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聖女の章
65.王都ギルド
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王都冒険者ギルド内に足を踏み入れたアルト、レック、サリー、ノエルの四人。
外から建物を見た時から分かりきっていたが、やはり中はかなりの広さだった。
「あらあら、カウンターに窓口が六つもあるのねぇ」
「グレノールの倍だな」
カウンター窓口はそれぞれ『依頼受付』『素材買い取り』『相談受付』と、内容はグレノールと同じだが、この王都ギルドでは『依頼受付』の窓口が三つ、『相談買い取り』の窓口が二つある。冒険者の数が多いので、窓口が一つずつでは埒が明かないとの理由だ。
「お兄ちゃんどうするの?」
ノエルがレックに声を掛ける。せっかくギルド内まで来て、このまま帰るのも勿体無い様な気がしたからだ。
「そうだな………どんな依頼があるのか見てみようか」
ホールの左側の壁際に、大勢の冒険者が集まっている。おそらくそこが依頼を貼り出している掲示板なのだろう。
アルト達四人が壁際へと移動する。途中、複数の冒険者達がアルト達を見ながらヒソヒソと何かを話していた。
「ねえ、あの子達って初めて見る顔じゃない?」
「だな。お、あの褐色の姉ちゃんいい女だな」
「隣の桃色の髪の娘も可愛いな。あの服装だと僧女か?いかにも新人って感じがいい」
「ってか、あの銀髪の男の子………凄い綺麗な顔。あの子も冒険者?」
「帯剣してるしそうじゃない?私はあの背の高いガッシリした人が好みかも」
ひと際目を引くアルトを中心に、レックもそれなりにいい男、サリーは色気たっぷりの美人、ノエルも素朴な感じの美少女だ。容姿だけを見れば、アルト達のパーティがこの中で一番だろう。
そんなアルト達に、近くの冒険者達が話し掛けて来る。王都の冒険者達は、外から来た冒険者には優しい。他の街の冒険者よりも仲間意識が高く、人口が多すぎて常に人手不足なので、出来るだけ王都を拠点に活動して欲しいと皆が思っているからだ。
「よう!あんたら見ない顔だが、外から来たのか?」
細身の男が、レックに話し掛ける。雰囲気から見て、レックがリーダーだと見抜いたらしい。
「ああ、グレノールから来た。王都を拠点にしようと思ってる」
「グレノールか。あそこはいい冒険者が揃ってるって聞いてたからな。あんたらの実力も楽しみだ。それでランクは?」
「俺とこっちの女がCランク」
こっちの女と呼ばれて、サリーが目を細める。
「ちょっとレック、こっちの女は無いんじゃない?」
「ん、そうか。悪かった」
「いやいや、その歳でCかよ。相当優秀だなあんたら」
「ふふ、そういうお兄さんは何ランクなのぉ?」
サリーが細身の男の顔を覗き込む。いきなり美人のサリーの顔が近くに来て、男は思わず頬を染めた。
「お、お姉さん美人なのに大胆だな………俺もあんたらと同じCだよ。でも歳はあんたらの方が若そうだもんな」
「俺とこっちの女………じゃなくてサリーは十九だ。そういうあんたは?」
「十代かよ!お姉さんサリーって名前なのか………よ、宜しくな」
「うふふ、宜しくね」
すっかりサリーに惚れてしまった細身の男。その後、歳は二十二歳だとレックの質問に答えた。
そして、周りで見ていた他の冒険者達も次々とアルト達に話し掛ける。
「ねえ君!すっごく綺麗な顔だね!」
「そう………?ありがとう」
「ねえねえ、良かったら名前とか歳とか教えてくれない?」
「俺はアルト。歳は十五だよ」
「うわぁ………二つ下かぁ……君って剣士なの?」
「そうだよ。もしかして君も?」
「う、うん!剣士二年目。あのさ、良かったら今度模擬戦でもーーー」
「ちょっとずるーい!あたしもアルト君と話がしたい!」
「わたしもわたしも!」
一瞬にして女性冒険者に囲まれるアルト。そのほとんどが歳の近い少女達だったが、中には二十代と思わしき女性冒険者も何人か輪の中に居た。
「君って僧女?もしかして新人さん?」
