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12.この馬鹿の
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「はじめまして。ワシが夕夜じゃよ」
「え?え?」
まだ状況が飲み込めずにシャルフィムが戸惑っておるので、ワシはテーブルの方へ移動するとソファに座り、テーブルの上にお茶菓子と紅茶を用意したのじゃよ。
「シバル。彼女をエスコートして連れて来るのじゃよ」
そう言いながら向かいのソファを示すと、シバルは抱きつくシャルフィムを立ち上がらせ、腰に手を当ててエスコートして2人で向かいのソファにやって来て座ったのじゃよ。
「改めて、ワシがさっきからシバルが言っておった夕夜じゃよ。よろしくの」
「よ、よろしくお願いします。私は」
「シバルの恋人のシャルフィムで合っておるの?」
「あ、はい」
頷いたシャルフィムはワシを見てきたが、その視線は戸惑いと警戒、それに疑いと疑問、あと恐怖も乗っていそうじゃの。
その中でも1番強いのは警戒のようじゃが、まぁシバルの呼びかけにすぐに出てこなかったし、そんな視線を向けられても仕方ないの。
「ふふ。そんなに警戒せんでも、の」
ワシは2人の前に紅茶を置いたのじゃが、やはりシャルフィムは警戒して手を伸ばさないのじゃが、気にせずにワシは自分用に用意した紅茶を一口飲んだのじゃよ。
「さて、さっきもシバルが言っておったが、そのメイド服を用意したのも、シバルの頬を殴ったのもワシじゃな」
そういえば当然シャルフィムの警戒心はさらに高まることになるのじゃが、事実なので言っておくべきじゃろう。
「そうなった経緯を今から全て話すのじゃよ」
というわけで、これまでの経緯を話していくと、シャルフィムの警戒は怒りへと変化していったのじゃよ。
もちろんその怒りはワシではなくシバルへ向けられておるのじゃ。
経緯を話すついでじゃし、屋敷に入ったところまで話したところで、
「シバルの服が執事服ではなくメイド服なのは、ワシからのちょっとした嫌がらせじゃな」
暴露もしておこうかの。
「やっぱりですか!」
怒ったシバルが机の上に乗り出して近づいてこようとしたのじゃが、シャルフィムが襟首を掴んで引き戻したのじゃ。
「ぐぇっ!」
乗り出す勢いと引っ張られる力によってかなりの力で首を絞められたシバルは、ソファに座り直してからちょっと間むせてからシャルフィムに突っかかっていったのじゃよ。
「シャルフィム!」
「自分のやったことを考えれば、それくらいの嫌がらせで済んでるだけマシだと思うべきよ」
そう言われると反論出来ないシバルは黙り込むしかなかったのじゃ。
シバルが黙り込んだので屋敷に入ってからの話をすると、ワシがシバルを殴った経緯を聞いたシャルフィムはシバルを思いっきり殴り飛ばしたのじゃよ。
「グハッ!」
いいパンチを貰ったシバルがソファから転げ落ちたのでシャルフィムにサムズアップすると、それを見たシャルフィムはサムズアップして返してくれたのじゃよ。
ノリまでいいなんて、孫に欲しいのじゃよ。今のワシはまだ15歳じゃけど。
「そして今にいたるわけじゃな」
「シバルが迷惑をかけて本当にすいません」
「シャルフィムが謝るべきことではないのじゃからいいのじゃよ」
「でも」
「いいのじゃよ。その分の嫌がらせはすでに終えておるし、依頼が終わったらしっかりと報酬を貰うからそれでよいのじゃよ」
「ありがとうございます。ほら、シバルもお礼いいなさい」
まだ床に倒れ込んだまま起き上がらないシバルにシャルフィムが蹴りを入れると、シバルはどうにか起き上がり、
「ありがとうございます」
お礼を言うとまたダウンしてしまったのじゃ。
「それでじゃ、シャルフィムは助けられ方について何か要望はあるかの?」
「要望ですか?」
「そうじゃよ、こういった状況で助けて欲しいとか、何か思いつくことがあるのなら叶えられる範囲で叶えるのじゃが」
「………いえ、これ以上迷惑をかけるわけにはいきませんので」
