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◇240 座布団3
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フェルノの両拳に炎が灯った。
竜化した腕全体に炎が漫勉なく行き届き、完全に炎を纏った腕になる。
この炎は《ファイアドレイク》最大の特徴。
フェルノの種族が成せる技なのだが、今日は一段と派手に燃えていた。
「凄いフェルノ。今日はいつもよりも燃えているよ!」
「うーん、私はいつも通りやったはずなんだけど……おかしいなぁー」
「おかしい? 何がおかしいの?」
フェルノは唇を歪めていた。
如何やらこの状態は予想外だったらしく、フェルノは困惑している。
「うーん、私今日は火力落としているんだよ?」
「嘘だ! 流石に冗談きついよ」
「冗談じゃなくてマジなんだよねー。いつもよりも火力が高いのはいいんだけど、急に火力が上がるのかな?
チラッとNightに視線をやった。
Nightもいつもよりも火力が出ているフェルノに疑問を抱いていたらしく、見たところ本人に異常がないので、何か別の要因があると睨んだ。
一番可能性が高そうなそれをまずは潰させることにしたNightは、炎を纏う両腕で地面を殴らせた。
「よし、それじゃあフェルノ。早速だが、地面を叩いてくれ:
「地面を叩くの?」
「地面だ。何も考えずに周りの木の葉を巻き込んで派手にやれ!」
Nightからの要望はいつもの慎重さが欠けていた。
完全に無茶苦茶で狸に化かされているのかと一瞬考えたが、考えても仕方がないのでフェルノは拳を打ち付けて地面を殴った。
乾いた地面にひびが入り、炎が染み込む。
すると他の場所にもひびが生まれて、炎が噴き出した。
「こんなので何が変わるのかな?」
フェルノはわからない。だがNightは予想通りだったのか「ビンゴだ」と口にした。
Nightに視線をやり、何がビンゴなのかアキラは聞こうとした。
けれど次の瞬間、白い煙が爆発した。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
突然のことに驚き、とりあえず頭を低くして口元を覆った。
けれど白い煙が爆発しただけで、特に変わったことはない。
また狸に化かされたのかな? アキラはそう思ったものの、視界まで覆う白い煙はしばらくすると綺麗さっぱり消えてしまった。
ここまでものの10秒ほどで、あっさりしていた。
何が起きたのか、正確に理解できないまま元の景色が戻ってくる。
「みんな大丈夫?」
「もちろんだよ。でもさ、今の何だったのかな?」
「特に変化が生まれた訳ではないのか。謎だ。これもしようか何かか?」
Nightも首を捻る始末で、継ぎ接ぎの絆の頭脳がお手上げ状態になってしまう。
「Nightがわからないんじゃ、もう無理だよね。とりあえず、もう少し歩いてみようよ。それでダメなら、次の手段ってことで」
「あーあ、上手く行ったと思ったのに」
嘆くフェルノの肩をそっと叩き元気づけるアキラ。
しかしNightは落ち込んでいる2人を静止させた。
「2人とも待て。そこから動くな」
急に叫ばれてびっくりして立ち止まる。
何事かと思ってみていると、Nightの視線が地面を見ていた。
ちょうどアキラたちの足元に藍色の座布団の端が見えている。
「ねえ、コレってさっきも見たよね?」
「うん。この草むらの後ろっぽいね」
先程よりも断然大きな座布団に驚きつつ、草むらを貫通していることも気になる。
アキラたちは悟られないようこっそり覗いてみた。
そこには座布団の上に座る狸が一匹。背中が焼けて焦げていた。
「狸だね」
「背中焦げてるね」
「なるほどな。さっきまで私たちが歩いていた空間自体があの狸が見せていた幻覚と言うわけだ。それをフェルノの炎が焼いたことで、本体にもダメージが入って戻って来れた」
「化かしたお仕置きってことだね。もう何もしてこないもん」
座布団に座る狸、略して座布団狸は全く動いていない。
体の軸が全くズレない上に、きちんと正座までしている。
フェルノにやられて反省しているようなので、アキラたちはこれ以上何もしないことにした。
多分揶揄って遊んでいただけなので、倒すのは可哀そうだなと倫理観が働いた証拠である。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「って、ことがあったんですよ」
アキラはソウラに話し終えた。
サクランボを口に運びながらソウラを見ると、永遠にグラスを拭いていた。
「そんなことがあったのね。でも狸に化かされるなんて……狐もあるのかしら?」
「うわぁ、もう化かされるのは懲り懲りですよ」
あんな経験は二度とごめんだ。
しかも精神のパラメータがずば抜けた高いアキラがフェルノたちに釣られて幻覚を見ていたなんて、完全にGAME性を逸脱している。
机に突っ伏して溜息を吐いたアキラに、ソウラは尋ねた。
「それからアキラたちは如何したの? 帰ったの?」
「山頂に行ってみましたよ。とっても綺麗な景色でした」
あの後座布団狸から離れ、本来の道に戻ると、山頂目指して歩き始めた。
他に誰もいなくて静かだった。
さらには山頂から見た景色はかなりの絶景で、山に行ったこと自体は悪くないと感じる。
「それは良かったわね」
「はい……って言ったらいいんですかね?」
アキラとソウラで食い違った。
本当に良かったと言えるのか、正直迷ってしまうのだった。
竜化した腕全体に炎が漫勉なく行き届き、完全に炎を纏った腕になる。
この炎は《ファイアドレイク》最大の特徴。
フェルノの種族が成せる技なのだが、今日は一段と派手に燃えていた。
「凄いフェルノ。今日はいつもよりも燃えているよ!」
「うーん、私はいつも通りやったはずなんだけど……おかしいなぁー」
「おかしい? 何がおかしいの?」
フェルノは唇を歪めていた。
如何やらこの状態は予想外だったらしく、フェルノは困惑している。
「うーん、私今日は火力落としているんだよ?」
「嘘だ! 流石に冗談きついよ」
「冗談じゃなくてマジなんだよねー。いつもよりも火力が高いのはいいんだけど、急に火力が上がるのかな?
