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◇436 【陣刃】が張り巡らされた戦場
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雷斬は空間を支配していた。
まさしく武家屋敷の中は雷斬のために用意された戦場で、雪将軍は苦汁を舐める。
腹部を抑えたまま膝を付き、崩れてしまっていた。
「【ジンバ】ダト? クッ、ヒレツナ!」
「すみません。私もそうは思っていたのですが、貴方があまりにも強く、私も出し惜しみしている暇は無かったんです」
雷斬は自分でも卑怯だと思っていた。
しかしこの期に及んでそんな言い分が通るはずもない。
遠距離による奇襲攻撃を喰らった手前だ。雷斬は雷斬で本気を出してしまった。
「すみません。貴方にはここで終わっていただきますね」
雷斬は動けないでいる雪将軍の首筋に刀の刃先を触れさせた。
ひんやりとした玉鋼の感触が兜越しに伝わる。
雪将軍箸を悟った。雷斬も心を鬼にして、刀を振り下ろし首を飛ばそうとする。
けれど雪将軍も黙ってやられてはくれなかった。
「ヤブレンゾ!」
雪将軍は膝を付いていたが体を無理矢理起こして立ち上がる。
兜の側面を使って刀を吹き飛ばさんとする勢いだった。
ずっしりとした重みが雷斬の腕を伝うが、雷斬もまだ負ける気はない。
「いえ、勝つのは私です!」
雷斬は雪将軍に弾かれた刀を引き戻すと、心臓部目掛けて刀を打ち付ける。
けれど白い重厚な甲冑に防がれてしまう。
だけど雷斬は見越していた。だからだろうか、落ち着いた様子でそのまま甲冑の上を滑らせると、甲冑と体を繋ぎ止める紐を一本断ち切った。
「そりゃぁ!」
雷斬が紐を切ると、甲冑が脱げそうになる。
防御面が薄くなると、流石の雪将軍も一瞬たじろぐと思ったのだ。
けれど雪将軍は甲冑など気にしていない。
防御を完全に捨て、雷斬を切ることだけに心血を注ぐ。
「ヒキョウナマネヲスルケンシハヨウシャセン!」
「誰が言えるんですか? 私は負けませんよ」
雷斬は雪将軍を迎え撃つため、その場で刀を振った。
別に何かに触れるわけではない。ただただ空を裂くだけ。
しかし雪将軍が太刀を振り上げると同時に、雷斬は素早く距離を取った。
バックステップを使って後に飛ぶ。
雪将軍の太刀が硬い何かにぶつかった。
空中に置かれていたのは二重になった【陣刃】で、雪将軍は力任せに振り払おうとするも、全く無意味で逆に喰らってしまった。
「ナッ、コノ【ジンバ】ハウゴカセヌノカ!」
「もちろんです。もっとも……」
雷斬は雪将軍の質問に答えてあげた。
その理由は非常に単純で、動かせないと思わせるためだった。
指をそっと空に触れた。そのまま命じるようになぞると、雪将軍は掻い潜ったはずの刃に襲われる。
展開していた【陣刃】が突然急襲を始め、腹部を抉るような痛みに襲われた。
白い甲冑にたくさんの傷ができ、見れば一発でダメージが判る。
「ナニッ! ウゴカヌノデハナイノカ」
「動きませんよ。ですが例外として、私が命じれば直線的に少し動きますが、ねっ!」
ここで動かせないと、雷斬の口から嘘とも真実とも取れない言葉を放った効き目が出て来た。
その証拠に雪将軍は雷斬の放った【陣刃】に大苦戦をしている。
単純な太刀による重たい一撃で破壊はできるものの、それが数を生めば如何なるだろうか。大振りの太刀一本では流石に捌き切ることはできないで、下手に動くこともできずその場で立ち尽くすだけだった。
「クッ! エエイメンドウナ! スベテイチゲキデコワシテクレルワ!」
