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◇307 蕎麦を届ける大晦日

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 「へぇー、そんなことがあったんだねー」
「うん。その後すぐに帰っちゃったんだ」

 明輝は烈火の家を訪れていた。
 明輝の家から烈火の家まではそれなりに近く、蕎麦を持って行っても全く恥ずかしくなかった。

「でも大晦日なのに大変だよねー。私はずっと眠いんだよー」
「あはは、いつも通りの年越しだね。もしかして今年も走るの?」
「もっちろん! 元旦は走らないと」
「それは駅伝にして。個人で走る必要は無いよ?」

 明輝のツッコミも烈火には届かなかった。
 毎年のことなので言っても聞かないからだ。それに本人がしたいことなら尊重した方が後で尾を引かなくて済んだ。

「それで、明輝はこれから如何するのー?」
「蒼伊の家に行こうと思うんだ。一応連絡はしておいたんだけど大丈夫かな?」
「良いんじゃない? だって蒼伊だよ?」

 烈火の理由はよく分からなかった。だけど明輝は「そうだよね。蒼伊だもんね」と納得していた。

「烈火は如何する? 一緒に来る?」
「うーん、今日はパス。明日は深夜からは知らないと間に合わないんだよねー」
「また県をまたぐんだ。……何にも言えないよ」

 もう付いて行けなかった。
 明輝は苦笑いを浮かべるると、「まあ頑張ってー」と烈火に言われた。
 明輝は烈火の家を去ると、次は蒼伊の家へと向かった。



「それで、今度は私の家か」
「うん。ここまで来るの結構大変だったんだよ? 外は寒いし、天候も悪いかったんだから」
「そうか。大変だったな」

 明輝は夜野家に到着した。メイドのよがらに通してもらい、蒼伊の部屋にやって来ていた。
 その間によがらに蕎麦を渡し、完全に手ぶら状態になっていた。

「明輝も大晦日から大変だな」
「そんなことないよ。私よりも斬禍の方が大変だと思うよ」
「斬禍?」
「雷斬の本名。せっかく家に来たのにコーヒーを飲んだらすぐに帰っちゃって、ゆっくりお話もできなかったんだ」
「そうか。だがそれだけ聞くと、ただコーヒーをタダ飲みしにやって来たみたいに聞こえるが……まあ斬禍に限ってそれは無いか」

 斬禍の性格を心得ていた。だからこそすぐに払拭することができた。
 これが烈火ならと思うと、その人の普段から人に対する行動って大事だなと思った。

「それよりごめんね。私も急に来ちゃって」
「構わない。だが……大晦日だぞ?」
「うん、大晦日だよ。もしかして私のこと労ってくれるの?」
「……一応な。私なんて部屋でGAMEしていただけなのだが」

 蒼伊は自分のことを天秤に掛けた。
 だけどそれは間違っていると、明輝はすぐに切り換えた。

「何言ってるの? それが普通だよ。誰でも思うでしょ? 急に誰かやって来たらって」
「いいや、私の場合は……だがそう思った方が良いな」

 絶対「私の家には人が来ない」って言おうとしていた。
 明輝はそれを受けてか言葉を選び、目力だけで黙らせた。
 視線を感じた蒼伊も肯定的な捉え方に変えた。相性バッチリな組み合わせになっていた。

「それはそうとせっかく来たんだ。何かするか?」
「うん。GAMEして遊ぼうよ」

 明輝は蒼伊の得意なフィールドに自分から駆け寄った。
 すると蒼伊の顔色も一段と良くなり、「良いだろう」と声に覇気があった。

「それで何のGAMEをするんだ?」
「うーん。私でもできるやつ」
「そうだな。あまりGAMEスキルが必要なものは腕に差が出るからな……それだとつまらない。スマッシュ・ロワイヤルは人気作だが私の方がプレイング的に上手いからな……となると、レース? いや、私の持っている者は全てコースを把握してしまっている……それじゃあ何を……」
「ねえ蒼伊。私これで遊びたいな!」

 蒼伊は散々悩んでいた。明輝のレベルに合わせるため、どんなGAMEをするかひたすら脳をフル回転させていた。
 そんな蒼伊を見かねてか、明輝はパッケージで気になったものを選択した。

「イビルヒーロー・ファンタジア? それはアクションRPGだぞ」
「良いよ。この絵が好きだから」

 パッケージに描かれていたのは壮大なイラストだった。
 だけど裏面を見てみると小さめにデフォルメされたキャラたちが描かれていた。
 普通に可愛いしカッコいいから、明輝はちょっと気にいった。

「それならいいが……ちなみに世界観は聞くか?」
「うん、教えて」
「悪魔たちが闊歩する世界で人間たちは陰ながら暮らしていた。そこに現れた悪魔の少女と契約した主人公が世界を混沌から救うべく、広い世界を冒険する。そして主人公はやがて世界の真実を知るのだった……的なやつだ。まあ、良くある王道ものだな」
「へぇー」

 もの凄く自由度が高そうだと明輝は思った。
 百パーセント終わらないと悟った。

「ちなみにそのGAMEは私たちが普段から遊んでいるCUの制作者がほぼ一人で作ったと噂がある」
「嘘っ!?」
「あくまでも噂だがな」

 蒼伊はそう言うと本体を持って来た。
 ソフトをはめ込むと、軽快な起動音と共にモニターが明るくなるのだった。
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