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◇468 武家屋敷が壊れた後は……
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「えっ!?」
雷斬は驚いていた。
脱衣所で服も着替えずにタオル一枚巻いたまま固まっている。
もちろん固まっているのは雷斬だけじゃない。
アキラたちも「嘘でしょ?」と口が叫んでいた。
そんな横顔を見つめ、Nightは真顔で突き通す。
表情を一切返ることはなく、脱いだ服を着直した。
「本当だ。あの武家屋敷はもう無い」
Nightの口から飛び出したのは、武家屋敷が如何なったのか。
もちろん崩れたのは言うまでもない。
けたたましい轟音で耳を劈き、地鳴りと一緒に恐怖心を駆り立てる。
確実に崩壊した。その事実は確認しなくても分かっていたのだが、アキラたちが言いたいのはそこではなかった。
「ちょっと待ってよ。もう無いってどういうこと?」
「どうもこうもない。武家屋敷は無い。以上」
「以上じゃないわよ! 武家屋敷が崩壊したのは知ってるわ。でもね、崩壊音だけじゃまだ分からないでしょ?」
ベルが当然の如く抗議を入れた。
けれどNightは事実を笠に着て、一切動じない。
睨みつける訳でも、下手に気を荒立てる訳でもなく、Nightはいつもの雰囲気を纏っていた。
「確かに崩壊音だけじゃ分からないな。確信も取れない」
「だったら!」
「それならコレを見ろ」
Nightはそう言うと、メニューバーを開いた。
指先でなぞると、続けざまに地図を開く。
武家屋敷の在った場所を拡大すると、topicとして表示された項目を、アキラたちに見せる。
「これが証拠だ」
Nightが見せたのは、武家屋敷が崩壊し、跡形も無くなった姿。
GAME性を崩しそうでげんなりとした表情を浮かべるが、そこには写真が表示された。
けれど写真だからか、写されたものは全く以って事実でしかない。
竹林の中。塀を除き、武家屋敷の平屋は崩壊どころか、存在すら抹消されたみたいに平らにされてしまっていた。
「う、嘘よね? えっ、そんなことって……えっ?」
「うわぁ、綺麗さっぱり無くなってるねー」
感心している場合ではなかった。
けれどフェルノの言う通り、綺麗さっぱり武家屋敷は無くなっている。
戸の一枚も、その残骸すら残っていない。
ショベルカーで瓦礫を撤去し、ロードローラーで整えたみたいな手際の良さに、またしてもGAME性を疑った。
「ちなみに一夜の間に起きたことらしい」
「い、一夜!? 一夜って……まあアレよね? アプデが入ったのよね?」
「いや、アプデは入っていないぞ」
「う、嘘でしょ!? それじゃあセルフで撤去されたってこと?」
「或いは、自動的に普遍を消去するプログラムがこの世界には存在しているのかもな。どちらにせよ、武家屋敷はもう無いんだ。これ以上気を取られるのはごめんだ」
Nightはそこまで答えると、面倒くさそうに事実を伝えるのを止める。
すると雷斬は「そうですか……」と何処か寂しそう。
如何やら心残りではない何かがあるらしい。
それもそのはず、あの場所では雪将軍との死闘を繰り広げた。
その思い出が無くなってしまったとなれば、何処に向けたらいいのか分からない感情が沸々と心の奥底から込み上げる。
「雷斬……元気だそ」
「そうだよー。気にしても仕方ないじゃんかー」
アキラとフェスタは雷斬の気持ちを汲み取ろうとする。
できるだけポジティブになって欲しいので、温かい言葉を掛ける。
「そうですね。気にしても仕方ありませんよね」
「そうだよー。どうせ物はいつか壊れるんだらさー。気にしたら馬鹿だってー」
「誰が言ってるのよ、誰が!」
フェルノは手応えを感じたのか、感じていないのか、よく分からないが言葉を掛け続けた。
とは言え、あまりにもフェルノ過ぎる。コレだとダメだ。そう思いベルが割って入って修正した。
「雷斬、物は無くなっても思い出は残るでしょ? それが大事よ。全てはここ、分かるわよね?」
ベルは親友である雷斬の気持ちを高ぶらせる。
胸を叩き大事なのは気持ちだと伝えた。
Nightはその姿に「理屈を通り越したな」と何処か憐れむような表情を浮かべるが、アキラは「ナイス」と親指を立てる。
雷斬にはこの方が想いが通じる。ベルの判断に称賛を送った。
「そうですね。考えても仕方ありませんね」
「そういうものよ。はい、この話は終りね」
雷斬はベルの言葉と想いを受け取ったようで、ある種納得せざるを得なかった。
ベルもこれ以上長引く話は無しにして、改めて服を着替え始める。
けれど雷斬はまだ引っ掛かる所があるらしい。タオルを脱ごうとしたが、下唇に人差し指を当てる。
