生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう

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6話 倒れた少女と残る剣

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 僕は宿屋の中に少女を運び込んだ。

 体はずぶ濡れで、おまけにボロボロだった。
 所々が擦り傷だらけで、痛々しい。

 顔中には泥が付着し、滲んだ少女の血と混ざって固まっていた。

「よいしょっと」
「天月君、力持ちね」

 ルビーさんはよいしょしてくれる。
 だけど僕は首を横に振った。

「これぐらい何ってことないですよ。それより、部屋とか服とか、貸してもらってありがとうございます」
「いいわよ、このくらい。私も冒険者だった頃、よく助けられたから」

 ルビーさんは空いている部屋を提供してくれた。
 かなり助かった。あのまま一階に放置はできないぐらい、弱っているから。

 だけどルビーさんは、僕以外にお客がいない部屋だらけと、皮肉混じりに言いながら、快く部屋を開けてくれた。
 綺麗な新品未使用のベッドの上に少女を横にし、僕が部屋を出た後で、ルビーさんは濡れた服を脱がせると、少し大きめのパジャマを着せた。

「少し大きかったかしら」
「濡れたままの服よりはマシですよ」
「そうよね。私、お洋服を洗濯してくるから、少し見ていてくれるかな?」
「わかりました」

 ルビーさんは部屋を出ていく。
 僕は部屋に取り残され、空いていた椅子に腰を下ろした。

「それにしても、どうしてこんなことに……魔物にでも襲われたのかな?」

 少女は一向に起きない。
 たなびいた金髪が美しく、特に耳は特徴的に長い。
 エルフだ。

 柔和で柔らかに肌。
 整った可愛らしい顔をしているが、その手にはギュッと必死になって握られた剣の柄があった。

「取り返すって、もしかしてこの剣の鞘かな?」

 僕は少女の手から剣を離して、タオルで包んでいた。
 かなり使い込んである。
 年季が入っていて、銀色で美しい。

 硬い金属で打たれた剣で、装飾も見事なもの。
 蔦が絡まったみたいな独特な凹凸のある柄をしていて、まさに一点ものって感じがした。

 きっとこの剣の素材はミスリルだ。
 かなり珍しい素材で、なかなか手に入らない。
 オリハルコン製のものと違い、光沢の良さと切れ味に見合う強度が売りの素材だった。

 だけどやっぱり不思議だ。

「この剣の鞘、今はどこにあるんだろ」

 少女が倒れた時に持っていたのは、剣だけだった。
 本来剣は、本体と鞘とで一つずつのはず。
 だけど少女の腰につけた白いベルトの口の部分には、明らかに鞘が入りそうなスペースが空いていた。

 けれどいざ少女を宿屋に運ぶと、そこに鞘はなかった。
 空っぽだった。
 それなのに剣だけはあるから、きっとどこかで落としたのか、奪われたのかだ。

「手のひらが紫色だったから、きっと強く握ってたんだ。必死に剣だけは持って逃げてた。それなのに、鞘だけがない。うん、絶対取られたんだ」

 少女の握っていた剣の刀身は、真っ赤に濡れていた。
 雨のおかげで少し洗われていたけれど、あれは魔物の血で間違いない。
 きっとこの子は冒険者で、魔物と戦っている最中に、仕方なく逃げてきたんだと思う。

「でも僕、この町にいてこんな子見たことないんだよね。変だな?」

 エルフの少女だ。
 これ見よがしに、興味を持ってもおかくない。
 僕はそんな推測を立てる。

「ってことは他の町か村から? でもどうしてこんな雨の中。そんな時に、普通ここに来るかな? うーん」

 かなり考え難い。
 デスクとセットの椅子に座って、慣れない腕組みをして考え込んでみる。
 だけど全く思いつかない。

 こんな時師匠たちならどうするかな。
 僕はそう考えてみた。
 すると、ファイ師匠なりの考えが頭に浮かんで、すっきりする。

「よし!」

 僕はあることを決めた。
 それからすぐに準備しようと思い、立ち上がると、

「ううっ」

 少女が寝息を立てた。
 苦しそうだ。顔を顰めて、眉根を寄せる。

「どうしたの、大丈夫!」

 僕はこんな苦しそうな表情を浮かべる少女のために、できることを考えた。
 するとリュウラン師匠が作ってくれたよく効く薬を思い出す。

 確かメモを取っていたはずだ。
 材料も簡単に手に入る。
 僕は部屋に戻って、溜め込んでいたアイテムの中から、使えそうなものをピックアップして、少女に飲ませることにしました。
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