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◇415 雪将軍ってなに?

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 アキラ達はギルドホームに集まっていた。
 リビングの暖炉に薪を投入しまくり、ドンドン熱が上がって行く。
 ぬくぬくになったリビングで、ボーッとするいつもの面々。その顔には覇気が無く、大きな欠伸を掻いていた。

「ふはぁー」
「外は寒いから、こうやって部屋で温まると気持ち良いよねー」

 体が心地よかった。このまま眠ってしまいたい。そんな妄念に憑りつかれそうになる。
 ふとアキラが視線を向ければ、Nightがコーヒーを飲んでいた。
 文庫本を読みながら、アクア・カカオ豆のチョコレートを食べる。この間作っていたものが余っていたのだ。

「Night、外は寒いね」
「そうだな。外は寒いな」
「どうして? この世界に冬将軍だっけ? そんなのあるの?」
「シベリア寒気団か? そんなものある訳がないだろ」
「だよねー。この世界にシベリアなんてないもんねー」

 判り切っていたことだった。
 だけど代わりになるような極寒の地は用意されている。

「まあ、シベリアはないが、ホッカイはあるがな」
「北海道?」
「まあ、そんなところだ。島のように孤立してはいないらしいが」

 まだ行ったことのない街だった。
 きっとスタットと陸続きの大陸で、北の方にある。
 少なくともまだ行きたくない。そう思ってアキラも欠伸をした。

「ふはぁー」
「あはは、アキラも眠いんだー」
「そうだよ。ここ最近誰かのせいで」
「ごめんなさい」
「それを言えば、私も被害者なんだが……」

 アキラとNightはここのところ、フェルノの宿題の手伝いをさせられていた。
 Nightが付いていれば心強いと思って良く考えずに手伝うことを容認したが、まさかあんなに溜め込んでいるなんて。
 おかげで徹夜が続いていた。正直に言おう。疲れた。

「こんな時はパーッと、面白い依頼とかないかなー?」
「依頼か? そんなものはない」
「だよねー。そんな都合よくはないよねー」
「だが、雪将軍と言う季節限定のモンスターは居るらしいぞ。何処にいるかは分からないが」

 Nightの口から情報が漏れた。
 フェルノは上半身を思いっきり上げた。まるでバネで飛び出すおもちゃだ。

「雪将軍?」
「冬将軍じゃなくてー?」
「そうだ。雪将軍だ。なんでも噂の範疇でしかないが、この冬限定のモンスターらしい」
「またそれ系? 最近多いね」
「ソシャゲだと良くあることだ。ガチャゲーじゃないだけありがたいと思え」

 Nightにバッサリ切り伏せられた。
 けれどここ最近季節限定が多くなっているのは確かで、正直季節限定モンスターは恒常モンスターよりも明らかに強く設定されている。
 その割には経験値に旨味が少ない。
 だから経験値の値が無く、単純にアイテム狙いと楽しむことに重点を置くのが最近のマストだった。

「私達もそろそろ65になるもんねー」
「まあ、レベルは関係ないがな」
「むっ! 73に言われたくないよー」
「事実だ。正直最近はレベルなんて誰も気にしていない。こっちで出せる最大パフォーマンス程度が関の山だ」

 もはやレベル上げよりもどれだけ体を動かして、どれだけ頭を使て、どれだけスキルを活用できるか。そのラインに差し掛かっていた。
 だからこそ、今回の雪将軍がかなり真正面から来る、真っ向勝負型だと予測できた。何せ相手は将軍だ。そんなせこい真似するとは思えない。

「それでどうする?」
「どうするって?」
「雪将軍の情報、洗いに行くか?」
「うーん。私はちょっとだけ興味があるかな。なんだか楽しそう」
「私も私もー。最近体鈍ってたからねー」

 グルグル肩を回すフェルノ。鈍っているという割にはさっきまで筋トレをしていた。
 その言葉は嘘なのかと怪しむが、Nightはパタンと文庫本を閉じる。
 それから一呼吸の間を置くと、宣言しようとした。

「それじゃあ探すか」
「「おー!」」

 三人だけで行くことを決めた。
 早速街に出て情報を探してみようと意気込んでいると、突然閉じていたリビングの扉が乱雑に開け放たれた。
 そこに居たのは二人の少女。雷斬とベルだったが、少し様子がおかしい。
 雷斬の目がキラキラと輝いて、生気がたくさん宿っていた。

「皆さん、少々よろしいですか!」
「なに、雷斬?」
「はい、実はですね。こちらのモンスターの噂をギルドから聴いて来たんです」
「こちらのモンスター? ギルドから? なにを聴いて来たんだ」

 Nightは冷静に話を戻した。
 すると隣で雷斬の肩をポンと叩くベルが話し出した。

「雷斬、ちょっと落ち着きなさい。コホン、こちらのモンスターって言うのは雪将軍って言う季節限定のモンスターよ」
「「雪将軍!?」」

 まさか丁度話題に上がっていた名前だとは思わなかった。
 ゴクリと喉を鳴らすと、グッドタイミングと当時に嫌な予感がした。
 まさかギルドで情報が流れているなんて、これは急がざるを得ない。

「どうしたのよ。そんな焦った顔して」
「焦るよ。だってギルド情報でしょ?」
「そうですが?」
「Night!」
「ああ。これは急ぐ必要がありそうだな」

 Nightはスッと席から立った。アキラとフェルノだった。
 けれど雷斬とベルは話が見えず、数秒程立ち尽くしていた。
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