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◇77 逆に感謝されてしまった?
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意識が遠のいていくのを少女は感じていた。
あまりの暑さ。イベントに参加して以来、最も暑い日和。暑い地帯。そんな場所にやってきたにもかかわらず、ここまで何も飲まなかったことが災いしたのは明白だった。
少女は不意に意識が途切れ、こと切れた糸がほどけた人形のように、全身が砂の中に埋もれてしまう。
(砂漠エリアに来たことは間違いでしたね。反省しました)
途中、サボテンのモンスターに遭遇しなんとか倒した。
それから今度はトカゲの姿をした戦車を発見。種族スキルと固有スキルを見事に活用し、何とか仕留めることが出来たが、それが仇となったようだ。
全身から水分が抜けるのを感じた。理由は炎天下、しかも灼熱の中ひたすらに残骸の処理とメダルの回収をしていたからなのだが、自業自得とはまさにこのことと後悔するも、もう遅い。
そのまま深い闇の中に意識が落ちていく。
抗うこともできず、魂がふわりと抜けるように感じたその時。急に少女たちの心配する声が聞こえた。
(何か話し込んでいるのでしょうか? とても悲壮に満ちていますね)
話の内容はわからなかったが、ふと頬や額が冷たくなるのを感じた。
何かが触れている。ジェルのような、ひんやりとしたものが体温を下げようとしているのだと肌で感じました。気持ちいい。少女はふと思い、自然と暗闇が消えていくのを意識した。
目の前が急に明るくなる。
「うっ……ここは……」
「あっ、気が付いた? Night、フェルノ、気が付いたみたいだよ」
アキラは少女が目覚めるのを待っていました。
ゆっくりと目を開け、鋭い眼がアキラの顔を捉える。先程出合い頭に、「助けてくれてありがとう」と感謝の言葉を伝えた少女です。
(如何やら、今度は私が助けていただいたようですね)
すぐに起き上がって感謝を伝えようとしました。
しかし起き上がれません。自分の体なのに動かせない。億劫な感情が内側から漏れ出して、体が緊張で硬直しているようです。
「これは……一体……」
「熱中症だって。全身の水分が抜けて、体が硬直しちゃっているみたい」
「熱中症? そうですか。それで、こんなに……ありがとうございます。おかげで少し楽になりました」
「ううん。まだだよ。それを言うのは、完全回復してからにしようね」
アキラはそう伝えた。
こういう面は、このゲーム世界では現実世界のように反映されている。
普段は気にしなくてもいいことなのに、この世界では当たり前のように体が堪える。それがストレスかもしれないが、リアルな作りに他ない。
全く以って、この世界は本当にゲームの中なのかとネットで騒がれているわけだ。
アキラも現実との差異があまりない作り込まれた世界観に最初は戸惑ったけど、今はもう完全に分かつ。何せ、トカゲの戦車なんていないからだ。
「あの、額に置かれているものは?」
「氷じゃないよ。冷却ジェルシート」
「そんなものがあったんですか。知りませんでした」
「うーん。ちょっと違うけど、まあいいよ」
アキラは誤魔化した。
固有スキルについては流石に話せない。話しても難しくて首を捻るだけだ。
けれど少女はなにも疑うことはせず、詮索もなかった。
「そうですか。でもありがとうございます。まさか熱中症になるなど、考えもしませんでした」
「気を付けないと駄目だよね」
「アキラ、スポーツドリンク冷やしてきたよ」
「ありがとうフェルノ。飲める?」
「いただきます。……あっ、本当にスポーツドリンクですね」
少女にボトルを手渡した。中身は用意していたスポーツドリンク。
Nightが地面の中を冷やして水を加え、ずっと冷却してくれていたんだ。持っただけで冷たくて、アキラも驚いた。
ゴク……ゴク……ゴク——
中身がなくなった。とてもじゃないが、かなりゆっくり。よっぽど飲めないんだと思い、改めて砂漠の脅威と熱中症の怖さがゲーム内で知れた。
(熱中症ってこんなに怖いんだ。気を付けよ)
少女の口元から飲んだ後のドリンクが少し零れる。よっぽど喉が渇いていたんだろうと、すぐに勘づいた。それから少女は、手を合わせて「ごちそうさまでした」と口にした。
「助かりました。このご恩は一生忘れません」
「御恩って当然のことをしただけだよ。それに私たちも助けてもらったし、なによりここはゲームなんだから、一生なんて言わないで」
「ですが命の危機を救っていただいたことに変わりありません。本当にありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をする。
丁寧で真面目な子だ。アキラはそう思った。
実際、アキラたちの行動は間違っていない。何せゲームはゲームでも脳波を検知しているので、対処が少しでも遅れれば、最悪現実に戻った際に影響が出るかもしれない。運営が想定していること以上のことが起きないとは、誰もわからないのだから。