そう言ったシャルフィムじゃが、何か思いつくことがあったのじゃろうな。
答えるまでに一瞬じゃが間があったのじゃよ。
「何か思いつくことがあったようじゃの」
「………」
しかし、シャルフィムは何も言わずにうつ向いてしまったのじゃよ。
さて、どうしたものかの。
シャルフィムがうつ向いたのならワシは天井を見上げてみるかの。
と、天井を見上げてみたものの、シャルフィムから何か聞き出せるわけでもないしの~。
少し切り口を変えてみるかの。
ワシはシャルフィムへ視線を戻したのじゃ。
「助けて欲しくはあるんじゃよな」
「………はい」
ここでまさかの「いいえ」が返ってきたらどうしようかとドキドキしたが、そうならなくてまずはちょっとホッとしたのじゃ。
「それなら、今すぐ助け出してもよいな」
その一言にシバルもシャルフィムをワシを見たが、その表情は全く別のものじゃな。
シバルは嬉しそうに笑顔なのじゃが、シャルフィムは驚いたあとで暗い表情になったじゃ。
驚きはワシがすぐにでもここから助け出せると言ったからじゃろうが、暗い表情にはどんな思いがあるのじゃろうかの。
「助けて欲しいのになぜそんな表情をするのじゃ?」
ワシの問いで異変に気づいたのか、シバルは横を向いてシャルフィムの表情を見て驚いて立ち上がったのじゃ。
「どうしたんだよ、シャルフィム!すぐにでも助け出してもらった方がいいだろ!」
「黙っておれ」
「でも!」
「黙っておれと言っておるのじゃよ、シバル」
「うっ」
ひと睨みしてシバルを黙らせてからシャルフィムに笑顔を向けるのじゃよ。
「お主が自分の考えを言わぬというのなら、ワシは助けるという結果のみを求めるために今すぐにお主を助けるが、それでよいのじゃな」
ここまで言っても自分の考えを話さないというのならすぐに2人を連れて屋敷を出るが、シャルフィムは話してくれるかの。
「1つ聞きたいのですが」
「なんじゃ?」
「もし、今すぐにこの屋敷から逃げ出した場合、その後屋敷内ではどんなことが起きると思いますか?」
なるほどの。
シャルフィムの暗い表情はその後の屋敷内で起きる騒ぎを考えておったからか。
「当然ながら騒ぎになるじゃろうな」
「当然ですね」
「それからの流れでいうと、お主1人で逃げ出すのは無理と考えるじゃろうから共犯者と脱出経路の割り出し、お主を探すために追っ手も放たれることにもなるじゃろうな」
「追っ手はいいのですが、共犯者として疑われるのは………」
「1番疑われるのは当然ここの使用人達じゃな。その次に外部の人間となるじゃろうが、外部の人間がそう簡単に入り込めるところではないのじゃから、やっぱり使用人が疑われるじゃろうな」
「………ですよね………」
本当にいい子じゃ!いい子すぎるじゃろ!
助けて欲しいと思いつつも、自分が逃げた後に屋敷の使用人達が疑われることを気にしてすぐに逃げるという選択肢を選ばないとはの!
シバルにもこれぐらい考えて行動してほしいものじゃの!
とはいえ、考えなしに行動するシバルとしっかりと考えて行動するシャルフィムの正反対の凸凹な2人だからこそ、ピタッとハマって上手くいっているのかもしれないの。
まぁ、この2人の場合、シャルフィムの負担が大きくなりそうじゃけどな。
「ならば、お主はどうしたいのじゃ?」
シャルフィムが暗い表情をした理由はわかったのじゃ。
ならば次はそれに対するシャルフィムの考えを聞きたいのじゃよな。
「どうする、ですか」
「何か考えがあるのではないのか?」
「あり………ますけど………」
「ならば言ってみるのじゃよ。それを聞いた上でワシはどうするか考えるのじゃからな」
ワシはシャルフィムの目を見て答えを待ったのじゃ。
そのまま少しの間見つめあったのち、シャルフィムは、
「私を助けるのは結婚式当日にしてくれませんか?」
「ふむ」
その提案について考えるのじゃ。
結婚式当日の教会で助け出した場合じゃと、教会には不特定多数の人間がいるうえに外部からの侵入も容易なので犯人を特定することはほぼ不可能じゃろう。
そうなれば使用人達が疑われる心配もなくなるじゃろうし、ワシとしても後々の心配事が減るので助けやすくなるのじゃ。
