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賢者の章

30.湯浴み1

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 広い屋敷の中を暫く歩き、ようやく目的地へと辿り着くセリナ。


「えっと……ここだよね」


 入口の扉を開けて中に入ると、そこは何も無い小部屋だった。小部屋と言っても実家の寝室よりは全然広いのだが、先ほど食事をした広間に比べると随分と空間は狭い。
 そして、その小部屋には既に先客が居て、ちょうど服をメイドに脱がせて貰っている所だった。


「あら、セリナじゃありませんか!」
「あ、フィリア」


 それは聖女フィリア。既に上半身が下着姿になっているフィリアがそこに居た。


「セリナも湯浴みですの?」
「う、うん。ごめんね、わたしは後でーーー」


 極力フィリアの身体を見ない様にしながら、頬を染めて踵を返すセリナ。いくら同性とは言え、裸を見るのは何となく気まずい。そう思って出て行こうとしたのだがーーーー


「ふふ、何処へ行くのですか?一緒に入りましょうセリナ」


 と、笑顔で手を掴まれた。


「で、でも………」
「女同士なので気にする必要はありませんわ。それとも……わたくしと一緒では嫌………ですか?」


 振り返ってフィリアを見ると、とても悲しそうに自分を見ていた。


「う、ううん!まさか」


 そんな顔をされては断れない。セリナは覚悟を決めて了承する。


「ふふっ、嬉しいですわセリナ!」


 今度は一転して、本人の言うように嬉しそうな顔をするフィリア。何だか、いつものフィリアと違って表情がコロコロと変わる。いつもの大人っぽいフィリアでは無く、何となく子供っぽい感じがして、これはこれで可愛いなぁと何とも無しに思うセリナ。


「う、うん。じゃあ服脱ぐね」
「大丈夫ですわ。ここではメイドの方々が全てやってくれますから」


 フィリアがそう言うと、待機していたメイドが「失礼します」と言って、セリナの服を脱がし始めた。


「え………?え?」


 いきなりの事に戸惑うセリナだが、メイド達は慣れているのか、あっと言う間にセリナの服を全て脱がす。いつの間にか下着も取られていて、一糸纏わぬ姿になっていた。

 一瞬の出来事に呆然とするセリナ。ふとフィリアを見ると、うっとりとした表情でセリナの裸を見つめていた。


「きゃっ!」


 慌てて手で大事な所を隠すセリナ。胸を、そしてアソコをフィリアに見られてしまった事に対して、顔を真っ赤に染めて恥ずかしがる。


「あーん、どうした隠してしまうのですか」
「だって……恥ずかしいよぉ………」


 大事な所を隠しながらモジモジと身体をくねらせるセリナ。そんなセリナの目の前には、同じく一糸纏わぬ姿のフィリアが立っている。


「ぁ…………」


 思わず見惚れてしまうフィリアの身体。肌はきめ細かく、透き通るように綺麗な白磁の様な白。
 胸も程よい感じに大きく、それでいて身体全体は華奢で、腰もくびれて細い。
 胸の頂点に実をつけた蕾は、自分と同じく薄桃色の綺麗な蕾。
 視線をずっと下に向けると、ふっくらした恥丘の上に、フィリアの髪の毛と同じ色の金色の毛が、スジに沿って一直線に生えている。しかしそれも途中までで、スジの下の方には生えていない。

 
「セリナ?どうかしましたか?」
「ご、ごめんなさい……フィリアの身体が綺麗だからつい………」


 こんなに至近距離で同年代の少女の裸を見たのは初めてなセリナ。
 以前ウルスス村の秘密基地で、エリーゼの裸を見た事があるが、あの時はエリーゼの身体よりもそのものに目がいって、感想を抱く余裕などなかった。
 もちろん今もそんな余裕は無いのだが、あまりにも美しいフィリアの身体に、つい我を忘れて魅入ってしまった。


「ふふ、セリナの方が綺麗ですわ。さあ参りましょう」
 

 セリナに手を差し出すフィリア。この手を取ると、隠している胸が露出してしまうので一瞬躊躇うセリナだが、フィリアは隠さずに見せている。ならば、自分だけ隠しているのも可怪しいかなと思い、意を決してフィリアに手を差し出す。
 しかしやはり恥ずかしいので、なるべくフィリアを見ない様にし、フィリアに連れられて浴場へと進む。

 セリナだけが恥ずかしがっている様に見えるが、実はフィリアも先程から鼓動が激しく胸を叩いていた。


(はうっ……セリナの裸………見てしまいましたわ……)


 フィリアは常々、セリナがこの世界で一番の美少女だと思っている。その世界一の美少女の裸をマジマジと見てしまい、更に自分の裸も見られてしまい、興奮が治まらない。


(わたくしの鼓動……セリナに伝わらないですわよね………?)