「あ、あの………はい………」
「へえ。僧女は王都ギルドでも数が少ないから貴重だよ。良かったら今度一緒に依頼受けない?」
「え………あの………それはちょっと………」
「おいお前!彼女困ってるだろ!いきなり勧誘するとかルール違反だぞ!」
「ぼ、僕は勧誘のつもりじゃなくて、臨時にでも手伝ってくれたら助かるって意味で………」
「ごめんな。いきなり知らない男に誘われたら怖いよな?」
「い、いえ………少しビックリしただけで………」
ノエルの周りには主に若い青年達が群がっていた。ノエルの容姿もさる事ながら、先程ノエルに勧誘まがいな事を言った男が言う通り、僧女は総じて人数が少ない。
それは王都ギルドに限らず、何処の街でもそうだ。その理由として、僧女とは厳密に言うと戦闘職では無いからである。
数は少ないが攻撃魔法も使える僧女だが、やはり主に会得する魔法は回復系の魔法である。なので僧女の称号を授かった者は、冒険者になる他に街の教会でシスターになるという選択もある。
シスターとは、怪我をした者が教会を訪れた際、回復魔法で傷を癒やす。もちろん教会にお布施を払う必要はあるが、優秀な僧女だと大きな怪我も立ちどころに治してしまう。そんなシスターという職業に憧れる者も多く、僧女の称号を得た者の半数以上はシスターになるので、冒険者に僧女は少ない。
余談だが、シスターの特別な仕事として、体内に精液を放出された際に【天浄魔法】で女性の体内を綺麗にし、妊娠するのを防ぐという仕事も存在する。
しかしこれにはそれなりのお布施と、シスターへの懺悔が必要である。懺悔を聞いたシスターは依頼者の女性に説法を説き、そして魔法の行使へと至る。
ノエルがパーティに加入する前に、サリーがレックに中で射精された時などは教会で懺悔し、高い金を払って【天浄魔法】を掛けて貰っていた。
ひと月に一度か二度のペースで教会にやって来るサリーに対して、シスターのこめかみがピクピクと脈動していたのは言うまでもない。【天浄魔法】が使えるノエルがパーティに加入してからは、何も気にする事無く男に中で射精して貰えるので、ある意味サリーにとってノエルは、とても大切な存在だと言える。体外よりも体内で射精される方が好きなのだ。
「なるほど。剣士二人、武闘家一人、僧女一人のパーティか。悪くないな」
レックに話掛けながら、アルトとノエルをちらりと見る細身の男。ふと、アルトが腰から下げている剣が気になった。
「あの若いの、随分いい剣を使ってるな」
「分かるか?俺も気になってたんだが、銘までは分からん。ただ、斬れ味は凄まじい剣なんだ」
王都までの旅の最中で、アルトの剣の斬れ味は何度も目撃した。アルトが自分の師から餞別にと受け取った品らしいが、それ以上の事はレックも聞いていない。
「へえー。鞘の意匠も何か神秘的だし、どんな感じの剣なんだ?」
「真っ黒い剣身だ。俺も初めて見る」
「黒い………剣身?」
細身の男が顎に手を当てて思考を始める。黒い斬れ味の鋭い剣身の剣。何処かで聞いた事がある様な気がしたのだ。
男が何やら考えている姿を見て、レックは実際に見て貰った方が良いだろうと思い、アルトを呼ぶ。
「おいアルーーー」
しかしちょうどその時、アルト達の居る依頼書の張り出しの壁際に、一人の男が現れた。その男の闘気を肌で感じて、アルト、レック、サリーの三人は思わず身構える。背中にはじんわりと汗が流れていた。
「あ、ギルドマスター!お疲れ様です!」
「お疲れ様ですギルドマスター!」
「はぁ……ギルドマスター………今日も渋くてステキ………」
冒険者達が皆一様に、突然現れた男に頭を下げている。彼らの言葉から察するに、どうやらこの王都ギルドのギルドマスターらしい。
「王都の……ギルドマスター………?」
歳の頃は四十前後。灰色の長髪で、眼光は鋭い。一見すると身体つきはヒョロっとしているのだが、その身体から滲み出る闘気は今までに感じた事の無いほど強大だった。
(何だろう………何か見覚えがある気がする………)