「ワシはそれでよいぞ」
「本当ですか!」
さっきまで暗かったシャルフィムの表情が一気に明るくなったのじゃ。
やはり女性はこれぐらい笑顔でいてほしいものじゃな。
「そちらの方がワシとしてもやりやすいし、助けるシバルも逃げやすいじゃろう」
「えっ!?俺が助けるんですか!?」
なぜに驚いておるのじゃろうか、この馬鹿は。
おっと。ついついシバルを馬鹿と呼んでしまったのじゃよ。
しかし、シャルフィムを「何言ってるのコイツ」と言いたげな表情でシバルを見ておるので馬鹿と呼んでも問題ないかの。
「当たり前じゃろうが。恋人のお主が助け出さなくて誰が助け出すというのじゃよ」
「それはもちろん夕夜さんが!」
「馬鹿を言うではないよ。お主がやるのじゃ。よいな」
有無を言わせぬほどの圧力をかけると、シバルはワシの視線から逃げるようにうつ向いてしまったのじゃ。
その姿にワシとシャルフィムは同時にため息を吐いたのじゃ。
「それでは、助け出すのは結婚式当日でよいな?」
「はい」
「それまではこの屋敷で窮屈な生活をしなければいけないが、我慢しておくれ」
「いえ、使用人の人達にはよくしてもらっているので窮屈とは思ってはいませんね」
そう言ってワシに向けた笑顔は本心からくる笑顔だとわかったのじゃよ。
「そうか。ではシバル。帰るのじゃよ」
「夕夜さん。俺はここに残ります!」
おやおや。また馬鹿がおかしなことを言い出したのじゃよ。
「何を言っておる?」
「このメイド服を着ている間は俺はメイドに見えるのなら、ここに残っても大丈夫ですよね!」
その言葉にワシもシャルフィムも呆れたのじゃよ。
「ここに残ったとしてもずっとこの部屋におれるわけではないし、他の仕事をしてボロを出せばシャルフィムを助け出すことすら出来なくなるうえに、そのメイド服に付与された認識改変は時間とともに効果が薄れてくるから、確実にバレて不審者として捕まるのじゃよ」
ワシの説明を聞いたシバルは驚いてから落ち込み、シャルフィムは額に手を当てて大きなため息を吐いたのじゃ。
「それでも俺は!」
「帰ると言っておるじゃろが」
「ぐふっ!」
流石にこれ以上この馬鹿の戯れ言は聞きたくなかったので、ワシはシバルのみぞおちに拳を打ち込んで気絶させ、肩に担いだのじゃよ。
「本当にすいません」
「さっきも言ったがシャルフィムが謝ることではないから気にするでない」
さて、マントの効果を使えば廊下から帰ってもバレることはないじゃろうが、シバルを担いだまま移動するのも面倒なので、ワシは窓に近づいて開けたのじゃよ。
「え?窓から帰るのですか?」
「こっちのほうが手っ取り早いからの。結婚式の日に必ずシバルに助けに行かすから、その時にまたなのじゃよ」
「あの!」
窓から飛び出そうとしたワシをシャルフィムが呼び止めたのじゃよ。
「なんじゃ?」
「なんでこんな危険をおかしてまで私のところに来てくれたのですか?」
「それはシバルが何も考えておらぬかったし、お主の意見も聞きたかったからの」
「じゃあ、もしシバルが何か考えていたらどうしたのですか?」
「それでもお主の意見は聞きに来ておったじゃろうな」
「それはなんでですか?」
「片方の意見しか聞かずに行動を起こせば、すれ違いや勘違いが起きるかもしれないからじゃろうな」
「すれ違いや勘違い、ですか?」
「そうじゃよ。そのすれ違いや勘違いがのちのち大きな問題に発展する場合もあるからの。特に、結婚が絡んだ事になると余計にの。そんな問題に巻き込まれるくらいなら、双方の意見を聞いたうえで行動を起こすくらいちっぽけな苦労なんじゃよ」
「領主邸に侵入することがちっぽけな苦労なんですか?」
「ちっぽけじゃよ。この馬鹿の突発的な言動に比べればの」
「ふふっ。そうですね」
シャルフィムが笑いながらシバルを見たのじゃ。
「あの、夕夜さん」
「なんじゃ?」
「すいませんけど、もしもの時はお願いします」
シャルフィムが頭を下げながらそう言う言葉の意味を考えつつ、
「わかったよ。それじゃあ、結婚式での」
