【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希(キャラ文芸大賞短編で参加中)

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第二部 帰郷

3話 祖国の地

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 汽車が到着した。

 婚約破棄され、卒業式に出席せず国を発ったのは私が16歳、アランは20歳。
 私たちはちょうど十年振りに、祖国ルクディア王国の地を踏んだ。

 こんな雰囲気だったっけ、と私は足を止めて駅前を見渡す。
 街が変わっているのか、私にはわからない。

 私は侯爵邸と貴族学校を馬車で往復するだけの毎日で。休日は部屋にこもっていた。だから街の様子に変化があってもわからない。
 ただ、雰囲気が違っているように思えた。

「どうかされましたか?」
「ん……なんだか、空気が重いような気がして。気のせいかしら」

「以前に比べると、活気がないようにも見えます」
「やっぱり。街に出ていたアランが言うのだから、そうなのでしょうね。アラン、口調が」

 以前に戻っている。お店と同じ口調のようで、けれど距離を感じる。

「やはり、戻りますね。十年たっていても、あの頃に」
 アランが懐かしそうに、遠い目をする。

「身に付き過ぎね。執事教育が」
「恐れ入ります」

 私はふぅ、とため息をこぼす。この調子では、私のことを『様』付けで呼びそうね。

「アラン、私たちは夫婦なの。あなたは私の側近じゃないのだから、あの頃にまで戻らないで」
 お願いすると、アランは私を見つめて頷いた。

「善処します」
 と言ったあと、荷物を右手にまとめ、左手を私に差し出した。

「だから固いって」
 私は軽く笑って、アランの手を取った。左手にはリュカの小さな手。少しだけ力を加える。リュカが迷子になってしまわないように。

 駅の近くでホテルを探し、三日間部屋を押さえた。
 延びる可能性もあるけれど、旅行シーズンではないから、満室になることはほとんどないと聞かされて、ひとまず三日分だけ。侯爵邸で宿泊させてもらうつもりはない。

 着替えてから侯爵邸に向かうことにしようと決め、

「シェリーヌ様、これから向かう旨のお手紙を書かれた方がよろしいかと思います」
「ええ。そうね。着替える前に一筆したためるわ」

 という会話を自然にしてしまい、私は「ごめんなさい」と謝った。

「私が戻らないでって言ったのにね」
「わたしも様を付けてしまいました」
 うふふと笑い合う。

 リュカは疲れたようで途中で眠ってしまい、私が抱っこしてホテルまで連れてきた。荷物をホテルの従業員に預けてからは、アランが抱っこを代わってくれた。今はベッドでぐっすり眠っている。

 ホテルに頼んで便箋と封書をもらい、帰国し、これから養父のお見舞いに伺いたいとしたため、封をした。急ぎであると従業員に告げると、侯爵邸まで届けてくれると請け負ってくれた。

 料金を多めに渡してお願いし、私たちは着替え終え、紅茶を頼んで小休憩を取った。

 一時間ほどたってリュカが目を覚ました。「お出かけするから、こっちのお洋服を着ようね」と欠伸をするなか着替えをさせた。

 アノルド国で用意した手土産と、ホテルでも追加で手土産を購入し、私たちは手配を頼んでいた馬車に乗り込んだ。
 しばらく外を眺めていたリュカは、汽車のときほど興奮せず、飽きたのか寝息を立て始めた。
 通りを歩いている人が少ない上に、同じような建物が続くので、つまらなかったのだろう。

 やがて立派な門扉を構えたお屋敷が見えてきた。貴族街に入ったのだ。
 リュカを起こし、そろそろ到着するから起きているようにと言う。

「わー。おっきなおうち」
 窓外の建物を見て、リュカははしゃいだ声を上げた。
 領地のハウスはタウンハウスよりもっと広い。どれだけ驚くのか、想像すると少し楽しくなった。

 馬車が止まった。御者台から降りた御者が、扉を開けてくれる。
 アランが先に降り、リュカを抱っこで降ろしてから、私に手を差し出してくれた。
 彼の手につかまって、馬車を降りる。

 目の前には、十年前と何も変わらない侯爵邸が、そびえるように建っていた。
「シェリーヌ様、お帰りなさいませ」
 門番が以前のように頭を下げる。

 帰ってきたんだ。

 脳裏にさまざまな出来事がよみがえる。ここを発った日のことから、ここでの生活、通学、初めてやってきた8歳の頃まで。一瞬で記憶と、感情を思い出して、私はお腹と背中に力を込めた。

 アノルド国ではシェリーヌ・ボーヴォワールという戸籍を作った。養子に入る前の、両親の姓で。
 しかし、ルクディア王国ではシェリーヌ・ブランヴィルの戸籍が残っている。否応なしに、貴族だった頃に引き戻された。

「ママ?」
 アランと私に手を繋がれたリュカが、不思議そうな顔で見上げている。

「大丈夫ですか?」
 アランも心配そうに、私を見つめていた。

 ここまで来たのだから、怖気づいている場合ではない。覚悟をしないと。

「ええ、行きましょう」
 私は決意を固めると、侯爵邸に足を向けた。

 見覚えのある執事が開けてくれた扉をくぐると、執事とメイドがずらりと並び、私たちを出迎えた。

 初めてされた出迎えに、戸惑いながら歩を進めると、
「大層な歓迎っぷりだな」
 明らかな嫌味がこもった声が降ってきた。


 次回⇒4話 変わらない人たち
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