世界で一番美少女な許嫁が勇者に寝取られた新米剣士の受難な日々

綾瀬 猫

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聖女の章

62.嫉妬

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 馬車での旅は純粋に進んでいた。以前盗賊に襲われ、これを見事に撃退したアルト達だが、あの日以来、盗賊には遭遇していない。


「盗賊ってのは、意外に横の繋がりが深かったりする。もしかすると、俺達の特徴が伝わっているのかもしれん」


 とはレックの談だ。しかし確証は無く、たまたま遭遇していないだけかもしれないと付け加えた。

 兎にも角にも、盗賊に強襲される事も無く、またモンスターに遭遇する事も無く、王都への旅路は平々凡々としたものだった。
 あまり戦闘が無いと剣の腕が鈍りそうだったので、アルトとレックは一日の終わりに毎日模擬戦を行った。もちろん木剣でだ。


「いいぞアルト!昨日より剣速が上がってる!」
「はあぁぁっ!!」


 カコンカコンと、木剣同士がぶつかり合う音が辺りに響き渡る。
 アルトの剣技はかなりの腕前だったが、流石に冒険者三年目の剣士レックにはまだまだ及ばなかった。アルトとレックでは経験した戦闘の回数、潜った死線の数が圧倒的に違う。
 とは言え、冒険者になったばかりのアルトのその腕前に、最初は驚きを隠せなかったレック。自分が冒険者になった時と今のアルトでは、明らかにアルトの方が上だった。まずはそこに驚く。
 そして次に驚いたのは、アルトの成長速度だった。教えれば教えた分よりも、剣を交えればその内容よりもアルトは強くなって行った。


「あらあら、凄いわねぇアルト君。昨日よりも強くなってるわ」


 サリーの言葉に、目を輝かせてアルトを見つめるエリーゼとノエル。自分が想いを寄せるアルトの勇姿を、うっとりとしながら目に焼き付けている。
 しかしエリーゼは、レックにも視線を送っていた。レック達がパーティに加わって以降、エリーゼは何処かの街で一泊する時はいつもレックに抱かれていた。
 今まではビリーとしか身体を重ねた事の無かったエリーゼだが、レックとの行為はビリーとする時に味わう快感の、その何倍もの快感をエリーゼにもたらした。


(うう………ついレックにも目が行っちゃう………)


 もちろん好きなのはアルトだ。だが、レックの逞しい肉体に何度も抱かれ、色々な部分を開拓され、レックに男の悦ばせ方を教わって実践し、最後にはレックの太くて硬いモノで突かれて何度も絶頂する。そんな経験を何度もするうちに、自分でも驚くほどレックを意識する様になっていた。歳上のレックを呼び捨てにするぐらいには親密になっていた。

 
 アルトのカッコ良さの本質が『優しくて美しい』だとしたら、レックのカッコ良さの本質は『豪快で思いやり』だろうか。
 いつもは飄々としているのに、その心の裏側では常に仲間の事を気遣っている。もちろんその仲間の中には、冒険者ではないエリーゼとビリーも含まれていて、レックは全員の事を常に広い視野で見ていた。
 だから誰かが調子が悪いと一番先に気付くのはいつもレックだったし、そのくせ他の部分では豪快さを見せるという、今までエリーゼの周りには居なかったタイプの男性だった。


(わたしはアルトだけ!レックもカッコいいけど………でもやっぱりアルトの事が………)


 再びアルトに視線を戻すエリーゼ。そこには、汗を流しながら必死にレックと木剣を打ち合っているアルト。その綺麗な顔を上気させ、緊張感の中にも何処か楽しそうな、そんな表情を浮かべていた。


(はぁ………やっぱりカッコ良すぎだよアルト)


 エリーゼが熱い視線を送るその後ろで、ビリーは無表情でアルトを見つめていた。そしてその視線アルトから、彼を見つめるエリーゼやノエルに向ける。


(ちぇ。何でアルトばっかり………)


 それはビリーの心の一番奥底に眠る、ビリーの仄暗い感情。同じ男なのに、片や美青年で剣の才能に溢れたモテモテ男。
 片や、その美青年の代わりにすらなれない平凡な男。

 エリーゼに、アルトの代わりでもいいからと、これからも肉体関係の継続を持ちかけたビリー。その時はエリーゼも了承したが、気付けば最近はレックとばかりで、自分が誘ってもレックと約束があるからと断られる。
 なのでサリーとノエルの二人とするのだが、ノエルは決して一線を超える事を了承してくれない。サリー曰く初めては本当に好きになった人に捧げたいと本人に代わって説明されたが、その相手がアルトである事など一目瞭然だ。


(アルトには………世界一の美少女が居るじゃねえか)


 男なら誰だって、セリナの様な超絶美少女を抱いてみたいと思うだろう。しかしその願いが叶う者など、選ばれた男のみ。普通の男は普通の女しか手に入れられない。
 しかしアルトは、セリナと言うその超絶美少女を手に入れたではないか。それなのに、普通よりも可愛いエリーゼやノエルにすら想われている。ノエルなど、処女をアルトに捧げたいと本気で願っている。
 
 ギュッと拳を握りしめるビリー。この差は一体何なのか。何だと言うのか。
 同じ田舎の村で、同じ年に生まれて、同じ時を過ごして来たのに、何故これほどまで立ち位置が違うのか。
 何故欲しいものは全てアルトの方へ行き、自分の方へは来ないのか。一体この差は何なのか。


(なあアルト………俺とお前の何が違うんだ?)


 自分でそう思いながらも、答えは考えるまでも無かった。
 違うのだ。顔の作りも、授けられた称号も、努力する姿勢も、一人の女性に一途な所も、何もかも自分とは違う。

 アルトは神に愛された特別な存在。自分の様な、一般大衆のそれとはかけ離れた存在。
 アルト自身は”剣士”だが、才能は只の剣士以上。その上、”救世の三職”の”賢者”の称号を持つ少女が恋人であり許嫁でもある。
 こんな男が、世界中探してみて他に居るだろうか?剣聖や聖女に許嫁が居たとして、アルトほど容姿にも才能にも恵まれた男だろうか?

 ビリーは否定する。そんな存在、アルト以外に居るものかと。正直、アルトが勇者の称号を得ていてもおかしく無かったのではないか?そんな風にすら思う。
 だから、アルトは自分にとって誇りだ。こんな凄い男と親友なのだから、きっと自分も特別なのだ。


 しかしそう思う反面、こうも思う。


 何でお前みたいな奴が同じ村に生まれて来た?お前が居なければーーーー、セリナもエリーゼも俺のモノだったかもしれないのに!

 それはビリーの心の一番奥底に眠る、ビリー自身も普段は気付いていない黒い感情。
 アルトは親友だ。同じ時を過ごして来て、嬉しい事も悲しい事も一番近くで共有して来た、大事な幼馴染だ。それがビリーの九割以上を占めるアルトへと感情。その中に、周りの誰も、本人ですら気づかない小さな小さな黒い感情が燻っていた。
 そしてそれは、ビリーの中で徐々に大きくなっている。グレノールで思わずアルトを不安にさせる事を言ってしまった程には、既に大きさを増していた。



 
 ーー翌日


「まさかあれが………」
「だな。俺も来るのは久しぶりだ」


 御者席に座るアルトとレック。二人の視線の先にはーーーーー


「あれが王都だ」
「…………王都。遂に着いた」

 アルトがウルスス村を出ておよそひと月。遂に王都に到着したのだ。
 セリナの居るーーーーーー王都に。




 
 
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