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◇210 化椿と椿姫
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巨大な椿の樹の下で、女性が1人佇んでいた。
長い黒髪には蛍光グリーンのメッシュ加工が入っていて、その部分だけを後ろに回すようにして三つ編みでハーフアップしている。
「あの人、どうしてあんな所に立っているんだろう」
「さあな。だが敵意は感じられない」
「NPCかな? それにしてもぼーっとしているね」
目の前の女性はあまりに抜けていてぼーっとしていた。
ぼーっと目の前の巨大な椿を見上げている。
何が楽しいのか、Nightにはわからなかったが、一つだけ確信を持って言える。
「アイツはNPCじゃない。プレイヤーだ」
「「プレイヤー?」」
「プレイヤーを示すアイコンが出ているだろ」
確かによーく目を凝らせば見えてくる。
もしかしたら、あの人は私たちがここにやって来ることを知っていたんじゃないのかな? アキラは何となくそう思った。
「話しかけてみようよ」
「本当に話しかけるのか? ここは街中じゃないんだ。突然襲われても知らないぞ」
「大丈夫だよ。私達は3人だよ?」
「集団戦は1人の個に殺されることもある。ここは慎重にだ」
「おーい!」
Nightの忠告を無視してフェルノは声を張って呼び掛けた。
すると女性はアキラたちを見ると、柔らかな笑みで微笑んだ。
どう捉えたら良いかわからない反応に、アキラたちは一瞬硬直したが、女性はゆっくりと近づいてきた。
「皆さん、大丈夫でしたか?」
この声は聞いたことがある。
ここまでアキラたちを導いてくれた人の声だ。
「この森、道順がわからないでしょう。私も苦労しましたよ」
「それじゃあ、貴女もこの森に……」
「はい。迷っていたところを私の固有スキルで道を開き、ここまでやって来ました。その際、皆さんの気配を種族スキルで発見することができたので、助けて差し上げたんです。この森に入って一度迷うとなかなか出られませんからね。ですがもう安心です。一度このホールに到着することはできれば、この森の攻略法はわかったはずですから」
流暢にアキラたちに教えてくれるこの女性は何者なのか。
敵ではないみたいだが、Nightはそれでも幾分か警戒していた。
するとアキラとフェルノが持ち前のコミュ力で話しかける。
「あの、助けてくれてありがとうございました。私はアキラって言います、それでこっちが……」
「フェルノだよ。インフェルノのフェルノ。それからこっちはNightね」
「正確にはBlue Nightだがな」
別に要らない訂正をしておく。
すると女性の方も自己紹介を簡単にしてくれた。
「私は椿姫です。恥ずかしいので、椿と呼んでください」
「椿さん?」
「はい。何ですか?」
恥ずかしいなら、如何して“姫”何て付けたんだろう。
プレイヤーネームは原則変えられないはずなのに、後悔しているみたいだ。
「それはそうと、椿はどうしてこんなところにいるんだ」
「もちろん、この椿を見に来たんです。私のプレイヤーネームと親近感を感じて」
「「「ああ」」」
普通に納得してしまった。
すると椿姫は普通ではありえない程大きくて太い幹になった椿の袂に向かい、手を伸ばして何かを取ろうとしていた。
そこには赤い椿の花が咲いており、軽くもぎ取ると、種が落ちてきた。
「さて皆さん。これが報酬です」
「種?」
「種なんてあってどうするんだろ? もしかして植えるのかな?」
「面白いことを言いますね。でも、悪くはないと思うよ」
「それじゃあ何に使うんですか?」
「これはね……」
「椿油だな」
椿姫の出番をかっさらった。
むくっと頬を膨らませて、Nightのことを凝視している。
「私の出番が取られました」
「悪いな。だが種が報酬か。なるほどな」
椿油は聞いたことがある。
確か食用とか美容にも使える万能な油だ。
「でもさ、なんで種なの?」
「この種を集めて種を砕いて中の油分と液体を分けるんだ。それに種でしか入手できないだろ」
「た、確かに……」
フェルノも納得したらしい。
どうせならもう少し欲しいなと思い、アキラたちも種を採取しようとしたが、椿姫がアキラの腕を掴んだ。
「待って。この椿はただの椿ではないんです」
「えっ? 確かに大きいですけど……」
「この椿は化け椿です。攻撃して来るんですよ?」
アキラは立ち止まった。
すると手を伸ばそうとしたフェルノの手が急に枝に叩かれた。
本当に攻撃してきたので、剣を抜こうとしたけれど、Nightは興味もなく優しく種だけもぎ取った。
「悪意を持って取る必要はない。無感情で抜き取るようにして種だけ貰えばいい。それにこの種、一粒で十分なんだろ?」
「そうです。この種はたったの一粒で木の桶一杯に椿油を絞ることができますから、あまり無作為に種を取る必要はないんです。1日に1人一粒だけ。それで十分なんですよ」
椿姫はアキラたちに説明した。
化け椿に一礼し、種を一粒だけ貰うことにしてインベントリの中に入れると、急に森の木々たちがガサガサと揺れ出した。
「な、何!?
