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◇309 除夜の鐘が鳴る頃も

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 明輝はテレビを点けていた。
 今年ももう終わりで、そろそろ新年を告げる鐘と花火が打ち上がる頃合いだった。

「そろそろだね」

 秒読みのカウントが進んでいた。時計の針がチクタクといつもよりも激しい音を立てているように錯覚した。
 今の時代も世界中が同じように止まっていても大きな行事は伝わっていた。
 後三秒、二秒、一秒——

 ボーン! ボーン! ボーン!

 テレビのスピーカーから流れてきたのは低い鐘の音だった。
 その周りにはお寺の和尚さんとその様子を見学しに来た人たちの映像がカメラ越しに映し出されていた。
 去年が終わり今年がやって来た瞬間だった。

「あけましておめでとう……っと」

 それに合わせて明輝はスマホを使ってメッセージを送った。
 友達や今は家に居ない海外で働く母親にだ。

「さてと、新年になったから始めようかな」

 明輝はソファーから立ち上がり、テレビの電源を消した。
 それから自分の部屋へと直行すると、そこに置かれたパソコンの電源を点けた。

「えーっと確か。あっ、もうログインしてる」

 明輝はパソコンの電源を点け、GAMEを立ち上げた。
 するとNightの名前があり、前のりして準備していた。
 早速フレンド用のボイスチャットで会話を始めた。

「あけましておめでとう蒼伊」
「そうだな」

 ヘッドホンの向こうから聞こえてきたのは蒼伊のけだるそうな声だった。
 くぐもっていることもあり、ちょっと寝た後らしい。
 「寝起き?」と明輝は尋ねると、「十分な」と返って来る。

「眠そうだね。大丈夫? 酔ったりしない?」
「私がそんなことで酔うと思うな」
「つ、強気だね。でも誘ってくれてありがと」

 明輝は蒼伊に感謝した。
 PC機器で遊ぶGAMEを明輝はほとんど遊んでいなかったからだ。
 だからたまにはパソコンを使ってみないとと思っていた次第だ。

 しかも今遊んでいるのは『Sneak Combat』だった。
 前に蒼伊に誘われた時以来やってはいないけど、今日は久しぶりにやってみることにしたのだ。

「でもいいの蒼伊。私本当に久しぶりで、操作感とか全然だよ?」
「構わない。この時間帯で潜っているのは猛者だけだからな」

 その方が困るのではと明輝は心配になった。
 と言うのもこれから潜るのはいわゆるランク戦と言うやつで、この場合一番レートタイの高い蒼伊に合わせられた。
 つまり如何言ことか。このGAMEをやりこんでいる猛者しかいない訳だ。

「気にするな。それに誰が相棒だと思っているんだ」
「そっか。蒼伊ってこのGAMEで一位になったこともあるんだよね。プロみたいなものだもんね」
「そういう事だ」
「頼りになるよ。でもその前に嬉しいな」
「何がだ?」

 短い言葉のやり取りが続いた。
 だけど蒼伊は何か引っかかったのか、明輝に首を突っ込んだ。

「相棒って言ってくれたでしょ? 前はそんなこと言ってくれなかったのに」
「ふはぁっ!? 黙れ」
「あっ、照れてる。可愛いね」
「うるさい。黙れ」

 恥ずかしすぎて高圧的な態度を取っていた。
 だけどそれもそれで可愛いなと明輝は思ってしまった。
 とは言えこれ以上揶揄うと何を言われるか分からないので、明輝は黙っておくことにした。

「ちなみに何時まで遊ぶの?」
「行けるところまでだ」
「そんなの冬休み中なんだからほぼ無限だよ」
「そう言うツッコミは要らない」
「は、はい。そうだね。現実的に夜中の二時くらいが限度かな?」

 それでも長いと思った。
 だけど蒼伊にとっては余裕そうで、明輝もショートスリーパーの才能を活かすチャンスでもあった。

「そうか。それなら少し急ぐか」
「如何して? 急ぐ必要なんてないよね?」
「瞬間レート一位、取りに行く気は無いのか?」
「えっ、今何って?」

 そうこうしているうちに、蒼伊は準備完了を押していた。
 明輝も急がないといけないと焦燥に駆られ、勢い余ってマウスをクリックした。

「ちょっと待ってよ蒼伊。もしかして本気で取りに行くの?」
「まあ嘘なんだが」
「嘘にしては動きが……ってもう接敵したよ!」

 今回は少し人数が少なかった。
 今まではスタンダードな四対四だったけど、今回は二対二だ。
 だから完全にチームワークが勝敗の行方を左右するのだが、明輝は案の定何もできなかった。

「えっ、えっと。確かこうして……こう!」
「上出来だ」

 取り合えず一人倒した。
 旨く裏を取ることができたので当然と言えば当然なのだが、ほぼ初心者同然の明輝は褒められて嬉しかった。

「えへへ、ありがと。蒼伊は?」
「スコアを見てみろ。倒した人数が表示されているだろ」
「えーっと、キル数ってやつだよね? 嘘っ、あの一瞬でこんなにやっつけたの!」

 そこには明輝の予想を遥かに超える人数が記載されていた。
 圧倒的な実力を持っているとは思っていたけど、あまりにも人間離れしていた。
 如何やったらこんななたくさんの数を叩き出すことができるのか、明輝は不思議でたまらなかった。けれどそんな思考回路は捨て去り、明輝に助けて貰ったことだけを考えた。

「ありがと蒼伊。それじゃあ……」
「エリアが狭まるぞ。一気に叩く」

 蒼伊の動かすキャラは前進していった。
 周囲の敵を全て排除し、その背中には兵士感があった。
 明輝は完全に付いていけない領域に腕を引かれてしまい、困惑しながら合わせるのがやっとだった。でも普通に楽しくて、明輝は愉快に遊びました。
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