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◇367 モチツキンとは何者?

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 アキラはギルドホームへと戻って来た。
 ギルド会館から扉を潜り、目の前に浮かぶのは、冬とは真逆の暖かい海。
 とは言えここには季節があり、砂浜には雪が積もっている。
 そこから高台のギルドホームに向かうと、早速誰か居ないかキョロキョロする。

「誰か居ない?」

 アキラの視線の先には、黒い椅子に座って本を読むNightの姿があった。
 今日は違う小説のようで、無言で読んでいた。
 しかしアキラの声が聴こえると、「なんだ?」と億劫に声を出す。

「Night。今日も居てくれるんだね」
「私は暇だからな。それで、なんだ?」

 ギロッと視線がアキラに移る。
アキラは「うん、実はね……」と、Night一人しかいないので、少し残念に思いつつ、悩みを打ち明ける。
自分も桜色の椅子に腰かけると、廊下で歩く音が聞こえた。

「みんな、ちはー。って、今日もいつメンだね」

 やって来たのはフェルノだった。
 今日も元気いっぱいで、疲れなど知らない顔をしている。

「フェルノ、丁度良かった」
「如何したの? アキラは嬉しそうだけど、Nightは恨めしそうな顔をして。何かあった?」
「何も無い。それで、悩みを打ち明ける雰囲気は如何した」
「えっ、アキラに悩み!?」
「あはは、悩みって程じゃないんだけどね。それが、ちょっと気になることがあって、訊きたかったんだ」

 アキラはけみーとマンティがやられたというモンスターに付いて尋ねる。
 Nightは本を読んだまま黙って聞き、フェルノも「へぇー」とか「けみーとマンティが!?」とリアクションよく頷いてくれる。

 正直、モンスターの姿形がはっきりとはしていない。
 果たしてそんなモンスターが居るのか、未だ半信半疑。

 おまけに二人を超えるスピード。
 そんなもの相手に通用するのかの不安。
 様々な思考回路が働く中で、とりあえず話し終えたアキラは、二人の見解を聞きたい。

「如何思う?」

 あまりにも漠然とした返し。
 フェルノは腕を組んだまま天井を見つめた。

「如何って言われてもねー。結構強いんだろうなーってこととか、どんな形なのかとか、色々分かんないことだらけだよ」
「だよね。私もそうだもん」
「でもさー」
「嘘は付いてないと思うよ。二人が私に嘘を付いているような雰囲気なかったし、そもそもそんなことしないって判っているから」

 だからこそ、余計にどんな姿形なのか、ヒントは散らされているのに見えなくなる。
 臼の形をしたモンスター。
 本当に臼の姿なのか、Nightの答えを待つ。

「なるほど。それは正月限定のモンスター、モチツキンだな」
「「モチツキン?」」

 本をパタンと閉じて、Nightはモンスターの名前を唱えた。
 特撮ものに出てきそうな名前のモンスターだけど、一体どんな形なのか。
 まさかとは思うが、お餅をついているのかなと、アキラは笑ってしまった。

「モチツキンは確かに臼の形をしたモンスターだ。木製の臼に関節が存在しない曲線状の腕と脚が生えているのが特徴らしい」
「えっ、臼から生えているの!?」
「ああ。おまけに左手には杵を持っている。しかも右手は常に濡れている。冷たく仕上がっているそうだ」

 この説明。まるで餅つきをする人みたいだ。
 アキラとフェルノは互いに顔を見合わせた。
 Nightが言うからにはもう確実。ネットに転がっている情報を分析して整理した結果生まれた、ほぼ確実な証拠だった。

「えっと、強いのかな?」
「如何だろうな。私は戦ったこともない」
「そうだよね。でも、スピードって如何言うことだろ?」
「分からない」
「それじゃあ如何やって倒せばいいのかな?」
「臼だったら直接破壊しちゃえばいいのにねー」

 結構なことを言っていた。
 しかしそれができないからこそ、モチツキンは強敵なのではと、アキラは薄々勘付いていた。
 とは言え、どんな方法で倒せばいいのか、いまいちピンと来ない。
 するとNightが気になることを呟く。

「ネットで調べた限りだと、モチツキンは臼を壊しても倒せないらしい」
「そうなの?」
「ああ。おまけに言えば、モチツキンを倒そうにも、普通の方法じゃ無理らしい」
「普通の方法じゃ無理ってなに?」
「そこは知らない。だが、けみーたちは何か言っていなかったのか?」
「そこまでは聴いてないよ」

 実際相談をするために話を切り上げてきた。
 あのムードのままは流石に困るからだ。

 そうこうしていると、フェルノが口を開いた。
 満面の笑みを浮かべる。

「それじゃあ今から行ってみようよー!」
「えっ、今から行くの!?」
「もっちろん。思い立ったが吉日って言うでしょ?」
「お前の口からそれが出て来るのか。まあ、フェルノらしくはあるな」

 Nightも何故か納得してしまう。
 意識を切り替え、アキラも行くのには賛成なのだが、問題は何処に居るのか。
 そして出遭っても倒せる保証は何処にもなかった。

「それで何処に居るの?」
「はぁ。それも知らないのか」
「当たり前だよ。だってさっき知ったんだよ?」
「……分かった。行くぞ」

 Nightは面倒臭そうにしていた。
 しかし一緒に付いて来てくれるのでありがたい友達だった。
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