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◇194 温泉を取り戻せ

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 アキラたちは出会ったプレイヤー。名前はクロユリ。
 彼女はアキラたちを自分が所属するギルドのお店に連れて来ると、今回のことを説明した。

「粗茶ですが」
「あっ、ご丁寧にどうも。美味しいですね」
「裏で採れたものを使っています。それで皆さんをお呼びしたのは……」
「そうだ。どうして見ず知らずの私たちを呼んだんだ。なにか裏があるとみていいはずだ」

 Nightの言い分はもっともだった。
 何の繋がりもないただそこで出会っただけのアキラたちが招かれたのは理由があってのことだろう。
 これが罠と見ても差し支えないが、クロユリは柔らかい唇で微笑んだ。

「確かに裏がありますよ。でも戦ったのち、身ぐるみを剥がそうという気はございません」
「その証拠は?」
「私は武器を装備していません。この通りです」

 クロユリは両腕を広げて見せた。確かに目に見えるような武器は携帯していない。
 しかし暗具を隠し持っている可能性だってある。
 Nightは自分がそうなので重ね合わせると、クロユリの体を触り始めた。
 確かに武器らしきものも、ましてや毒製品も持ってはいないらしい。それだけで信頼を置くことは多少できる。

「確かに戦闘の意志はなさそうだな」
「それじゃあ話を聞いてみようよ。Nightも服借りられたんだからさ」
「バスローブだぞ。これを服と言うのは些か疑問だ」
「すみません。丈が合うものがそれしかなく。ですが皆さんをお呼びしたのは2つ理由があります。ですがまずは本題から。……とは言え、現状は知れましたね」
「うん。温泉のお湯が出なくて温泉に入れないんだよね?」
「見ての通りお客様もガランとしています。私たちのギルドは初期のころからお金を溜めて秘湯の権利とこの場所をギルドホーム兼温泉に浸かれるようにと経営しているんです。ですが秘湯の湯だけではなく、他の温泉まで出なくなってしまって……」
「えっ? それじゃあここのお湯は出るんだね」
「もちろんです。この温泉の秘湯はかなり近い場所にあるので、すぐに湯の花の詰まりを取り除きましたよ」

 あれ? それじゃあクロユリさんたちが気にする必要はないんじゃないか。アキラはふと疑問になった。
 しかしNightはアキラの疑問に対する答えをすでに用意していて、質問として投げかける。

「この店の温泉だけが出るようなら連日忙しすぎてき捌きれないんだろ」
「そうです。本来この街は温泉が一番有名なはず。ですがその温泉を失ってしまっては、街の景気も活性化も憚られます。そこで皆さんには……」
「その湯の花を取り除いて来て欲しいんだよね? そうすれば街の温泉も全部戻ってみんなが温泉に入れるようになる! それから私たちも温泉に入れる。みんながハッピーってことだね!」

 アキラは意識の切り替えで素早く話しを飲み込むと、誰よりも先にフェルノと雷斬を味方につけた。
 2人は優しいので、アキラのはきはきとした反応に同意する。

「そうだねー。流石に温泉はいりたいよー」
「私の最大の目標は温泉に入ることです。クロユリさん、問題解決の際は……」
「もちろんここの秘湯にいつでも入りに来ていただいて構いませんよ」
「皆さん、急いで行きましょう!」

 急にテンションが上がった雷斬の親友のベルは引いていた。
 しかしベル自身も温泉に入りたい気分なので「仕方ないわね」と言いながら正座していた足を崩して立ち上がろうとした。
 Night以外の全員がやる気になったところで、Nightだけは引き下がらない。
 まだ納得がいかないようだ。

「ちょっと待て。クロユリ、どうして私たちなんだ。それに如何してお前たちがそこまでしないといけないんだ。仮にその依頼が街ぐるみのものなら、お前たちが解決するのが筋だろ」
「ちょっとNight!」
「聞く権利がある。話はそれからだ」

 Nightのズバリと棘と芯のある問いかけにアキラは言葉を失った。
 確かに聞いて損はないとどこかで動揺が走る。
 しかし決めたことを捻じ曲げるわけにもいかないので、頑張って意識を切り替えようとしたが、クロユリは「当然の疑問です」と自分から折れた。

「ごもっともです。流石は噂通り一癖も二癖もある方々ですね」
「その言い分、私たちのことを知っていて話かけて来たな」
「はい。私たち、妖帖ようじょうみやびは皆さん、継ぎ接パッチワークぎの絆・フレンズの活躍を知っています。そしてそちらにいる雷斬さんとベルさんのことは特に」

 クロユリの口調に奥ゆかしさと重みが加算された。
 アキラとNightはいち早く空気が変わったことを理解すると、喉の奥を叩くみたいに唾液を飲み込む。
 別に悪意のようなものは感じない。しかしこの類まれな鋭い言葉にはいわゆる言霊が宿っていると、頭のどこかで感じていた。

「すみません、少し空気が重たくなってしまいましたね」
「えっ? そんなことないけどなー」

 しかし1人だけ全く感じていない人がいた。
 フェルノにはこの空気すら重さがないようで、正直全員が口を開けられなかった。
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