死にたがりの少女 〜 夕空を見上げる

あらき恵実

文字の大きさ
4 / 12
4.

泣いている夕月

しおりを挟む
〝わかるよ〟

レンは、包帯が巻かれた私の腕を眺めながら、
〝リコの気持ち、たぶんわかるよ〟
と言った。

言葉にできなくて、うまく吐き出せない気持ちを、レンが優しく受け止めてくれた。
そんな感じがした。

〝俺も、たぶん同じ気持ちを知ってると思う〟

その言葉はうわべではないと、皮膚感覚でわかった。

私は、彼と前世では双子だったんじゃないだろうか。

やっと共感できる相手を見つけた。
心の一部を預けられる人を見つけた。
そんな気持ちがして、心が軽くなった。それに、緊張がほぐれて体まで楽になった気がした。

不安な時、気持ちが落ち込んでいる時、私は、無意識に浅い呼吸をしてしまう。
だけど、〝レンが私の気持ちを分かってくれる〟と思うだけで、私は深く息が吸えるようになった。酸素の薄い部屋から外へ出られたような気分だった。

そんなわけで、私はレンと親しくなって気持ちも体も楽になった。
だけど、レンは私と親しくなるほど、余計に病んでいくみたいにみえた。

その様子は、まるでズブズブと沼にはまっていくみたいだった。

レンは私に過去の話をたくさんしたがった。
頭の奥にある秘密の扉を開いて、中から次々と、薄れかけていた悲しい思い出を取り出すみたいだった。 
取り出すたびに、レンの過去は色鮮やかになり、レンは苦しくて涙を流したり、うめいたりした。
もう話すのをやめようと言っても、レンは頭の奥から過去を掘り起こし続けた。

レンは最近、眠れない日が増えた。
思いだした過去に気持ちを大きく揺さぶられているようだった。あんまり苦しくて、夜中にワアワアと大声をあげながらベッドの上で身悶えしている日もあった。
そういう日は、看護師さんに鎮静剤をうたれたり、眠剤をのまされたりしていた。

私のせいだろうか。

私がそばにいると、
レンは過去に浸りすぎてしまう。

私の存在がレンを苦しめているのだろうか。

やっと、苦しみを共有できる人を見つけたと思ったのに。

七月下旬。
私は、レンとの距離感をうまくはかれずにいた。

病室の窓の外をみると、夕方の月が空にひっかかっていた。
レンに会いたい気持ちが、宙ぶらりんで空にひっかかっているみたいだった。

空は青と紺色の間の、静かな色をしていた。
もう少しで夜が訪れる。

遠くから電車が走ってくる音がした。
学校や職場から家に帰る人を乗せて、ガタゴトと病院のそばの線路を走り抜けていく。
そして、夕闇の街に消えて行く。

窓辺に立って、だんだんと濃くなっていく夕闇を眺める。
夜が近づくほど、孤独をくっきりと感じるのはなぜだろう。

レンに会いたい気持ちが、胸の中でふくらむ。

大事な人。
そばにいたい人。
だけど、そばにいたら苦しめてしまう人。

夕月がひっそりと夜空にひっかかっている。
さみしくて、夜空で泣いているみたいに見えた。

続く~


















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...