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テスト試行。これほど苦痛な作業はない。
眼の前に居並ぶ珍品の数々にルベルカは目を遠くした。
足なんて飾りですよ、と言わんばかりの胴体ゴーレム。ホバーで飛ぶ。おそらく機動力は皆無。
回転して敵を追うトゲのついた球体。
例の森の仲間たちスタイルの射撃ゴーレム。
着ることの出来る鎧型ゴーレム……パワードスーツらしきものを作ろうとしたのだろうが、現状ただの歩いてパンチを繰り出すだけのしろもの。中に人が入る意味はあまりない。
(毎度のことながら……これを全部俺が見るのか)
ルベルカでなければならない理由。それはリテイクを出さねばならないからだ。他三人に任せると「自分の作ったものだから間違いない!」という謎の自信のもとゴーサインを出してしまうことがある。
「これ全部上層部からの依頼で作られたやつなんだよな……」
とりあえずトゲの球体についてはパンジャンボールと名付けようと思う。心の中で。
試験場に出てパンジャンボールを走らせてみる。トゲでトコトコ転がっていく巨大ボール。曲がるにもトコトコトコ、と角度調整してから走る始末。
「精度わるっ……勢いも悪い」
こんなもの子供でも避けられる。
見直しが必要だろう。これを作ったのは……ヴィルトレン。ボードに修正点を記入してサインを書く。次。
「ルベルカ。もう三日も俺の術を受けていない」
後ろからそっと頬を包まれた。ひっと息を呑む。気配がしなかった。大きな掌の感触に内心狼狽えつつ、平成を装って眉を寄せる。
「おい、仕事中だ」
「仕事に差し障るから言っている。部屋にゴーレム錠までかけて……仕方のない子だ。また薬物に頼る気か?」
頼る気、というより頼っている。
この男に頼るのは何かに負けたような気になる。それはルベルカのプライドを脅かす。
卒業して就職したら淫魔の本能を抑えて生きていこうと決めていた。それをこの男はあっさりと暴いてしまう……
「今晩は逃さんぞ。これは上司命令と思え。従えないなら辞めろ」
「………」
ルベルカは俯いた。ここの他に訳ありの淫魔を雇ってくれるラボなどあるはずもない。それに意地を張っていてもいずれ……それは分かっているのだが。
ため息つき、ボードの山を抱えて工房に戻る。ツグミの姿がなく、相変わらずシグマは巨大ゴーレムにかかりきり、ヴィルトレンは復顔とは別の設計図にかかっていた。
「やめたのか?」
「ううん、ちょっと気分転換だよ。今はガトリング帽子を作ってる」
「なあ、なんでマトモなもん作ったかと思えばパンジャン案件作り始めるんだ?」
「趣味かな」
「趣味で研究費使うな」
「それより、君ってまだ所長の力借りてるの? 夢魔の」
どきっとした。知られているとは思ったが、仲間に口出しされたのは初めてだ。
「危ないんじゃない。無意識なんて無防備なものを夢魔に握られるのは」
「……そう思うけど上司命令が下った」
「うわあー」
顔は上げずに生暖かい笑みを浮かべるヴィルトレン。何やら楽しげだ。他人事だと思いやがって。
食事を適当に済ませてシャワーを浴びた。部屋へ戻ってベッドで枕を抱え壁に向かって胎児のように身を丸くする。
「それほど警戒せずとも」
部屋へ入ってきたアオイがふふと苦笑する。こちらも珍しくシャワーを浴びてから来たのか、湯気の気配と風呂上がりのにおいがした。
バスローブでベッドに腰掛けたアオイが、ルベルカの短い髪を指で梳く。
「ゆったりして眠れ。眠れ、眠れ」
夢魔の術なのだから当然だが、アオイの声を聞いていると意識が徐々に落ちていく感覚がする。眠い……
***
くつと喉を鳴らし、アオイは寝入ったルベルカの横髪を弄る。
「我慢は身体に毒だということを教え込むか」
額をつけ、夢を送る。
「!」
ひくんと反応したルベルカが手足を硬直させて眉を寄せる。
「う、う……?」
苦しげに身じろぎし、はく、と息をする。
与えたのは鈍い快楽と抑制。焦れている状態に最も近い。
「ふ、ぅ、ぅ、……ぅぁ」
苦しみもがき、シーツをきつく掴むルベルカ。まだ楽にはしてやらない。もっと、この状態が辛いと、苦しいことだと身体が覚えこむまでは。アオイは唇を舐めた。
「ひ、ぅ……ひゅ、ひゅー」
