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◇16 夜の風景

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 夜。
 それは静寂が包み込む、本来は静かな世界。
 しかしながら、夜の世界には平穏はない。常にネオンの光が迸り、人の安寧と安息を妨げる。悪しき習慣は改善されることはなかった、とか言う、社会派な哲学書が最近発売された。

 けれど、ここ最近の社会は変わっている。
 どう変わったのかはわからないけど、人間にも他の生き物にも、それこそ地球にやさしい形になっている。

 代わりに、政治が安定したんだけどね。
 ここ最近では珍しい、日本の収支で黒字になっているのは、ネットワークと元から得意だった技術革新のおかげ。だけどその立役者は、今の政治の中心にいる人物のおかげだとか、知らないけど。

 とか言ってても、ここはゲームの中。
 今のは、興味のないテレビのニュースと重ねてみたからだ。
 なにせ今アキラは、

「さ、寒い。春だよね、まだ四月も終わりなんだよね!」

 あまりに寒かった。
 アキラは桜色のスチームパンクのジャケットを着てはいるが、それでも寒いのは変わらない。何故かって? そんなの決まっている。

「ここがお墓だから? イメージで寒くしてるの?」

 そう、ここはお墓。
 古びた西洋風のお墓。火葬文化のない、世界だった。
 するとどういうわけか、さっきから薄暗い森の中を淡々と歩いてはいるものの、青白い火の玉が、浮かんでいる。それこそ、楽しんで踊っているみたいだ。

「うわぁ。凄い演出」

 完全に楽しんでいた。これも全部アトラクションの一環みたいなものだ。
 それができるのは、切り替えが早いアキラだから。
 アキラは幽霊を信じていないわけじゃないけど、別にいたら如何っていうタイプ。
 そのせいで、この怖いでしょタイムが全部無駄に終わっていた。迷惑な客だ。

「もしかいして、この火の玉触れるのかな? 【キメラハント】で奪えたら、楽なんだけどなー」

 なんて、流石に無理だ。
 アキラ自身もそのことについて、何となく理解していたが、まさか本当に取れないとなると、ソウラから買っておいたランタンが役に立つ。
 そもそもこうなったのは、


 お店の名前は『Deep sky』。
 そのお店で、店番をしているソウラは、アキラに一つ面白い話をした。

「そうだ、アキラ。ちょっと面白い話があるんだけど」
「面白い話?」
「ええ。この世界はリアルの一日で、こっちは三日が経つんだけどね、その夜の時間。リアル時間の二十二時ぐらいに、ログインして、この町の西にあるお墓に行ってみたら如何かな?」
「お墓?」
「ええ。そこにはゴーストって言うモンスターが出るらしくて、これを試してきてほしいんだ」

 そう言って渡されたのは、青い液体の入った小瓶。
 すぐに割れそうなガラス製で、全然痛くない。
 中身の正体を聞いてみた。

「この中身って何ですか?」
「それは聖水。一番効くのは、実体のないアンデッド系ね」
「へえー」

 アキラは興味が薄かった。
 だけど、使ってみるのはいいかも。
 アキラはソウラから、聖水を渡されて、試してみることにした。


 で、今に至る。
 だけどアキラは、一貫して火の玉に聖水を掛ける気はないらしい。
 なにせ、ゴーストが何かわかっていないんだもん。
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