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◇369 超強敵モチツキン

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 アキラたちは台地へと向かった。
 左右が曲線の坂道になっているので、そこから台地を上る。
 しかしアキラは嫌な予感がした。
 ドスン! ドスン! とけたたましい音が鳴り響く。

「この音何?」
「さあな。とは言え、この上から聞こえて来るのは間違いない」
「それじゃあ上ってみるしかないねー」
「うーん、とっても嫌な予感がするよ」

 アキラはポツリと呟く。
 しかしここまで来たのだから、もう引き返すわけにはいかない。

「でもさ、いざとなったら逃げちゃえば良くない?」
「まあ、そう何だけどね」

 アキラはフェルノに言われ、軽いツッコミを入れた。
 するとNightが突然立ち止まる。

「静かにしろ」
「如何したのNight? 急に止まって」
「上から音が聴こえて来ないか?」
「音? ドスンドスンって音ならさっきから……」
「そうじゃない。人の声だ」

 Nightに言われて、一瞬立ち止まる。
 耳を澄まして聴いてみると、ドスンドスン! と言う依然として変わらないけたたましい音。
 しかしながら、その中に隠れて歪な声が聴こえる。

「くっ……なんでだよ。なんで倒せないんだよ!」

 男の声だった。しかも苦汁を舐めていた。
 アキラたちは互いに顔を見合わせた。
 しかし何が起きているのか、明らかに苦戦を強いられている映像しか見えてこない。

「くそっ。海僧はやられちまったし、如何したら……」
「おいおい、スピード速くなってないか?」

 二人の男の声。
 如何やらモチツキンと激闘を繰り広がていた。
 アキラたちは息を飲んだ。今すぐ応援に行った方が良いと思ったのだが、Nightが何故か腕を横にして止める。

「待て、無駄に行くな」
「如何して? ピンチなんだよ!」
「まだそうとは決まっていない。もう少し様子を……はっ!」

 Nightが首を後ろに回した。
 その視線が何を捉えていたのか。アキラたちも気になって空を見上げた。
 すると黒い影が浮かんでいた。いいや、吹き飛ばされていた。
 如何やら人間のようで、空を優雅に飛ぶのではなく、吹き飛ばされていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 大絶叫が虚空に消える。
 すぐに絶叫は掻き消されてしまい、回転しながらプレイヤーと思しき男は見えなくなってしまった。
 おそらくHPが無くなり、強制ログアウトだ。

「ま、待ってよ。これがもしもモチツキンの仕業なら……」
「私たちが今まで戦って来たモンスターの中でも最強クラス。その可能性はあるな」

 これは気を引き締め直す必要がある。
 アキラは意識を切り替え、自分に自信を持つ。
 フェルノもまた、最初から臨戦態勢と言うべきか、スキルを使い、【吸炎竜化】を発動させた。

「最初っから全力前回、アクセルを踏み込んでないと勝てないみたいだねー」
「フェルノ、気合十分だね」
「ボルテージ上げないと、ああなるんでしょ? そんなの当然だよ」

 ここまで一度も強制ログアウトはされていない。
 このまま一度も負けずに勝ち切りたいと、フェルノの中でプライドが燃える。
 もちろんアキラだって、死の味を舐めたくはない。
 だから全力前回で立ちまわることにしたが、Nightは苦い顔を浮かべる。

「果たして正攻法で倒せるのか?」

 Nightの反応が微妙だった。
 何か考える素振りを見せ、親指の爪を噛む。

「Night、如何したの?」
「二人ともコレを持っておけ。それからインベントリの中に必要なアイテムは仕舞っておけ」

 Nightはそう言うと、アキラとフェルノに変なリングを渡した。
 一体これは何なのか。
 そう思った時、ベツレヘムの腕輪がインベントリの中へと消えた。

「あれ? 腕輪が……」
「アキラ如何したの?」
「ううん、何でもないけど。変なの」

 アキラはインベントリの中へと消えた腕輪に疑問を抱いた。
 しかしNightが渡したアイテムも腕輪だったので、競合することを避けたのかもしれない。
 もしかしてAIが搭載されている? 何て、アキラは考えてみたが、すぐに「まあいっか」と受け流し、腕輪を付けた。

「Night、コレは?」
「それは防御力アップの腕輪だ。万が一の時にはそれで足搔け」
「足搔けって……雑だね」
「それしかない」

 Nightはそう言い切った。
 他にも手はありそうだけど、今はこれくらいしか手持ちがないらしい。

「まあいっか。それじゃあ私たちも行ってみよう!」
「「うん」」

 台地の坂道を駆け上がる。
 するとドスンドスン! とけたたましい音が聴こえた。
 ドンドン強くなって行く。アキラたちは警戒しながら顔を上げた。

「「「はっ!?」」」

 アキラたちは愕然とした。
 一体アレはなに? 台地には男のプレイヤーが一人残っていた。
 かなり疲労しているのか、息をぜぇぜぇ荒げている。

「糞っ! 何なんだよ、コイツは!」

 確かに何だろう。聞いていた通りの見た目をしていた。
 しかし実物を見ると、理解が追い付かない。
 目の前には臼と杵。臼から腕と脚が生えていて、手には杵が持たれていた。

「アレがモチツキン……」

 アキラは息を飲んで唱えた。
 するとモチツキンの振り下ろした杵が男の頭上へと降り注がれる。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 アキラたちは発狂した。
 目を背け、男の断末魔を音もなく耳にした。
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