もどかしさをやり過ごそうと呼吸をし、戸惑うように胸を上下させ、閉じた睫毛に涙を浮かべる。
「苦しいか、ルベルカ?」
「ん、ん」
「我慢が好きなんだろう? もっと我慢させてやろうな」
「くぁ……!?」
びくんと身が跳ねる。
「くっ、くぅ……? ぅ、ぅう、うううう」
悩ましく身をくねらせて苦悶する様は、見ているほうがゾクゾクしてくる。アオイはほうと溜息ついた。
「ふくっ……ぇ、ぇあ、ふぁ」
だんだんと呻き声が嗚咽混じりになってきた。必死に爪を立て、シーツを足で掻いている。
耐え難い快楽の苦しみに溺れ、息も絶え絶えのルベルカ。
「助けてとひとこと言えば何でもしてやるのに……」
「あ、あく。くぅ、ぐ」
「強情が過ぎて再び薬物に手を出した罰だ」
「ぐっ、ぁ。あぐ。んぁ、ああ」
ガクガクと震え本格的に苦しみだした。それでもまだ許さない、薬物は絶対に駄目だとあれほど叱ったのに、手を出した。淫魔は薬物に強い種だが、だからといって健康にいいはずがない。
「今度は………」
「ぁ……ぁ……ぁぁ、ぁー……」
「ちゃんと俺を頼るのだぞ」
こめかみにキスを落とし。
「ひぅっ!!」
唐突に絶頂を与えた。
堰き止められていた快楽が一気に溢れ出した衝撃に、ルベルカの身がガックンと跳ねる。
「ひゅ、ひゅー……ひゅー」
その後もがくがく震えながら涙をこぼし、余韻を流そうとしている。
アオイは机の引き出しを探り、錠剤の入った小瓶を見つけ出した。鼻を鳴らしてポケットにそれを突っ込み、眠るルベルカの鼻をきゅっと摘む。
「悪い子だ」
「ん、む……ふむぅ」
「……ふふ」
唇を尖らせて息をしようとする顔に毒気を抜かれ、アオイは部屋を去った。
***
小瓶がない。やられた。というより見つかってしまった。
朝を迎えても妙に身体が甘く疼いており、すっきりしていない。手足が震える。あの夢魔、何をしてくれたのか。
(やっぱ、寝てる間に何されてるかわかんないってのは問題だな……)
かといって、さすがに監視を頼むわけにもいかない。ルベルカのほうが見られたくない。冗談ではない。
いつもと違い、身体が重く、けだるい気分で職場に出る羽目になった。
どうせ逆らえないのだから、やはり素直に受け入れるべきなのだろうか。
眼の前に居並ぶ珍品の数々にルベルカは目を遠くした。
足なんて飾りですよ、と言わんばかりの胴体ゴーレム。ホバーで飛ぶ。おそらく機動力は皆無。
回転して敵を追うトゲのついた球体。
例の森の仲間たちスタイルの射撃ゴーレム。
着ることの出来る鎧型ゴーレム……パワードスーツらしきものを作ろうとしたのだろうが、現状ただの歩いてパンチを繰り出すだけのしろもの。中に人が入る意味はあまりない。
(毎度のことながら……これを全部俺が見るのか)
ルベルカでなければならない理由。それはリテイクを出さねばならないからだ。他三人に任せると「自分の作ったものだから間違いない!」という謎の自信のもとゴーサインを出してしまうことがある。
「これ全部上層部からの依頼で作られたやつなんだよな……」
とりあえずトゲの球体についてはパンジャンボールと名付けようと思う。心の中で。
試験場に出てパンジャンボールを走らせてみる。トゲでトコトコ転がっていく巨大ボール。曲がるにもトコトコトコ、と角度調整してから走る始末。
「精度わるっ……勢いも悪い」
こんなもの子供でも避けられる。
見直しが必要だろう。これを作ったのは……ヴィルトレン。ボードに修正点を記入してサインを書く。次。
「ルベルカ。もう三日も俺の術を受けていない」
後ろからそっと頬を包まれた。ひっと息を呑む。気配がしなかった。大きな掌の感触に内心狼狽えつつ、平成を装って眉を寄せる。
「おい、仕事中だ」
「仕事に差し障るから言っている。部屋にゴーレム錠までかけて……仕方のない子だ。また薬物に頼る気か?」
頼る気、というより頼っている。
この男に頼るのは何かに負けたような気になる。それはルベルカのプライドを脅かす。
卒業して就職したら淫魔の本能を抑えて生きていこうと決めていた。それをこの男はあっさりと暴いてしまう……
「今晩は逃さんぞ。これは上司命令と思え。従えないなら辞めろ」
「………」
ルベルカは俯いた。ここの他に訳ありの淫魔を雇ってくれるラボなどあるはずもない。それに意地を張っていてもいずれ……それは分かっているのだが。