チラッとNightに視線をやった。
Nightもいつもよりも火力が出ているフェルノに疑問を抱いていたらしく、見たところ本人に異常がないので、何か別の要因があると睨んだ。
一番可能性が高そうなそれをまずは潰させることにしたNightは、炎を纏う両腕で地面を殴らせた。
「よし、それじゃあフェルノ。早速だが、地面を叩いてくれ:
「地面を叩くの?」
「地面だ。何も考えずに周りの木の葉を巻き込んで派手にやれ!」
Nightからの要望はいつもの慎重さが欠けていた。
完全に無茶苦茶で狸に化かされているのかと一瞬考えたが、考えても仕方がないのでフェルノは拳を打ち付けて地面を殴った。
乾いた地面にひびが入り、炎が染み込む。
すると他の場所にもひびが生まれて、炎が噴き出した。
「こんなので何が変わるのかな?」
フェルノはわからない。だがNightは予想通りだったのか「ビンゴだ」と口にした。
Nightに視線をやり、何がビンゴなのかアキラは聞こうとした。
けれど次の瞬間、白い煙が爆発した。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
突然のことに驚き、とりあえず頭を低くして口元を覆った。
けれど白い煙が爆発しただけで、特に変わったことはない。
また狸に化かされたのかな? アキラはそう思ったものの、視界まで覆う白い煙はしばらくすると綺麗さっぱり消えてしまった。
ここまでものの10秒ほどで、あっさりしていた。
何が起きたのか、正確に理解できないまま元の景色が戻ってくる。
「みんな大丈夫?」
「もちろんだよ。でもさ、今の何だったのかな?」
「特に変化が生まれた訳ではないのか。謎だ。これもしようか何かか?」
Nightも首を捻る始末で、継ぎ接ぎの絆の頭脳がお手上げ状態になってしまう。
「Nightがわからないんじゃ、もう無理だよね。とりあえず、もう少し歩いてみようよ。それでダメなら、次の手段ってことで」
「あーあ、上手く行ったと思ったのに」
嘆くフェルノの肩をそっと叩き元気づけるアキラ。
しかしNightは落ち込んでいる2人を静止させた。
「2人とも待て。そこから動くな」
急に叫ばれてびっくりして立ち止まる。
何事かと思ってみていると、Nightの視線が地面を見ていた。
ちょうどアキラたちの足元に藍色の座布団の端が見えている。
「ねえ、コレってさっきも見たよね?」
「うん。この草むらの後ろっぽいね」
先程よりも断然大きな座布団に驚きつつ、草むらを貫通していることも気になる。
アキラたちは悟られないようこっそり覗いてみた。
そこには座布団の上に座る狸が一匹。背中が焼けて焦げていた。
「狸だね」
「背中焦げてるね」
「なるほどな。さっきまで私たちが歩いていた空間自体があの狸が見せていた幻覚と言うわけだ。それをフェルノの炎が焼いたことで、本体にもダメージが入って戻って来れた」
「化かしたお仕置きってことだね。もう何もしてこないもん」
座布団に座る狸、略して座布団狸は全く動いていない。
体の軸が全くズレない上に、きちんと正座までしている。
フェルノにやられて反省しているようなので、アキラたちはこれ以上何もしないことにした。
多分揶揄って遊んでいただけなので、倒すのは可哀そうだなと倫理観が働いた証拠である。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「って、ことがあったんですよ」
アキラはソウラに話し終えた。
サクランボを口に運びながらソウラを見ると、永遠にグラスを拭いていた。
「そんなことがあったのね。でも狸に化かされるなんて……狐もあるのかしら?」
「うわぁ、もう化かされるのは懲り懲りですよ」
あんな経験は二度とごめんだ。
しかも精神のパラメータがずば抜けた高いアキラがフェルノたちに釣られて幻覚を見ていたなんて、完全にGAME性を逸脱している。
机に突っ伏して溜息を吐いたアキラに、ソウラは尋ねた。
「それからアキラたちは如何したの? 帰ったの?」
「山頂に行ってみましたよ。とっても綺麗な景色でした」
あの後座布団狸から離れ、本来の道に戻ると、山頂目指して歩き始めた。
他に誰もいなくて静かだった。
さらには山頂から見た景色はかなりの絶景で、山に行ったこと自体は悪くないと感じる。
「それは良かったわね」
「はい……って言ったらいいんですかね?」
アキラとソウラで食い違った。
本当に良かったと言えるのか、正直迷ってしまうのだった。
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