あまりの暑さ。イベントに参加して以来、最も暑い日和。暑い地帯。そんな場所にやってきたにもかかわらず、ここまで何も飲まなかったことが災いしたのは明白だった。
少女は不意に意識が途切れ、こと切れた糸がほどけた人形のように、全身が砂の中に埋もれてしまう。
(砂漠エリアに来たことは間違いでしたね。反省しました)
途中、サボテンのモンスターに遭遇しなんとか倒した。
それから今度はトカゲの姿をした戦車を発見。種族スキルと固有スキルを見事に活用し、何とか仕留めることが出来たが、それが仇となったようだ。
全身から水分が抜けるのを感じた。理由は炎天下、しかも灼熱の中ひたすらに残骸の処理とメダルの回収をしていたからなのだが、自業自得とはまさにこのことと後悔するも、もう遅い。
そのまま深い闇の中に意識が落ちていく。
抗うこともできず、魂がふわりと抜けるように感じたその時。急に少女たちの心配する声が聞こえた。
(何か話し込んでいるのでしょうか? とても悲壮に満ちていますね)
話の内容はわからなかったが、ふと頬や額が冷たくなるのを感じた。
何かが触れている。ジェルのような、ひんやりとしたものが体温を下げようとしているのだと肌で感じました。気持ちいい。少女はふと思い、自然と暗闇が消えていくのを意識した。
目の前が急に明るくなる。
「うっ……ここは……」
「あっ、気が付いた? Night、フェルノ、気が付いたみたいだよ」
アキラは少女が目覚めるのを待っていました。
ゆっくりと目を開け、鋭い眼がアキラの顔を捉える。先程出合い頭に、「助けてくれてありがとう」と感謝の言葉を伝えた少女です。
(如何やら、今度は私が助けていただいたようですね)
すぐに起き上がって感謝を伝えようとしました。
しかし起き上がれません。自分の体なのに動かせない。億劫な感情が内側から漏れ出して、体が緊張で硬直しているようです。
「これは……一体……」
「熱中症だって。全身の水分が抜けて、体が硬直しちゃっているみたい」
「熱中症? そうですか。それで、こんなに……ありがとうございます。おかげで少し楽になりました」
「ううん。まだだよ。それを言うのは、完全回復してからにしようね」
アキラはそう伝えた。
こういう面は、このゲーム世界では現実世界のように反映されている。
普段は気にしなくてもいいことなのに、この世界では当たり前のように体が堪える。それがストレスかもしれないが、リアルな作りに他ない。
全く以って、この世界は本当にゲームの中なのかとネットで騒がれているわけだ。
アキラも現実との差異があまりない作り込まれた世界観に最初は戸惑ったけど、今はもう完全に分かつ。何せ、トカゲの戦車なんていないからだ。
「あの、額に置かれているものは?」
「氷じゃないよ。冷却ジェルシート」
「そんなものがあったんですか。知りませんでした」
「うーん。ちょっと違うけど、まあいいよ」
アキラは誤魔化した。
固有スキルについては流石に話せない。話しても難しくて首を捻るだけだ。
けれど少女はなにも疑うことはせず、詮索もなかった。
「そうですか。でもありがとうございます。まさか熱中症になるなど、考えもしませんでした」
「気を付けないと駄目だよね」
「アキラ、スポーツドリンク冷やしてきたよ」
「ありがとうフェルノ。飲める?」
「いただきます。……あっ、本当にスポーツドリンクですね」
少女にボトルを手渡した。中身は用意していたスポーツドリンク。
Nightが地面の中を冷やして水を加え、ずっと冷却してくれていたんだ。持っただけで冷たくて、アキラも驚いた。
ゴク……ゴク……ゴク——
中身がなくなった。とてもじゃないが、かなりゆっくり。よっぽど飲めないんだと思い、改めて砂漠の脅威と熱中症の怖さがゲーム内で知れた。
(熱中症ってこんなに怖いんだ。気を付けよ)
少女の口元から飲んだ後のドリンクが少し零れる。よっぽど喉が渇いていたんだろうと、すぐに勘づいた。それから少女は、手を合わせて「ごちそうさまでした」と口にした。
「助かりました。このご恩は一生忘れません」
「御恩って当然のことをしただけだよ。それに私たちも助けてもらったし、なによりここはゲームなんだから、一生なんて言わないで」
「ですが命の危機を救っていただいたことに変わりありません。本当にありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をする。
丁寧で真面目な子だ。アキラはそう思った。
実際、アキラたちの行動は間違っていない。何せゲームはゲームでも脳波を検知しているので、対処が少しでも遅れれば、最悪現実に戻った際に影響が出るかもしれない。運営が想定していること以上のことが起きないとは、誰もわからないのだから。
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