ため息つき、ボードの山を抱えて工房に戻る。ツグミの姿がなく、相変わらずシグマは巨大ゴーレムにかかりきり、ヴィルトレンは復顔とは別の設計図にかかっていた。
「やめたのか?」
「ううん、ちょっと気分転換だよ。今はガトリング帽子を作ってる」
「なあ、なんでマトモなもん作ったかと思えばパンジャン案件作り始めるんだ?」
「趣味かな」
「趣味で研究費使うな」
「それより、君ってまだ所長の力借りてるの? 夢魔の」
どきっとした。知られているとは思ったが、仲間に口出しされたのは初めてだ。
「危ないんじゃない。無意識なんて無防備なものを夢魔に握られるのは」
「……そう思うけど上司命令が下った」
「うわあー」
顔は上げずに生暖かい笑みを浮かべるヴィルトレン。何やら楽しげだ。他人事だと思いやがって。
食事を適当に済ませてシャワーを浴びた。部屋へ戻ってベッドで枕を抱え壁に向かって胎児のように身を丸くする。
「それほど警戒せずとも」
部屋へ入ってきたアオイがふふと苦笑する。こちらも珍しくシャワーを浴びてから来たのか、湯気の気配と風呂上がりのにおいがした。
バスローブでベッドに腰掛けたアオイが、ルベルカの短い髪を指で梳く。
「ゆったりして眠れ。眠れ、眠れ」
夢魔の術なのだから当然だが、アオイの声を聞いていると意識が徐々に落ちていく感覚がする。眠い……
***
くつと喉を鳴らし、アオイは寝入ったルベルカの横髪を弄る。
「我慢は身体に毒だということを教え込むか」
額をつけ、夢を送る。
「!」
ひくんと反応したルベルカが手足を硬直させて眉を寄せる。
「う、う……?」
苦しげに身じろぎし、はく、と息をする。
与えたのは鈍い快楽と抑制。焦れている状態に最も近い。
「ふ、ぅ、ぅ、……ぅぁ」
苦しみもがき、シーツをきつく掴むルベルカ。まだ楽にはしてやらない。もっと、この状態が辛いと、苦しいことだと身体が覚えこむまでは。アオイは唇を舐めた。
「ひ、ぅ……ひゅ、ひゅー」
もどかしさをやり過ごそうと呼吸をし、戸惑うように胸を上下させ、閉じた睫毛に涙を浮かべる。
「苦しいか、ルベルカ?」
「ん、ん」
「我慢が好きなんだろう? もっと我慢させてやろうな」
「くぁ……!?」
びくんと身が跳ねる。
「くっ、くぅ……? ぅ、ぅう、うううう」
悩ましく身をくねらせて苦悶する様は、見ているほうがゾクゾクしてくる。アオイはほうと溜息ついた。
「ふくっ……ぇ、ぇあ、ふぁ」
だんだんと呻き声が嗚咽混じりになってきた。必死に爪を立て、シーツを足で掻いている。
耐え難い快楽の苦しみに溺れ、息も絶え絶えのルベルカ。
「助けてとひとこと言えば何でもしてやるのに……」
「あ、あく。くぅ、ぐ」
「強情が過ぎて再び薬物に手を出した罰だ」
「ぐっ、ぁ。あぐ。んぁ、ああ」
ガクガクと震え本格的に苦しみだした。それでもまだ許さない、薬物は絶対に駄目だとあれほど叱ったのに、手を出した。淫魔は薬物に強い種だが、だからといって健康にいいはずがない。
「今度は………」
「ぁ……ぁ……ぁぁ、ぁー……」
「ちゃんと俺を頼るのだぞ」
こめかみにキスを落とし。
「ひぅっ!!」
唐突に絶頂を与えた。
堰き止められていた快楽が一気に溢れ出した衝撃に、ルベルカの身がガックンと跳ねる。
「ひゅ、ひゅー……ひゅー」
その後もがくがく震えながら涙をこぼし、余韻を流そうとしている。
アオイは机の引き出しを探り、錠剤の入った小瓶を見つけ出した。鼻を鳴らしてポケットにそれを突っ込み、眠るルベルカの鼻をきゅっと摘む。
「悪い子だ」
「ん、む……ふむぅ」
「……ふふ」
唇を尖らせて息をしようとする顔に毒気を抜かれ、アオイは部屋を去った。
***
小瓶がない。やられた。というより見つかってしまった。
朝を迎えても妙に身体が甘く疼いており、すっきりしていない。手足が震える。あの夢魔、何をしてくれたのか。
(やっぱ、寝てる間に何されてるかわかんないってのは問題だな……)
かといって、さすがに監視を頼むわけにもいかない。ルベルカのほうが見られたくない。冗談ではない。
いつもと違い、身体が重く、けだるい気分で職場に出る羽目になった。
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