【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希(キャラ文芸大賞短編で参加中)

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第二部 帰郷

1話 祖国からの手紙

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「シェフ、よろしいですか」
 厨房に入ってきたアランに声を掛けられた。
 ウサギのもも肉が焼き上がり、皿に乗せたところで、「はーい」と返事をする。

「お客様がお呼びです」
「わかりました。あとをお願いします」
 スーシェフに盛り付けを頼み、私は振り返る。

 厨房の扉口に、執事用の黒のタキシードを着こなしたアランが待っていた。
 苦手だと言っていた髪を撫でつけて固めるスタイルにはしていない。

 ここは自由の国アノルド。
 伝統と格式を重んじるルクディア王国の料理を出すお店だけど、スタイルまではこだわらなかった。シェフである私が元侯爵令嬢で、そこからして伝統と格式を破っているのだから。

 アランは私を見て、ふっと表情を緩めた。優しさが瞳に溢れる。

 私たちが結婚して8年もたつ。3歳の息子だっているのに、アランに真っ直ぐ見つめられると、どきどきしてしまう。
 家にいるときの甘い言葉と仕草、仕事中のきりっとした中でときおり見せる優しい表情。どちらのアランもすてき過ぎて、困ってしまう。

 あなたはどうして、そんなにかっこいいの。
 近づくだけで、嬉しくて胸が騒いでしまう。

 私を呼んだお客様が食べた料理をアランから教えてもらってから、背を見せたアランについて、客席に向かった。

 何度も私を助けてくれた頼もしい背中にもどきどきしてしまう。
 いけない仕事中よ、と気を引き締める。

 案内された席に座っていたのは、40歳半ば頃の男性。グレーのスーツに身を包んでいる。黒い髪色をしているから、ルクディア人だろうか。
 彼のテーブルにはソースまできれいになくなった、食べ終わった皿が置いてある。

「お待たせしました。当店のシェフ、シェリーヌ・ボーヴォワールにございます」
 アランが声をかけると、お客様は私を見て、驚くように目を見開いた。

「女性シェフだったのですね。銀色の髪? もしかして貴族の奥様でいらっしゃいますか」
 立ち上がりかけるのを、アランが止める。

「お客様、どうぞおかけになったままで」

 彼は戸惑った表情のまま、腰を落ち着けた。

「お客様、お料理はいかがでしたか? お口に合いましたでしょうか?」

 私が話しかけると、話していいものか悩んだのだろう、口を開閉させる。

「ここはアノルド国です。どうぞ、お話しくださいませ」

 私が促すと、姿勢は正したまま、口を開いた。

「とても、美味しかったです。わたしは新聞記者として、ここにきて二年になります。アノルド国の食事が口に合って気に入っていたのですが、こちらのお店を知って、久しぶりに祖国の味に触れました。懐かしい気持ちになり、作った方を知りたくなったのです。まさか貴族の奥様がいらっしゃるとは思わず。呼びつける形になってしまった非礼をお許しください」

 ルクディア人であれば、貴族を呼びつけるなど許されない行為。彼の声が震えてしまうのも、無理もない。

「さきほども申し上げましたが、ここはアノルド国です。私はルクディアを出た身。お気になさらないでくださいませ」

 私がにこりと微笑んで伝えると、彼は安心したのか、体から少し力を抜いた。

「貴族で国を出る方がおられるなんて、知りませんでした。しかも、街の食堂でシェフをしておられるなんて、たいへん驚きました」

「私は、貴族らしくないようです。婚約破棄をされた上に、国を捨ててしまいました」

「貴族の奥様なら、悠々自適な暮らしが保証されているのに」

「私にとっては、鳥籠です。あの国は」

「はあ、鳥籠ですか。そういう方もおられるのですねえ。庶民にはわかりませんが」
 でも、と言った彼は、私に笑顔を向けた。

「お陰で美味しくて、懐かしい料理にありつけました。また来ます」

「ありがとうございます。ぜひ、お越しくださいませ」

 満足そうに店を出ていく彼の背を、アランと見送った。
 私が作った料理を美味しいと言ってくれる。また来ると言ってくれる。料理人にとって、最大の賛辞を伝えられて、私の頬が緩む。
 喜ぶ私を見て、アランも優しく微笑んでくれた。

「こんちわ、郵便です」
 お店の扉が開き、ポストマンから手紙を受け取った。

 宛先は自宅になっているけれど、日中は店にいると知っているポストマンは、ここに届けてくれる。

 誰からだろうかと、封書の裏を見ると、
「クリストフお兄様から?」
 私の両親の土地を、今治めている従兄クリストフお兄様からの手紙だった。


 次回⇒2話 帰郷
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