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◇431 絶対にやってはいけない突破法1の2

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 Nightはノコギリを手にしていた。
 アキラたちは顔を顰めると、無性に嫌な予感がする。
 いや、確実にヤバいことをしようとしている。
 Nightがこんな物騒なものを取り出した手前だ。声を掛けるのも烏滸がましくなる。

「Night、それなに?」
「見ての通りノコギリだが?」
「うん、それは分かるんだけどね。なにに使おうとしているのかな?」
「ノコギリを武器にして攻撃を仕掛けるんじゃないのー?」
「馬鹿か。そんな真似を私がすると思うのか?」
「思うよー」
「あのな」

 完全にフェルノに煽られていた。
 しかしNightはつまらなそうに一蹴すると、手にしたノコギリを持って近くの柱に近付く。
 もう何をするのか訊かなくても分かった。ノコギリの刃を柱に沿わせると、ギーコギーコと切り始めた。

「やっぱり……なにやってるのNight! そんなことをしたらダメだよ」
「そうよ。一応ここはモミジヤの名所の一つなのよ」
「あはは、もしかしたら文化財的に重要かもねー」
「やってはいけない冒涜行為。今すぐやめるべきです。まだ戻れます」

 みんなが必死にNightを説得仕留めようと画策する。
 けれどNightは一切聞く耳を持たない。
 ただの自己満足でやっている。そんな訳は無いが、あまりにも乱暴だった。

「もう、ちょっとは話を聞いてよ!」
「もちろん聞いているし、聞こえてもいる。だがこれでいいんだ」
「絶対よくない! 確実二百パーセント、断言できるけどダメなことだよ!」

 アキラは率先して止めに入る。自分がけしかけてしまったと罪悪感があったのだ。
 腰を掴んで引き剥がそうとするがそれでもノコギリを引くのを止めない。
 そのまま順調にノコギリの刃が入っていき、まずは一本完全に切られてしまった。
 完全に手遅れ。短くなった柱が天井を支えられなくなると、少しだけ心許なくなる。

「あーあ、やっちゃった」
「どうするのー? これって元に戻せるのかなー?」
「元に戻せるからやったんだ。それより、変化は出たか?」

 Nightはこの状況下でそんなことを言い始めた。
 あまりにも常軌を逸している。クレイジーだ。
 けれどNight自身は理解しているようで、全く動じずに周りの状況を確認する。

「変化って、なにも……あれ?」

 ベルは一応周囲を見回す。
 特に変わったことはないように見えたのはほんの一瞬で、急に視界がグニャリと捻じれたように見えた。気のせいだろうか? 一瞬の出来事に目を擦るが、確かにグニャリと捻じれていた。

「今空間が捻じれたわよ! どうなってるの、さっきまでこんなことなかったでしょ?」
「やはりか……」
「やはりって、最初から分かっていたの?」

 ベルはNightに詰め寄った。
 ノコギリを持っていて危ないが、そんなことは気にせずグイグイ詰め寄る。
 するとNightは瞬き一つせず迎え撃った。

「もちろん空間の捻じれかは分からなかった。だが、幻覚に掛けられているのが私達だとすれば、今ある状況を変化させればなにか決定的なものを変えさせすれば、幻覚から解放される可能性もある。そう踏んだだけだ」

 あまりにも賭け過ぎた。だけどその賭けに上手く打ち勝った。
 もっともNightにとっては賭けの対象ですらなかったのだろうが、兎にも角にも幻覚を打ち破る術を新たに見出したのは確かだ。

「つまり、私たちの見えているものを変えちゃえば?」
「この幻覚は破れる。そして屋敷が破壊されれば、雪将軍も姿を現すだろう」
「根拠が全然ないわね。でも、それくらいしかやれることはないんでしょ?」
「幻覚の中で常識に縛られてたらいけない。それじゃあいつまでも幻覚の中に閉ざされたまま。なんだかNightらしいね」
「なにがだ」

 Nightのことをアキラは褒めたのだが、上手く伝わらない。
 なのでここは行動で示すことにした。
 アキラは剣を鞘から抜くと、目の前の襖を「おりゃぁ」と叩いて破壊する。
 するとアキラの視界もグニャリと捻じ曲がり、奥の世界が露わになる。

「本当だ。この先に別の世界があるよ」
「これで確信に変わった。この幻覚は私たちに掛けられているわけじゃない。この屋敷全体に掛けられている。どおりで出られない訳だ。ここ自体が一つの迷宮と化していたんだからな」

 確かにここは迷宮。もはや普通のことをしても出られる気配がない。
 それにしては手の込んだ真似をする。
 これもまた雪将軍の仕業なのだろうか? もしかすると優秀な軍師でも付けているのではないか。様々な思考が巡る中、それならそうとアキラたちもやり返すことにした。

「流石に許せませんね」
「戦法としては間違ってはいない。だが、やり返すことができるぞ」
「やり返す……そうですね、やりましょうか」

 雷斬も覚悟が決まったらしい。
 そうと決まれば早速行動に移してみる。
 アキラたちはそれぞれ武器を手にした。斬撃系の武器を手に近くの柱を切って回る。
 後で怒られることは確定してしまったが、アキラたち自身はもはやそんなことを気にする余裕は無く、完全に仕返しのつもりで幻覚を強引に破るのだった。
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