 まさか一緒に湯浴みが出来るなど思ってもみなかった。本当はいつも誘ってみようかと思っていたのだが、断られるのが怖くて誘えなかった。


「着きましたわ。そこの椅子に座ってくださいセリナ」


 何とか平静を装い、セリナにこの屋敷の浴場の説明をする。
 勇者の屋敷では、湯浴みの際に専用のメイドが身体を洗ってくれる。つまり、自分は何もしなくて良いのだが、フィリアの説明を聞いたセリナが固まっている。


「え………?あ、洗って………え?」
「ふふ、実際にやって貰いましょう。お二人とも、宜しくお願い致しますわ」


 フィリアが声を掛けると、それぞれセリナとフィリアの傍に立っているメイドが、頭を下げる。濡れるといけないので、メイドの二人はメイド服ではなく、袖の短い薄手の服と、膝上丈のショートパンツという出で立ちだった。


「失礼致します賢者様。では先ずは、髪から綺麗に致しますね」


 セリナの担当になったメイドは、慣れた手つきでセリナの髪に湯を掛ける。そして一般人ではまず使わないであろう、髪を洗う専用の液体石鹸を泡立て、優しくセリナの髪の毛、そして頭皮を洗っていく。


(あ………結構気持ちいいかも………)


 他人に頭を洗って貰うなど、これが初めての経験だったが思った以上に気持ちが良い。しかし、自分は何もせずに頭を洗って貰う事に対して、かなりの罪悪感と申し訳無さを感じるセリナ。

 ひとしきり頭を洗って貰い、最後にメイドが湯で泡を綺麗に落とす。すると、いつもよりも髪の毛がツヤツヤとしていた。


「うわわ……髪の毛がこんなに綺麗に……!」


 セリナとて女性だ。自分の髪の毛が綺麗になり、思わず嬉しくなる。内心、フィリアの髪はいつも綺麗でいいなぁと思っていたのだが、どうやらこの液体石鹸を使っていたらしい。


「うふふ。遠征中も持ち歩いていて、お宿に泊まる時はいつも使ってましたのよ」


 ウルスス村を出てこの王都に来るまでの間に、宿のある街には何度か滞在した。湯浴みを出来るのは宿に泊まっている時だけなので、セリナもその時は身体を念入りに洗っていたのだが、フィリアが持っている液体石鹸など、普通の宿屋など置いていないので、身体を洗う固形の石鹸を泡立てて頭を洗っていたのだ。もちろんウルスス村でもそうだったので、特に気にしていなかった。


「うわぁ……いいなぁこの石鹸………わたしも………欲しいかも」


 物欲など全く無いセリナが、珍しく物欲しそうな顔をした。そんなセリナの表情を目ざとく見つけ、フィリアは慌てて口を開く。


「そ、それなら、専門店がありますから今度ご一緒しませんかセリナ!?」
「え、専門店?」
「そうですわ!色々な香りの石鹸を置いてますのよ!」


 今日使ったのは、名前は分からないが甘い花の様な匂いがする。落ち着きのある、とても良い匂いだった。


「そうなんだぁ……それは気になるかも」
「では決まりですわね!早速明日のお休みにーーーー」


 そこまで言いかけて、言葉を飲み込むフィリア。
 無理だ。きっと明日のセリナは


「フィリア……?」
「あ……いえ……そうですわね、セリナもまだ王都に慣れていませんし、もう少し慣れてからの方が良いかも……しれません……」


 最後の方はセリナにも聞き取れなかった。しかしフィリアは顔を上げ、泣き笑いの様な表情でセリナを見るのだったーーーーー








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