目の前のギルドマスターを見て、何故かアルトはそう思った。初対面の筈なのに、何故かこの人に会った事があるとそう思ったのだ。そしてそれは、決して勘違いでは無かったーーーーー
外から建物を見た時から分かりきっていたが、やはり中はかなりの広さだった。
「あらあら、カウンターに窓口が六つもあるのねぇ」
「グレノールの倍だな」
カウンター窓口はそれぞれ『依頼受付』『素材買い取り』『相談受付』と、内容はグレノールと同じだが、この王都ギルドでは『依頼受付』の窓口が三つ、『相談買い取り』の窓口が二つある。冒険者の数が多いので、窓口が一つずつでは埒が明かないとの理由だ。
「お兄ちゃんどうするの?」
ノエルがレックに声を掛ける。せっかくギルド内まで来て、このまま帰るのも勿体無い様な気がしたからだ。
「そうだな………どんな依頼があるのか見てみようか」
ホールの左側の壁際に、大勢の冒険者が集まっている。おそらくそこが依頼を貼り出している掲示板なのだろう。
アルト達四人が壁際へと移動する。途中、複数の冒険者達がアルト達を見ながらヒソヒソと何かを話していた。
「ねえ、あの子達って初めて見る顔じゃない?」
「だな。お、あの褐色の姉ちゃんいい女だな」
「隣の桃色の髪の娘も可愛いな。あの服装だと僧女か?いかにも新人って感じがいい」
「ってか、あの銀髪の男の子………凄い綺麗な顔。あの子も冒険者?」
「帯剣してるしそうじゃない?私はあの背の高いガッシリした人が好みかも」
ひと際目を引くアルトを中心に、レックもそれなりにいい男、サリーは色気たっぷりの美人、ノエルも素朴な感じの美少女だ。容姿だけを見れば、アルト達のパーティがこの中で一番だろう。
そんなアルト達に、近くの冒険者達が話し掛けて来る。王都の冒険者達は、外から来た冒険者には優しい。他の街の冒険者よりも仲間意識が高く、人口が多すぎて常に人手不足なので、出来るだけ王都を拠点に活動して欲しいと皆が思っているからだ。
「よう!あんたら見ない顔だが、外から来たのか?」
細身の男が、レックに話し掛ける。雰囲気から見て、レックがリーダーだと見抜いたらしい。
「ああ、グレノールから来た。王都を拠点にしようと思ってる」
「グレノールか。あそこはいい冒険者が揃ってるって聞いてたからな。あんたらの実力も楽しみだ。それでランクは?」
「俺とこっちの女がCランク」
こっちの女と呼ばれて、サリーが目を細める。
「ちょっとレック、こっちの女は無いんじゃない?」
「ん、そうか。悪かった」
「いやいや、その歳でCかよ。相当優秀だなあんたら」
「ふふ、そういうお兄さんは何ランクなのぉ?」
サリーが細身の男の顔を覗き込む。いきなり美人のサリーの顔が近くに来て、男は思わず頬を染めた。
「お、お姉さん美人なのに大胆だな………俺もあんたらと同じCだよ。でも歳はあんたらの方が若そうだもんな」
「俺とこっちの女………じゃなくてサリーは十九だ。そういうあんたは?」
「十代かよ!お姉さんサリーって名前なのか………よ、宜しくな」
「うふふ、宜しくね」
すっかりサリーに惚れてしまった細身の男。その後、歳は二十二歳だとレックの質問に答えた。
そして、周りで見ていた他の冒険者達も次々とアルト達に話し掛ける。
「ねえ君!すっごく綺麗な顔だね!」
「そう………?ありがとう」
「ねえねえ、良かったら名前とか歳とか教えてくれない?」
「俺はアルト。歳は十五だよ」
「うわぁ………二つ下かぁ……君って剣士なの?」
「そうだよ。もしかして君も?」
「う、うん!剣士二年目。あのさ、良かったら今度模擬戦でもーーー」
「ちょっとずるーい!あたしもアルト君と話がしたい!」
「わたしもわたしも!」
一瞬にして女性冒険者に囲まれるアルト。そのほとんどが歳の近い少女達だったが、中には二十代と思わしき女性冒険者も何人か輪の中に居た。
「君って僧女?もしかして新人さん?」
「あ、あの………はい………」
「へえ。僧女は王都ギルドでも数が少ないから貴重だよ。良かったら今度一緒に依頼受けない?」
「え………あの………それはちょっと………」
「おいお前!彼女困ってるだろ!いきなり勧誘するとかルール違反だぞ!」