「もしかして怒らせちゃったのかなー?」
そう思ったのも束の間。
木々たちが道を作ってくれた。どうやら本当に帰り道を教えてくれるらしく、最後は味気ない終わり方だった。
「それでは帰りましょう」
「あっ、待ってください」
椿姫は先に歩き始め、アキラたちもやることが無くなったので一緒になって帰ることにした。
長い黒髪には蛍光グリーンのメッシュ加工が入っていて、その部分だけを後ろに回すようにして三つ編みでハーフアップしている。
「あの人、どうしてあんな所に立っているんだろう」
「さあな。だが敵意は感じられない」
「NPCかな? それにしてもぼーっとしているね」
目の前の女性はあまりに抜けていてぼーっとしていた。
ぼーっと目の前の巨大な椿を見上げている。
何が楽しいのか、Nightにはわからなかったが、一つだけ確信を持って言える。
「アイツはNPCじゃない。プレイヤーだ」
「「プレイヤー?」」
「プレイヤーを示すアイコンが出ているだろ」
確かによーく目を凝らせば見えてくる。
もしかしたら、あの人は私たちがここにやって来ることを知っていたんじゃないのかな? アキラは何となくそう思った。
「話しかけてみようよ」
「本当に話しかけるのか? ここは街中じゃないんだ。突然襲われても知らないぞ」
「大丈夫だよ。私達は3人だよ?」
「集団戦は1人の個に殺されることもある。ここは慎重にだ」
「おーい!」
Nightの忠告を無視してフェルノは声を張って呼び掛けた。
すると女性はアキラたちを見ると、柔らかな笑みで微笑んだ。
どう捉えたら良いかわからない反応に、アキラたちは一瞬硬直したが、女性はゆっくりと近づいてきた。
「皆さん、大丈夫でしたか?」
この声は聞いたことがある。
ここまでアキラたちを導いてくれた人の声だ。
「この森、道順がわからないでしょう。私も苦労しましたよ」
「それじゃあ、貴女もこの森に……」
「はい。迷っていたところを私の固有スキルで道を開き、ここまでやって来ました。その際、皆さんの気配を種族スキルで発見することができたので、助けて差し上げたんです。この森に入って一度迷うとなかなか出られませんからね。ですがもう安心です。一度このホールに到着することはできれば、この森の攻略法はわかったはずですから」
流暢にアキラたちに教えてくれるこの女性は何者なのか。
敵ではないみたいだが、Nightはそれでも幾分か警戒していた。
するとアキラとフェルノが持ち前のコミュ力で話しかける。
「あの、助けてくれてありがとうございました。私はアキラって言います、それでこっちが……」
「フェルノだよ。インフェルノのフェルノ。それからこっちはNightね」
「正確にはBlue Nightだがな」
別に要らない訂正をしておく。
すると女性の方も自己紹介を簡単にしてくれた。
「私は椿姫です。恥ずかしいので、椿と呼んでください」
「椿さん?」
「はい。何ですか?」
恥ずかしいなら、如何して“姫”何て付けたんだろう。
プレイヤーネームは原則変えられないはずなのに、後悔しているみたいだ。
「それはそうと、椿はどうしてこんなところにいるんだ」
「もちろん、この椿を見に来たんです。私のプレイヤーネームと親近感を感じて」
「「「ああ」」」
普通に納得してしまった。
すると椿姫は普通ではありえない程大きくて太い幹になった椿の袂に向かい、手を伸ばして何かを取ろうとしていた。
そこには赤い椿の花が咲いており、軽くもぎ取ると、種が落ちてきた。
「さて皆さん。これが報酬です」
「種?」
「種なんてあってどうするんだろ? もしかして植えるのかな?」
「面白いことを言いますね。でも、悪くはないと思うよ」
「それじゃあ何に使うんですか?」
「これはね……」
「椿油だな」
椿姫の出番をかっさらった。
むくっと頬を膨らませて、Nightのことを凝視している。
「私の出番が取られました」
「悪いな。だが種が報酬か。なるほどな」
椿油は聞いたことがある。
確か食用とか美容にも使える万能な油だ。
「でもさ、なんで種なの?」
「この種を集めて種を砕いて中の油分と液体を分けるんだ。それに種でしか入手できないだろ」
「た、確かに……」
フェルノも納得したらしい。
どうせならもう少し欲しいなと思い、アキラたちも種を採取しようとしたが、椿姫がアキラの腕を掴んだ。
「待って。この椿はただの椿ではないんです」
「えっ? 確かに大きいですけど……」
「この椿は化け椿です。攻撃して来るんですよ?」
アキラは立ち止まった。
すると手を伸ばそうとしたフェルノの手が急に枝に叩かれた。
本当に攻撃してきたので、剣を抜こうとしたけれど、Nightは興味もなく優しく種だけもぎ取った。
「悪意を持って取る必要はない。無感情で抜き取るようにして種だけ貰えばいい。それにこの種、一粒で十分なんだろ?」
「そうです。この種はたったの一粒で木の桶一杯に椿油を絞ることができますから、あまり無作為に種を取る必要はないんです。1日に1人一粒だけ。それで十分なんですよ」
椿姫はアキラたちに説明した。
化け椿に一礼し、種を一粒だけ貰うことにしてインベントリの中に入れると、急に森の木々たちがガサガサと揺れ出した。
「な、何!?
「もしかして怒らせちゃったのかなー?」
そう思ったのも束の間。
木々たちが道を作ってくれた。どうやら本当に帰り道を教えてくれるらしく、最後は味気ない終わり方だった。
「それでは帰りましょう」
「あっ、待ってください」
椿姫は先に歩き始め、アキラたちもやることが無くなったので一緒になって帰ることにした。
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