「はい」
シャルフィムの頷きを見たワシは今度こそ窓から飛び出したのじゃった。
「え?え?」
まだ状況が飲み込めずにシャルフィムが戸惑っておるので、ワシはテーブルの方へ移動するとソファに座り、テーブルの上にお茶菓子と紅茶を用意したのじゃよ。
「シバル。彼女をエスコートして連れて来るのじゃよ」
そう言いながら向かいのソファを示すと、シバルは抱きつくシャルフィムを立ち上がらせ、腰に手を当ててエスコートして2人で向かいのソファにやって来て座ったのじゃよ。
「改めて、ワシがさっきからシバルが言っておった夕夜じゃよ。よろしくの」
「よ、よろしくお願いします。私は」
「シバルの恋人のシャルフィムで合っておるの?」
「あ、はい」
頷いたシャルフィムはワシを見てきたが、その視線は戸惑いと警戒、それに疑いと疑問、あと恐怖も乗っていそうじゃの。
その中でも1番強いのは警戒のようじゃが、まぁシバルの呼びかけにすぐに出てこなかったし、そんな視線を向けられても仕方ないの。
「ふふ。そんなに警戒せんでも、の」
ワシは2人の前に紅茶を置いたのじゃが、やはりシャルフィムは警戒して手を伸ばさないのじゃが、気にせずにワシは自分用に用意した紅茶を一口飲んだのじゃよ。
「さて、さっきもシバルが言っておったが、そのメイド服を用意したのも、シバルの頬を殴ったのもワシじゃな」
そういえば当然シャルフィムの警戒心はさらに高まることになるのじゃが、事実なので言っておくべきじゃろう。
「そうなった経緯を今から全て話すのじゃよ」
というわけで、これまでの経緯を話していくと、シャルフィムの警戒は怒りへと変化していったのじゃよ。
もちろんその怒りはワシではなくシバルへ向けられておるのじゃ。
経緯を話すついでじゃし、屋敷に入ったところまで話したところで、
「シバルの服が執事服ではなくメイド服なのは、ワシからのちょっとした嫌がらせじゃな」
暴露もしておこうかの。
「やっぱりですか!」
怒ったシバルが机の上に乗り出して近づいてこようとしたのじゃが、シャルフィムが襟首を掴んで引き戻したのじゃ。
「ぐぇっ!」
乗り出す勢いと引っ張られる力によってかなりの力で首を絞められたシバルは、ソファに座り直してからちょっと間むせてからシャルフィムに突っかかっていったのじゃよ。
「シャルフィム!」
「自分のやったことを考えれば、それくらいの嫌がらせで済んでるだけマシだと思うべきよ」
そう言われると反論出来ないシバルは黙り込むしかなかったのじゃ。
シバルが黙り込んだので屋敷に入ってからの話をすると、ワシがシバルを殴った経緯を聞いたシャルフィムはシバルを思いっきり殴り飛ばしたのじゃよ。
「グハッ!」
いいパンチを貰ったシバルがソファから転げ落ちたのでシャルフィムにサムズアップすると、それを見たシャルフィムはサムズアップして返してくれたのじゃよ。
ノリまでいいなんて、孫に欲しいのじゃよ。今のワシはまだ15歳じゃけど。
「そして今にいたるわけじゃな」
「シバルが迷惑をかけて本当にすいません」
「シャルフィムが謝るべきことではないのじゃからいいのじゃよ」
「でも」
「いいのじゃよ。その分の嫌がらせはすでに終えておるし、依頼が終わったらしっかりと報酬を貰うからそれでよいのじゃよ」
「ありがとうございます。ほら、シバルもお礼いいなさい」
まだ床に倒れ込んだまま起き上がらないシバルにシャルフィムが蹴りを入れると、シバルはどうにか起き上がり、
「ありがとうございます」
お礼を言うとまたダウンしてしまったのじゃ。
「それでじゃ、シャルフィムは助けられ方について何か要望はあるかの?」
「要望ですか?」
「そうじゃよ、こういった状況で助けて欲しいとか、何か思いつくことがあるのなら叶えられる範囲で叶えるのじゃが」
「………いえ、これ以上迷惑をかけるわけにはいきませんので」
そう言ったシャルフィムじゃが、何か思いつくことがあったのじゃろうな。
答えるまでに一瞬じゃが間があったのじゃよ。
「何か思いつくことがあったようじゃの」
「………」