「ですが些か疑問ですね。どうして武家屋敷は突然崩壊してしまったのでしょうか?」
「それもそうよね? 確か大黒柱は折ってなかったでしょ? 周りの支柱は何本か……」
未だに疑問に残ることを上げた。それはそもそも武家屋敷が如何して崩壊したのかだ。
もちろんその原因を作ったのは、Nightの無茶から。けれどその無茶を前にしても、武家屋敷は崩壊しなかった。それだけ大事な柱を避け、必要のない支柱を壊していたからに他ない。
だがしかし、武家屋敷は崩壊してしまった。
タイミングを考えれば、あまりにも不自然で、まるで計ったかのようだった。
そのことに首を捻ってしまうが、Nightはある程度推測は立てていた。
しばし黙っていたのだが、ようやくNightは口を出す。
「雪将軍がやられたからだろ」
「「「えっ?」」」
Nightの答えは単調だった。
あまりにもシンプル過ぎてアキラたちは驚くことしかできない。
雪将軍がやられたことと関連付ける。ありきたりだが、Nightは確信を持っていた。
「考えても見ろ。崩壊は雪将軍が倒され、雷斬が太刀を持って行ってから起きた。つまりあの武家屋敷自体が雪将軍を主人として見ていたもの。即ち、主人が居なくなったことで存在意義が無くなり崩壊の一途を辿った。そういう訳だ」
武家屋敷自体が雪将軍を主人と認めていた。
しかし主人が居なくなったことで、存在意義が無くなる。
だから武家屋敷自体が自発的に崩壊を望んだ。
その理屈に何処か感慨深いものを感じ、Nightらしくないと少しだけ引っかかるが、Nightもスピリチュアルなことを否定する気は無かった。
「スピリチュアル的な思考だとしても、私は自分の回答を否定はしない。あくまでも私の回答だからだ」
「Night……」
「信じるかどうかはお前達で決めればいい。私の回答を信じたければ私は構わない。ただそれだけだ」
Nightは少し気恥しそうにしていた。
頬を赤らめていたが、見せないように顔を隠す。
だがしかし、アキラには分かっていた。
理屈だけではない。それがNightの強み。
自分のできる最善を尽くし、真っ当な答えを見出す。
それができること、考えて発言できること、その全てはNight自身のものであり、自分の回答に自信を持っているからできるのだと、アキラは気が付いていた。
だからこそ嬉しくなり、にこりと笑みを浮かべて返すことにした。
それがアキラなりの回答への回答になったからだ。
雷斬は驚いていた。
脱衣所で服も着替えずにタオル一枚巻いたまま固まっている。
もちろん固まっているのは雷斬だけじゃない。
アキラたちも「嘘でしょ?」と口が叫んでいた。
そんな横顔を見つめ、Nightは真顔で突き通す。
表情を一切返ることはなく、脱いだ服を着直した。
「本当だ。あの武家屋敷はもう無い」
Nightの口から飛び出したのは、武家屋敷が如何なったのか。
もちろん崩れたのは言うまでもない。
けたたましい轟音で耳を劈き、地鳴りと一緒に恐怖心を駆り立てる。
確実に崩壊した。その事実は確認しなくても分かっていたのだが、アキラたちが言いたいのはそこではなかった。
「ちょっと待ってよ。もう無いってどういうこと?」
「どうもこうもない。武家屋敷は無い。以上」
「以上じゃないわよ! 武家屋敷が崩壊したのは知ってるわ。でもね、崩壊音だけじゃまだ分からないでしょ?」
ベルが当然の如く抗議を入れた。
けれどNightは事実を笠に着て、一切動じない。
睨みつける訳でも、下手に気を荒立てる訳でもなく、Nightはいつもの雰囲気を纏っていた。
「確かに崩壊音だけじゃ分からないな。確信も取れない」
「だったら!」
「それならコレを見ろ」
Nightはそう言うと、メニューバーを開いた。
指先でなぞると、続けざまに地図を開く。
武家屋敷の在った場所を拡大すると、topicとして表示された項目を、アキラたちに見せる。
「これが証拠だ」
Nightが見せたのは、武家屋敷が崩壊し、跡形も無くなった姿。
GAME性を崩しそうでげんなりとした表情を浮かべるが、そこには写真が表示された。
けれど写真だからか、写されたものは全く以って事実でしかない。
竹林の中。塀を除き、武家屋敷の平屋は崩壊どころか、存在すら抹消されたみたいに平らにされてしまっていた。
「う、嘘よね? えっ、そんなことって……えっ?」
「うわぁ、綺麗さっぱり無くなってるねー」
感心している場合ではなかった。
けれどフェルノの言う通り、綺麗さっぱり武家屋敷は無くなっている。
戸の一枚も、その残骸すら残っていない。
ショベルカーで瓦礫を撤去し、ロードローラーで整えたみたいな手際の良さに、またしてもGAME性を疑った。
「ちなみに一夜の間に起きたことらしい」
