聞いたドニーは一寸の躊躇なく、清々しい顔で屋敷に戻ろうとする。
「お嬢様、それでは頑張ってください。僕は帰ります。」
それを引き留めるかのようにエラは続けた。
「オネショしたでしょ。」
「はい、すみません。もうスコット殿にバレてからかわれたのでどうでも良いです。
多分、その秘密はお嬢様が知る前からバレてました。」
「エミリーと上手くいってるの?」
「お嬢様の力を借りずとも何とかします。多分。」
「・・・」
エラの脅し文句は全て秘密がバレて無敵になったドニーに効くことは無かったのだった。
「序に屋敷に戻り次第、ミセス リズに密告するのでご覚悟を。」
そのように畳みかけたドニーはエラとの窓口を閉じたのだった。
こうなっては遇の音も出ないエラ。
しかし探求心を持ったエラは一人で爬虫類を生け捕りにして持ち帰るのだった。
こっそり塀に吊るしていたロープを手繰り寄せて屋敷に入るとエラは何食わぬ顔を貫いたのである。
この時、側近のアルフレッドの耳にはエラが捕まえた爬虫類が何故かこっそり調理されている事を耳に入れていたのであった。
「旦那様、今日のお食事でございますが少々風変りで申し訳ありません。」
深々と頭を下げたアルフレッド。
その席にはウィリアム侯爵、アンヌ侯爵夫人、エラが座っていた。
「少々変わってはいるが悪くはない。これは何かね。」
「エスカルゴのバター炒めでございます。」
「この鶏肉のようなものは鳥かね・・・」
「それはカエルの肉でございます、ソテーしております。」
「・・・」
ウィリアム侯爵は次の言葉を探そうと難義していた。話を繋げる事ができない。
「素晴らしい料理だったが今日は誠に風変りな食事だ。どこでこのメニューを手に入れたのかね。」
「書籍棚からエラ様がお選びになったレシピでございます。」
「・・・」
ウィリアム侯爵は内心、感情論などを出す以前に「またか、どうしてこうなった。」「何処でこんな風変りなレシピを見つけたのか?」と頭の中で文字が駆け巡るばかり。
謎が深まるばかりで首をひねったが敢えて何も言う事は無かったのであった。
その会話を聞いていたアンヌはエラにこう優しく諭すのであった。
「エラ。もし、まだ生きている動物を持っているのなら森に返してあげなさい。
そして私たちは今、ここで美味しく頂いている事を神に感謝しなければなりません。
貴方が見つけてくれた料理は満足のあるものでした。
但し、生ける者の殺生を軽く考えてはなりませんよ。」
アンヌが優しく諭したこの言葉に救われたのは、エラではなくウィリアム侯爵自身であった。
この機を境にエラは年齢を重ねる毎、無謀な冒険を控えていくのでした。
そしてこの日、エラが8歳を迎えた日の事でした。
この会話を人目のつかない場所で聞いていた年配メイドのリズは十字架を切って祈るのだった。
「この平穏な生活が壊れませんように。」と。
アンヌの容姿はエラとよく似てはいたが、長い髪を結っておっとりとした雰囲気を持つ人物である。
また、病弱で床に伏せる事は特段に不思議な話ではなかった。
そして年配メイドのリズはかつて、アンヌの養育係を務めた人物に他ならなかった。
キャルロット家へ嫁ぐときにアンヌは信頼を置いていたリズを説得し、メルバン家から連れて来たのである。
ウィリアム侯爵とアンヌの出会いは舞踏会でのアクシデントが切っ掛けとなった。
その前にこの舞踏会を催しした今は亡きランスロット伯爵がどのような人物であるか少しだけ解説しておく必要がある。
ランスロット伯爵の風貌は年老いており、1国の王にも劣らぬ風格の持ち主であった。
また、民を重んじた事で民衆の信頼も厚いものであった。
ランスロット伯爵の招待で出向いた会場は和やかな雰囲気で始まった。
しかし、その和やかな雰囲気は一瞬にして消えた。
地震で建物が激しく揺れ、ろうそくや皿、シャンデリアなどが大量に落ちて来たのだった。
建物は火の海が走るが如く、燃え広がっていく。
そこに倒れていたのが両親の説得により、政略結婚の目的で出向いていたメルバン家のアンヌだった。
アンヌを見たウィリアム侯爵は抱き抱えて建物から脱出を試みた。
この時に落としたのがアンヌの履いていた見慣れない綺麗なルビー色をした上品な靴、アンヌの馬車を見送った後に偶々その靴を拾ったのがウィリアム侯爵だった。
所が意識が朦朧としていたアンヌは助けてもらった紳士を正確には覚えてはいなかった。