しかし、シャルフィムは何も言わずにうつ向いてしまったのじゃよ。
さて、どうしたものかの。
シャルフィムがうつ向いたのならワシは天井を見上げてみるかの。
と、天井を見上げてみたものの、シャルフィムから何か聞き出せるわけでもないしの~。
少し切り口を変えてみるかの。
ワシはシャルフィムへ視線を戻したのじゃ。
「助けて欲しくはあるんじゃよな」
「………はい」
ここでまさかの「いいえ」が返ってきたらどうしようかとドキドキしたが、そうならなくてまずはちょっとホッとしたのじゃ。
「それなら、今すぐ助け出してもよいな」
その一言にシバルもシャルフィムをワシを見たが、その表情は全く別のものじゃな。
シバルは嬉しそうに笑顔なのじゃが、シャルフィムは驚いたあとで暗い表情になったじゃ。
驚きはワシがすぐにでもここから助け出せると言ったからじゃろうが、暗い表情にはどんな思いがあるのじゃろうかの。
「助けて欲しいのになぜそんな表情をするのじゃ?」
ワシの問いで異変に気づいたのか、シバルは横を向いてシャルフィムの表情を見て驚いて立ち上がったのじゃ。
「どうしたんだよ、シャルフィム!すぐにでも助け出してもらった方がいいだろ!」
「黙っておれ」
「でも!」
「黙っておれと言っておるのじゃよ、シバル」
「うっ」
ひと睨みしてシバルを黙らせてからシャルフィムに笑顔を向けるのじゃよ。
「お主が自分の考えを言わぬというのなら、ワシは助けるという結果のみを求めるために今すぐにお主を助けるが、それでよいのじゃな」
ここまで言っても自分の考えを話さないというのならすぐに2人を連れて屋敷を出るが、シャルフィムは話してくれるかの。
「1つ聞きたいのですが」
「なんじゃ?」
「もし、今すぐにこの屋敷から逃げ出した場合、その後屋敷内ではどんなことが起きると思いますか?」
なるほどの。
シャルフィムの暗い表情はその後の屋敷内で起きる騒ぎを考えておったからか。
「当然ながら騒ぎになるじゃろうな」
「当然ですね」
「それからの流れでいうと、お主1人で逃げ出すのは無理と考えるじゃろうから共犯者と脱出経路の割り出し、お主を探すために追っ手も放たれることにもなるじゃろうな」
「追っ手はいいのですが、共犯者として疑われるのは………」
「1番疑われるのは当然ここの使用人達じゃな。その次に外部の人間となるじゃろうが、外部の人間がそう簡単に入り込めるところではないのじゃから、やっぱり使用人が疑われるじゃろうな」
「………ですよね………」
本当にいい子じゃ!いい子すぎるじゃろ!
助けて欲しいと思いつつも、自分が逃げた後に屋敷の使用人達が疑われることを気にしてすぐに逃げるという選択肢を選ばないとはの!
シバルにもこれぐらい考えて行動してほしいものじゃの!
とはいえ、考えなしに行動するシバルとしっかりと考えて行動するシャルフィムの正反対の凸凹な2人だからこそ、ピタッとハマって上手くいっているのかもしれないの。
まぁ、この2人の場合、シャルフィムの負担が大きくなりそうじゃけどな。
「ならば、お主はどうしたいのじゃ?」
シャルフィムが暗い表情をした理由はわかったのじゃ。
ならば次はそれに対するシャルフィムの考えを聞きたいのじゃよな。
「どうする、ですか」
「何か考えがあるのではないのか?」
「あり………ますけど………」
「ならば言ってみるのじゃよ。それを聞いた上でワシはどうするか考えるのじゃからな」
ワシはシャルフィムの目を見て答えを待ったのじゃ。
そのまま少しの間見つめあったのち、シャルフィムは、
「私を助けるのは結婚式当日にしてくれませんか?」
「ふむ」
その提案について考えるのじゃ。
結婚式当日の教会で助け出した場合じゃと、教会には不特定多数の人間がいるうえに外部からの侵入も容易なので犯人を特定することはほぼ不可能じゃろう。
そうなれば使用人達が疑われる心配もなくなるじゃろうし、ワシとしても後々の心配事が減るので助けやすくなるのじゃ。
「ワシはそれでよいぞ」
「本当ですか!」
さっきまで暗かったシャルフィムの表情が一気に明るくなったのじゃ。
