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◇267 双子の少女たち3

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 そんな冗談はさておき、表情が朗らかになっていた。
 頬の筋肉が柔らかくなり、笑みを浮かべていた。

「ごめんね変なこと言っちゃって。でもさ、今の時代は好きなことをできるんだよ?」
「そうだよね。AIも発達していて便利だもんね、お姉さん」
「うん。この街はそんな感じがあまりしないけど……」
「それはお姉さんが見ていないだけだよ。でもさ、何か良いね」

 鬼都は笑みを浮かべていた。
 足をばたつかせていて、今にも走り出したい気分だった。

「あはは、お姉さんのおかげで悩んでたことが何処かに行っちゃったよ!」
「私はまだ少し……」

 しかし羽衣はそこまで楽観的ではなかった。
 そんな羽衣に、明輝はポンと頭に手を置いた。
 ゆっくりと撫でて、艶のある髪をわしゃわしゃした。

「大丈夫。不安に思うのは悪いことじゃないって説明したでしょ?」
「うん」
「でもね、不安の解消方法は人によって違うんだ。何だったら不安から逃げてもいいんだよ?」
「それはダメです!」
「如何してダメなの?」

 明輝は少し視点を変えてみた。
 すると羽衣は抗議を入れた。

「私がやりたいって思ったことだから……です」
「もう答えが出てるね。それで良いんだよ」
「えっ? あっ!」

 明輝の顔が近かった。
 羽衣と目が合い、何処となく緊張してしまっていた。
 頬が赤く染まり、恥ずかしくなってしまった。

「自分で決めた道があるなら突き進めばいいんだよ。大丈夫、難しくなったら回り道をしても逃げたっていい。誰にも自分の選択した結果を否定する権利は無いんだよ」

 そうは言いつつ、明輝はいつも人の心に土足で踏み込む。
 昔から変わっていない性格だった。

「あ、あの!」
「って、ごめんね。ついやり過ぎちゃった」

 明輝は我に返った。
 初対面の子相手に頭を撫でる何て無作法以外の何者でもないと自覚した。

 しかし手を放した瞬間、羽衣は残念そうな顔をした。
 その顔色を始めてみた鬼都はびっくりした。

「失敗しても良いんですか?」
「もちろん良いに決まってるでしょ? 失敗しちゃいけないことも中にはあるけど、そんな気を引き締めないといけないことなら最初から人に話さないよ」
「確かに。お姉さん、人間のこと分かってるね」
「それだと私が人間じゃないみたいだよね?」
「あはは。ごめんごめん。お姉さんはすっごく人間してるよ」

 鬼都は明輝を茶化した。
 しかし明輝は明輝で特に傷付くことは無く、二人が元気を出してくれて良かったとホッとした。

「っと、そう言えば自己紹介してなかったね」

 鬼都は今更ながらに思ってしまった。
 明輝も「そう言えば」と答え、ポンと手を叩いた。

「それじゃあまずは私たちからね。私は天生目鬼都あまなめきと。来年高校生になるんだー。で、こっちが妹の……」
天生目羽衣あまなめはごろもです。私たちは双子何です」
「双子! 一卵性?」
「「はい!」」

 何故そこをハモったのか。その真意は誰にも分からなかった。
 けれど今度は明輝の番だ。

「私は立花明輝。高校一年生」
「高校生だったんだ。それじゃあお姉さんで合ってたね。ねえ、お姉さんは何処の高校に通っているの?」
「御鷹高校だよ。ほら、この街で一番古くて未だに黒板の学校で有名な」
「あー、御鷹高校。何故か市の名前が二回来る学校は幾つかあるけど、その一つの!」
「良く知ってるね。でもそうなんだ」

 今まで気にも留めなかった。
 けれど鬼都たちは受験生だ。中学で調べたりするのだろうと、勝手に納得した。

「御鷹高校……」
「あれれ? 羽衣進学先決めたね」
「うん。面白そうだから」
「確かに部活動も盛んだし、御鷹なら色々融通も利きそうだもんね。良いね、私も決めた」

 二人は何やら話し込んでいた。
 そうこうしている間に明輝は時間になったので、そろそろ駅前に向かうことにした。

「あっ、もうこんな時間だ」
「何か予定があるんですか?」

 羽衣が物寂しそうにしていた。
 しかし明輝はいつもと変わらないテンションで話した。

「友達と待ち合わせをしているから。それじゃあまた何処かで」
「あ、あの!」

 羽衣が珍しく声を張った。
 明輝は首を捻ったが、羽衣は鞄の中から何か取り出した。
 チケットのような物を明輝に手渡した。

「良かったらコレ……」
「くれるの?」
「は、はい……相談に乗って貰えたので」
「別に相談ってわけじゃないでしょ? でもありがとう。って、明日と明後日? ……うーん」

 明輝は困ってしまった。
 チケットの有効期限は明日と明後日で、用事が先に入っていた。
 先約の方を優先させたかった明輝は渋い顔をしてしまった。

「ごめん。イブと当日は予定が入ってて」
「そ、そうですか。それじゃああの! また春先に……そうしたら代わりにお願いできますか?」
「代わりって?」
「このチケットが意味していることです。良ければ御友達と一緒に」

 羽衣は思い切って伝えた。
 その様子を見ていた鬼都は(懐いてるなー)と心の底で思った。
 それと同時に(奥手だなー)とも思ってしまった。流石は双子、意思伝達が素早かった。

「よく分からないけど、変なことじゃなかったら全然いいよ」
「あ、ありがとうございます!」
「うん。それじゃあまたね」

 安堵した羽衣は胸を撫で下ろした。
 明輝は公園を出ていくと、その足で駅前に向かった。
 烈火が待っていると急ぎ早だったが、その間も羽衣の背中を鬼都はさすっていた。
 緊張を解し切り、その表情は見違えていた。
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