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◇172 ヒントを貰った

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 アキラはソウラの待つ店にやって来た。
 今日も今日とてソウラが1人店番をしている。
 本当に大学生なのかと疑いの目を向けてしまう。

「ソウラさんはいつもいますよね」
「そんなことないわよ。私は昼間しかないから」
「そうなんですか? じゃあ夜は誰が……」
「夜はバーになるからね。けみーが1人でいるわよ」
「会ったことない人ですね」
「うちのギルマスだからね。それよりアキラは今日も1人なの?」
「私はいつも通りですよ。それに今日はこれを持ってきたんです」

 アキラはインベントリからアイテムを取り出した。
 手には紫色の花弁をしたパンジーのような花が握られている。

「うわぁ、頼んでたドクハナだ!」
「頑張って採ってきましたよ。これでいいですよね?」
「ありがとー。おかげさまでアイテムが揃ったよ」
「大変だったんですよ。ちゃんとしてくださいね」

 アキラは苦労が滲み出ていたので、ソウラをジト目で睨んだ。
 するとソウラは何事もなく空き瓶の中にドクハナを押し込み、「そうね」と口にする。
 アキラはじーっとソウラの背中を見ていたが、不意に何かを取り出す動作をする。

「それで何かわかったんじゃない?」
「何かって何ですか?」
「だから毒沼に行って、少しは気晴らしとかヒントとかあったでしょ?」
「気晴らしにはなりましたけど……ヒントって何ですか?」

 アキラは首を捻った。ソウラの言っている意味がわからない。
 スーッと右から左に流れてしまい、2人の思考に相互が生まれる。

「ヒントみたいなのがあったと思うけどね。もしかして気が付いてないのかな?」
「気が付いてないって何ですか?」
「もしかして地面とか見なかった?」
「地面ですか? 断層でできた溝があっただけですけど」

 毒沼の地面にはたくさんの断層の溝があった。
 そこから毒沼の水やヘドロと一緒に毒が噴射されていた。
 単に危険な罠としか思わなかったけど、よくよく考えれば似ているものがある。
 ソウラにはアキラから話していた。

「古代遺跡の床には変な溝があったんでしょ? 何かヒントにならないかな?」
「ヒントは……えっ?」
「だからヒントにならないかなって……ねっ」

 ソウラは笑みを浮かべて振り返った。
 するとポカンとした表情を浮かべて固まるアキラの顔があったので、ソウラは仕方なくしゃがみ込んで道具を取り出した。

「それじゃあもう少しわかりやすいものを見せてあげるね。確かこの辺にピーコが作ったものがあったはずなんだけど……よいしょっと!」

 カウンターの上に木組みの装置を置いた。
 よく公民館とか教育テレビで有名な装置だ。
 ビー玉を転がすと装置のカラクリが作動して面白い動きをするやつだ。
 ご丁寧に、木でできた溝には傾斜が付いている。だけど若干でしかない。

「これって転がるんですか? すっごく遅いですよ」
「だからこうするのよ」

 ソウラは水を垂らした。すると滑りがよくなってビー玉がコロコロと転がる。
 カラクリは非常にシンプルだけど、自然と目がビー玉を追っている。
 カンカンカンと音を立てて、いろんな仕掛けを越えてく。

「うわぁ、半円を回った。今度はドミノみたいに倒れてる。面白い!
「ピーコが暇つぶしに作ってたものだけど、よくできてるわよね」

 ソウラもじっと眺めている。普通によくできていて面白く、最後のレーンに入った。
 ぐるぐると渦を巻いているエリアのビー玉が落ちると、真下にある小さな箱の中にビー玉が入る。
 これで終わりかと思ったが、流れに追いついた水が小さな箱の中に溜まっていくと、ビー玉が浮力で浮いてきてコロンと転がった。
 最後に鐘を鳴らしてゴールを知らせる。結局目を奪われてしまった。

「これでわかったかな?」
「凄いです。このカラクリ装置シンプルですけど面白いです!」
「そうよね。ピーコが去年リアルで作ったものを真似て作ったものだから構造自体はよくできてるのよ。それでこれで言いたいことが理解できたかしら?」
「えーっと、何でしょうか。水を使うってことはわかったんですけど」

 アキラは今日のところは理解力が遅れていた。
 しかしソウラは腕組みをすると、アキラに考える余地を与える。
 そう言えば毒沼でも毒やヘドロが運ばれていたのは、水が原因だった。貯水池は中央の毒沼。ってことは、水があれば何か変わるかもしれない。
 例えば流すのは手に入れた宝玉で、それを水の力で運搬する。
 そうすれば何か起こるんじゃないかと、頭の中でイメージが湧いてきた。

「ソウラさん!」
「やっと気づいたのね。頑張ってね、アキラ」
「はい。何となくですけどイメージが付きました。みんなにも知らせてきます」

 アキラは今日のところはログインできているのが自分だけなので、リアルに戻って蒼伊と烈火に聞いてみることにした。
 ログアウトするため店の外に出ると、ソウラは頬杖をついていた。
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