「い、一夜!? 一夜って……まあアレよね? アプデが入ったのよね?」
「いや、アプデは入っていないぞ」
「う、嘘でしょ!? それじゃあセルフで撤去されたってこと?」
「或いは、自動的に普遍を消去するプログラムがこの世界には存在しているのかもな。どちらにせよ、武家屋敷はもう無いんだ。これ以上気を取られるのはごめんだ」
Nightはそこまで答えると、面倒くさそうに事実を伝えるのを止める。
すると雷斬は「そうですか……」と何処か寂しそう。
如何やら心残りではない何かがあるらしい。
それもそのはず、あの場所では雪将軍との死闘を繰り広げた。
その思い出が無くなってしまったとなれば、何処に向けたらいいのか分からない感情が沸々と心の奥底から込み上げる。
「雷斬……元気だそ」
「そうだよー。気にしても仕方ないじゃんかー」
アキラとフェスタは雷斬の気持ちを汲み取ろうとする。
できるだけポジティブになって欲しいので、温かい言葉を掛ける。
「そうですね。気にしても仕方ありませんよね」
「そうだよー。どうせ物はいつか壊れるんだらさー。気にしたら馬鹿だってー」
「誰が言ってるのよ、誰が!」
フェルノは手応えを感じたのか、感じていないのか、よく分からないが言葉を掛け続けた。
とは言え、あまりにもフェルノ過ぎる。コレだとダメだ。そう思いベルが割って入って修正した。
「雷斬、物は無くなっても思い出は残るでしょ? それが大事よ。全てはここ、分かるわよね?」
ベルは親友である雷斬の気持ちを高ぶらせる。
胸を叩き大事なのは気持ちだと伝えた。
Nightはその姿に「理屈を通り越したな」と何処か憐れむような表情を浮かべるが、アキラは「ナイス」と親指を立てる。
雷斬にはこの方が想いが通じる。ベルの判断に称賛を送った。
「そうですね。考えても仕方ありませんね」
「そういうものよ。はい、この話は終りね」
雷斬はベルの言葉と想いを受け取ったようで、ある種納得せざるを得なかった。
ベルもこれ以上長引く話は無しにして、改めて服を着替え始める。
けれど雷斬はまだ引っ掛かる所があるらしい。タオルを脱ごうとしたが、下唇に人差し指を当てる。
「ですが些か疑問ですね。どうして武家屋敷は突然崩壊してしまったのでしょうか?」
「それもそうよね? 確か大黒柱は折ってなかったでしょ? 周りの支柱は何本か……」
未だに疑問に残ることを上げた。それはそもそも武家屋敷が如何して崩壊したのかだ。
もちろんその原因を作ったのは、Nightの無茶から。けれどその無茶を前にしても、武家屋敷は崩壊しなかった。それだけ大事な柱を避け、必要のない支柱を壊していたからに他ない。
だがしかし、武家屋敷は崩壊してしまった。
タイミングを考えれば、あまりにも不自然で、まるで計ったかのようだった。
そのことに首を捻ってしまうが、Nightはある程度推測は立てていた。
しばし黙っていたのだが、ようやくNightは口を出す。
「雪将軍がやられたからだろ」
「「「えっ?」」」
Nightの答えは単調だった。
あまりにもシンプル過ぎてアキラたちは驚くことしかできない。
雪将軍がやられたことと関連付ける。ありきたりだが、Nightは確信を持っていた。
「考えても見ろ。崩壊は雪将軍が倒され、雷斬が太刀を持って行ってから起きた。つまりあの武家屋敷自体が雪将軍を主人として見ていたもの。即ち、主人が居なくなったことで存在意義が無くなり崩壊の一途を辿った。そういう訳だ」
武家屋敷自体が雪将軍を主人と認めていた。
しかし主人が居なくなったことで、存在意義が無くなる。
だから武家屋敷自体が自発的に崩壊を望んだ。
その理屈に何処か感慨深いものを感じ、Nightらしくないと少しだけ引っかかるが、Nightもスピリチュアルなことを否定する気は無かった。
「スピリチュアル的な思考だとしても、私は自分の回答を否定はしない。あくまでも私の回答だからだ」
「Night……」
「信じるかどうかはお前達で決めればいい。私の回答を信じたければ私は構わない。ただそれだけだ」
Nightは少し気恥しそうにしていた。
頬を赤らめていたが、見せないように顔を隠す。
だがしかし、アキラには分かっていた。
理屈だけではない。それがNightの強み。
自分のできる最善を尽くし、真っ当な答えを見出す。
それができること、考えて発言できること、その全てはNight自身のものであり、自分の回答に自信を持っているからできるのだと、アキラは気が付いていた。
だからこそ嬉しくなり、にこりと笑みを浮かべて返すことにした。
それがアキラなりの回答への回答になったからだ。
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