「ぼ、僕は勧誘のつもりじゃなくて、臨時にでも手伝ってくれたら助かるって意味で………」
「ごめんな。いきなり知らない男に誘われたら怖いよな?」
「い、いえ………少しビックリしただけで………」
ノエルの周りには主に若い青年達が群がっていた。ノエルの容姿もさる事ながら、先程ノエルに勧誘まがいな事を言った男が言う通り、僧女は総じて人数が少ない。
それは王都ギルドに限らず、何処の街でもそうだ。その理由として、僧女とは厳密に言うと戦闘職では無いからである。
数は少ないが攻撃魔法も使える僧女だが、やはり主に会得する魔法は回復系の魔法である。なので僧女の称号を授かった者は、冒険者になる他に街の教会でシスターになるという選択もある。
シスターとは、怪我をした者が教会を訪れた際、回復魔法で傷を癒やす。もちろん教会にお布施を払う必要はあるが、優秀な僧女だと大きな怪我も立ちどころに治してしまう。そんなシスターという職業に憧れる者も多く、僧女の称号を得た者の半数以上はシスターになるので、冒険者に僧女は少ない。
余談だが、シスターの特別な仕事として、体内に精液を放出された際に【天浄魔法】で女性の体内を綺麗にし、妊娠するのを防ぐという仕事も存在する。
しかしこれにはそれなりのお布施と、シスターへの懺悔が必要である。懺悔を聞いたシスターは依頼者の女性に説法を説き、そして魔法の行使へと至る。
ノエルがパーティに加入する前に、サリーがレックに中で射精された時などは教会で懺悔し、高い金を払って【天浄魔法】を掛けて貰っていた。
ひと月に一度か二度のペースで教会にやって来るサリーに対して、シスターのこめかみがピクピクと脈動していたのは言うまでもない。【天浄魔法】が使えるノエルがパーティに加入してからは、何も気にする事無く男に中で射精して貰えるので、ある意味サリーにとってノエルは、とても大切な存在だと言える。体外よりも体内で射精される方が好きなのだ。
「なるほど。剣士二人、武闘家一人、僧女一人のパーティか。悪くないな」
レックに話掛けながら、アルトとノエルをちらりと見る細身の男。ふと、アルトが腰から下げている剣が気になった。
「あの若いの、随分いい剣を使ってるな」
「分かるか?俺も気になってたんだが、銘までは分からん。ただ、斬れ味は凄まじい剣なんだ」
王都までの旅の最中で、アルトの剣の斬れ味は何度も目撃した。アルトが自分の師から餞別にと受け取った品らしいが、それ以上の事はレックも聞いていない。
「へえー。鞘の意匠も何か神秘的だし、どんな感じの剣なんだ?」
「真っ黒い剣身だ。俺も初めて見る」
「黒い………剣身?」
細身の男が顎に手を当てて思考を始める。黒い斬れ味の鋭い剣身の剣。何処かで聞いた事がある様な気がしたのだ。
男が何やら考えている姿を見て、レックは実際に見て貰った方が良いだろうと思い、アルトを呼ぶ。
「おいアルーーー」
しかしちょうどその時、アルト達の居る依頼書の張り出しの壁際に、一人の男が現れた。その男の闘気を肌で感じて、アルト、レック、サリーの三人は思わず身構える。背中にはじんわりと汗が流れていた。
「あ、ギルドマスター!お疲れ様です!」
「お疲れ様ですギルドマスター!」
「はぁ……ギルドマスター………今日も渋くてステキ………」
冒険者達が皆一様に、突然現れた男に頭を下げている。彼らの言葉から察するに、どうやらこの王都ギルドのギルドマスターらしい。
「王都の……ギルドマスター………?」
歳の頃は四十前後。灰色の長髪で、眼光は鋭い。一見すると身体つきはヒョロっとしているのだが、その身体から滲み出る闘気は今までに感じた事の無いほど強大だった。
(何だろう………何か見覚えがある気がする………)
目の前のギルドマスターを見て、何故かアルトはそう思った。初対面の筈なのに、何故かこの人に会った事があるとそう思ったのだ。そしてそれは、決して勘違いでは無かったーーーーー
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