アンヌは命の恩人を探すため、両親の反対を押し切って執事に頼んだ末、落とした靴を探し当てたのだった。
再会したウィリアム侯爵とアンヌは約2年程の歳月をかけて少しづつ心の距離を縮めていき、”この人以外に愛せる人は現れない”と確信を持ったアンヌはメルバン家を飛び出してウィリアム侯爵との結婚に至るのだった。
時を超えてエラが6~7歳だったこの頃、同時にメルバン家の遠縁に当たるリバース子爵に不穏な疑いと噂がまことしやかに流れていたのであった。
その内容とは大まかには王であるオルレアン公王室を失脚させるというものであった。
しかし、例えリバース子爵が王家を意図して失脚させたとしても、何の利益も得られるものでは無かった。
この情報を聞きつけていたのがウィリアム侯爵に忠誠を誓った側近、アルフレッドだった。
容姿は生真面目で白髪交じりで眼鏡をかけ、手入れの行き届いた紳士服を纏っている。
所変わって現在のエラはと言うと、ひょろっとした新人門番のドニーを引き連れて森に入っていたのだった。
金髪でセミロングの髪をかきあげたエラは何か気合を入れている様だった。
「ドニー、今日はカエル、カタツムリ、蛇を捕まえるのよ。」
この一声を聞いて困惑したのは恐らくドニーだけではない筈。
「お嬢様、それを捕まえて何をするおつもりで・・・」
ドニーの顔は非常に困惑めいて歪んでいたのだった。
これに元気よく反応したのが他でもないエラだった。
「それは勿論、捕まえて調理するのよ!」
この自信めいた顔は正にドヤ顔と言わずして、他に見当たる言葉は無かった。
それを聞いたドニーは一寸の躊躇なく、清々しい顔で屋敷に戻ろうとする。
「お嬢様、それでは頑張ってください。僕は帰ります。」
それを引き留めるかのようにエラは続けた。
「オネショしたでしょ。」
「はい、すみません。もうスコット殿にバレてからかわれたのでどうでも良いです。
多分、その秘密はお嬢様が知る前からバレてました。」
「エミリーと上手くいってるの?」
「お嬢様の力を借りずとも何とかします。多分。」
「・・・」
エラの脅し文句は全て秘密がバレて無敵になったドニーに効くことは無かったのだった。
「序に屋敷に戻り次第、ミセス リズに密告するのでご覚悟を。」
そのように畳みかけたドニーはエラとの窓口を閉じたのだった。
こうなっては遇の音も出ないエラ。
しかし探求心を持ったエラは一人で爬虫類を生け捕りにして持ち帰るのだった。
こっそり塀に吊るしていたロープを手繰り寄せて屋敷に入るとエラは何食わぬ顔を貫いたのである。
この時、側近のアルフレッドの耳にはエラが捕まえた爬虫類が何故かこっそり調理されている事を耳に入れていたのであった。
「旦那様、今日のお食事でございますが少々風変りで申し訳ありません。」
深々と頭を下げたアルフレッド。
その席にはウィリアム侯爵、アンヌ侯爵夫人、エラが座っていた。
「少々変わってはいるが悪くはない。これは何かね。」
「エスカルゴのバター炒めでございます。」
「この鶏肉のようなものは鳥かね・・・」
「それはカエルの肉でございます、ソテーしております。」
「・・・」
ウィリアム侯爵は次の言葉を探そうと難義していた。話を繋げる事ができない。
「素晴らしい料理だったが今日は誠に風変りな食事だ。どこでこのメニューを手に入れたのかね。」
「書籍棚からエラ様がお選びになったレシピでございます。」
「・・・」
ウィリアム侯爵は内心、感情論などを出す以前に「またか、どうしてこうなった。」「何処でこんな風変りなレシピを見つけたのか?」と頭の中で文字が駆け巡るばかり。
謎が深まるばかりで首をひねったが敢えて何も言う事は無かったのであった。
その会話を聞いていたアンヌはエラにこう優しく諭すのであった。
「エラ。もし、まだ生きている動物を持っているのなら森に返してあげなさい。
そして私たちは今、ここで美味しく頂いている事を神に感謝しなければなりません。
貴方が見つけてくれた料理は満足のあるものでした。
但し、生ける者の殺生を軽く考えてはなりませんよ。」
アンヌが優しく諭したこの言葉に救われたのは、エラではなくウィリアム侯爵自身であった。
この機を境にエラは年齢を重ねる毎、無謀な冒険を控えていくのでした。
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