やはり女性はこれぐらい笑顔でいてほしいものじゃな。
「そちらの方がワシとしてもやりやすいし、助けるシバルも逃げやすいじゃろう」
「えっ!?俺が助けるんですか!?」
なぜに驚いておるのじゃろうか、この馬鹿は。
おっと。ついついシバルを馬鹿と呼んでしまったのじゃよ。
しかし、シャルフィムを「何言ってるのコイツ」と言いたげな表情でシバルを見ておるので馬鹿と呼んでも問題ないかの。
「当たり前じゃろうが。恋人のお主が助け出さなくて誰が助け出すというのじゃよ」
「それはもちろん夕夜さんが!」
「馬鹿を言うではないよ。お主がやるのじゃ。よいな」
有無を言わせぬほどの圧力をかけると、シバルはワシの視線から逃げるようにうつ向いてしまったのじゃ。
その姿にワシとシャルフィムは同時にため息を吐いたのじゃ。
「それでは、助け出すのは結婚式当日でよいな?」
「はい」
「それまではこの屋敷で窮屈な生活をしなければいけないが、我慢しておくれ」
「いえ、使用人の人達にはよくしてもらっているので窮屈とは思ってはいませんね」
そう言ってワシに向けた笑顔は本心からくる笑顔だとわかったのじゃよ。
「そうか。ではシバル。帰るのじゃよ」
「夕夜さん。俺はここに残ります!」
おやおや。また馬鹿がおかしなことを言い出したのじゃよ。
「何を言っておる?」
「このメイド服を着ている間は俺はメイドに見えるのなら、ここに残っても大丈夫ですよね!」
その言葉にワシもシャルフィムも呆れたのじゃよ。
「ここに残ったとしてもずっとこの部屋におれるわけではないし、他の仕事をしてボロを出せばシャルフィムを助け出すことすら出来なくなるうえに、そのメイド服に付与された認識改変は時間とともに効果が薄れてくるから、確実にバレて不審者として捕まるのじゃよ」
ワシの説明を聞いたシバルは驚いてから落ち込み、シャルフィムは額に手を当てて大きなため息を吐いたのじゃ。
「それでも俺は!」
「帰ると言っておるじゃろが」
「ぐふっ!」
流石にこれ以上この馬鹿の戯れ言は聞きたくなかったので、ワシはシバルのみぞおちに拳を打ち込んで気絶させ、肩に担いだのじゃよ。
「本当にすいません」
「さっきも言ったがシャルフィムが謝ることではないから気にするでない」
さて、マントの効果を使えば廊下から帰ってもバレることはないじゃろうが、シバルを担いだまま移動するのも面倒なので、ワシは窓に近づいて開けたのじゃよ。
「え?窓から帰るのですか?」
「こっちのほうが手っ取り早いからの。結婚式の日に必ずシバルに助けに行かすから、その時にまたなのじゃよ」
「あの!」
窓から飛び出そうとしたワシをシャルフィムが呼び止めたのじゃよ。
「なんじゃ?」
「なんでこんな危険をおかしてまで私のところに来てくれたのですか?」
「それはシバルが何も考えておらぬかったし、お主の意見も聞きたかったからの」
「じゃあ、もしシバルが何か考えていたらどうしたのですか?」
「それでもお主の意見は聞きに来ておったじゃろうな」
「それはなんでですか?」
「片方の意見しか聞かずに行動を起こせば、すれ違いや勘違いが起きるかもしれないからじゃろうな」
「すれ違いや勘違い、ですか?」
「そうじゃよ。そのすれ違いや勘違いがのちのち大きな問題に発展する場合もあるからの。特に、結婚が絡んだ事になると余計にの。そんな問題に巻き込まれるくらいなら、双方の意見を聞いたうえで行動を起こすくらいちっぽけな苦労なんじゃよ」
「領主邸に侵入することがちっぽけな苦労なんですか?」
「ちっぽけじゃよ。この馬鹿の突発的な言動に比べればの」
「ふふっ。そうですね」
シャルフィムが笑いながらシバルを見たのじゃ。
「あの、夕夜さん」
「なんじゃ?」
「すいませんけど、もしもの時はお願いします」
シャルフィムが頭を下げながらそう言う言葉の意味を考えつつ、
「わかったよ。それじゃあ、結婚式での」
「はい」
シャルフィムの頷きを見たワシは今度こそ窓から飛び出したのじゃった。
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