雪将軍は流石にらちがあかないと気が付いた。
体を捻りながら、恵まれた体格を活かして回転切りを放とうとする。
けれどそうはさせまいと【雷鳴】を呼んで果敢に攻める。
隙を縫うように忍び寄り、首を掻っ切ろうと放つ刃を受け止めるのは至難の技のはずだ。
「悪いですが、それをされると私の手段が減るので止めていただけますか?」
勢いよく飛び掛かって刀を振るう。
すると雪将軍は太刀で簡単に受け止めた。
けれど雷斬も予測していたことだと、【雷鳴】を再び呼んでその場から消える。
張り巡らせた【陣刃】を足場に使い、刀を振り回して【陣刃】を更に展開させながら空中戦を仕掛ける。
「マダフエルノカ!」
「もちろんです。全てを消される前に私がここで断ち切ります」
ここで雪将軍を仕留める。外にでも出てアキラたちを追われれば、ここで仕留めようと画策する雷斬の計画が崩れてしまう。
それもそのはず、建物の中は理に叶っていた。
得物を振り回すのも難儀な上、自由を奪われ制約が掛けられる。
なによりも甲冑の重みで畳が傷み、満足に走れないことが雷斬にとって最大の優位だった。
「だからこそ、ここで倒すんです!」
【陣刃】を足場にして天井付近まで雷斬は上がっていた。
そのまま何をするのか。【陣刃】を飛ばすのかと思われたが、雷斬は重力を加えて落ちて来る。加速を付け、渾身の一撃で勝負を決めようというのだ。
すると雪将軍もその対決に打って出た。近づいてきてくれるのなら好都合だからだ。
「ムロン。ワシモダ!」
カキーン!
雪将軍の太刀と雷斬の刀がぶつかり合った。
激しく刀身が震えていて、火花を散らす。
氷を纏わせ、サスツルギをいつでも使える雪将軍と、ビリビリと電流を放つ雷斬。
その戦いはより苛烈さを増していくのだが、この場で唯一打ち勝てない物が悲鳴を上げてピキッと微かに雲行きを悪くさせていた。
まさしく武家屋敷の中は雷斬のために用意された戦場で、雪将軍は苦汁を舐める。
腹部を抑えたまま膝を付き、崩れてしまっていた。
「【ジンバ】ダト? クッ、ヒレツナ!」
「すみません。私もそうは思っていたのですが、貴方があまりにも強く、私も出し惜しみしている暇は無かったんです」
雷斬は自分でも卑怯だと思っていた。
しかしこの期に及んでそんな言い分が通るはずもない。
遠距離による奇襲攻撃を喰らった手前だ。雷斬は雷斬で本気を出してしまった。
「すみません。貴方にはここで終わっていただきますね」
雷斬は動けないでいる雪将軍の首筋に刀の刃先を触れさせた。
ひんやりとした玉鋼の感触が兜越しに伝わる。
雪将軍箸を悟った。雷斬も心を鬼にして、刀を振り下ろし首を飛ばそうとする。
けれど雪将軍も黙ってやられてはくれなかった。
「ヤブレンゾ!」
雪将軍は膝を付いていたが体を無理矢理起こして立ち上がる。
兜の側面を使って刀を吹き飛ばさんとする勢いだった。
ずっしりとした重みが雷斬の腕を伝うが、雷斬もまだ負ける気はない。
「いえ、勝つのは私です!」
雷斬は雪将軍に弾かれた刀を引き戻すと、心臓部目掛けて刀を打ち付ける。
けれど白い重厚な甲冑に防がれてしまう。
だけど雷斬は見越していた。だからだろうか、落ち着いた様子でそのまま甲冑の上を滑らせると、甲冑と体を繋ぎ止める紐を一本断ち切った。
「そりゃぁ!」
雷斬が紐を切ると、甲冑が脱げそうになる。
防御面が薄くなると、流石の雪将軍も一瞬たじろぐと思ったのだ。
けれど雪将軍は甲冑など気にしていない。
防御を完全に捨て、雷斬を切ることだけに心血を注ぐ。
「ヒキョウナマネヲスルケンシハヨウシャセン!」
「誰が言えるんですか? 私は負けませんよ」
雷斬は雪将軍を迎え撃つため、その場で刀を振った。
別に何かに触れるわけではない。ただただ空を裂くだけ。
しかし雪将軍が太刀を振り上げると同時に、雷斬は素早く距離を取った。
バックステップを使って後に飛ぶ。
雪将軍の太刀が硬い何かにぶつかった。
空中に置かれていたのは二重になった【陣刃】で、雪将軍は力任せに振り払おうとするも、全く無意味で逆に喰らってしまった。
「ナッ、コノ【ジンバ】ハウゴカセヌノカ!」
「もちろんです。もっとも……」
雷斬は雪将軍の質問に答えてあげた。
その理由は非常に単純で、動かせないと思わせるためだった。
指をそっと空に触れた。そのまま命じるようになぞると、雪将軍は掻い潜ったはずの刃に襲われる。
展開していた【陣刃】が突然急襲を始め、腹部を抉るような痛みに襲われた。
白い甲冑にたくさんの傷ができ、見れば一発でダメージが判る。
「ナニッ! ウゴカヌノデハナイノカ」
「動きませんよ。ですが例外として、私が命じれば直線的に少し動きますが、ねっ!」
ここで動かせないと、雷斬の口から嘘とも真実とも取れない言葉を放った効き目が出て来た。
その証拠に雪将軍は雷斬の放った【陣刃】に大苦戦をしている。
単純な太刀による重たい一撃で破壊はできるものの、それが数を生めば如何なるだろうか。大振りの太刀一本では流石に捌き切ることはできないで、下手に動くこともできずその場で立ち尽くすだけだった。
「クッ! エエイメンドウナ! スベテイチゲキデコワシテクレルワ!」
雪将軍は流石にらちがあかないと気が付いた。
体を捻りながら、恵まれた体格を活かして回転切りを放とうとする。
けれどそうはさせまいと【雷鳴】を呼んで果敢に攻める。
隙を縫うように忍び寄り、首を掻っ切ろうと放つ刃を受け止めるのは至難の技のはずだ。
「悪いですが、それをされると私の手段が減るので止めていただけますか?」
勢いよく飛び掛かって刀を振るう。
すると雪将軍は太刀で簡単に受け止めた。
けれど雷斬も予測していたことだと、【雷鳴】を再び呼んでその場から消える。
張り巡らせた【陣刃】を足場に使い、刀を振り回して【陣刃】を更に展開させながら空中戦を仕掛ける。
「マダフエルノカ!」
「もちろんです。全てを消される前に私がここで断ち切ります」
ここで雪将軍を仕留める。外にでも出てアキラたちを追われれば、ここで仕留めようと画策する雷斬の計画が崩れてしまう。
それもそのはず、建物の中は理に叶っていた。
得物を振り回すのも難儀な上、自由を奪われ制約が掛けられる。
なによりも甲冑の重みで畳が傷み、満足に走れないことが雷斬にとって最大の優位だった。
「だからこそ、ここで倒すんです!」
【陣刃】を足場にして天井付近まで雷斬は上がっていた。
そのまま何をするのか。【陣刃】を飛ばすのかと思われたが、雷斬は重力を加えて落ちて来る。加速を付け、渾身の一撃で勝負を決めようというのだ。
すると雪将軍もその対決に打って出た。近づいてきてくれるのなら好都合だからだ。
「ムロン。ワシモダ!」
カキーン!
雪将軍の太刀と雷斬の刀がぶつかり合った。
激しく刀身が震えていて、火花を散らす。
氷を纏わせ、サスツルギをいつでも使える雪将軍と、ビリビリと電流を放つ雷斬。
その戦いはより苛烈さを増していくのだが、この場で唯一打ち勝てない物が悲鳴を上げてピキッと微かに雲行きを悪くさせていた。
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