きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第1章◇優しくて冷たいひと

12 きみのせい

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「ここからだとちょっと遠くない? 仕事場の近くに住んだらいいのに」
「この街の雰囲気が好きなので、あえてここを選んだんです。ここから見える夕陽も綺麗だし」

 確かに、その大きくて広い窓から見える街の景色は良さそうだ。

「そっか。律の仕事のこと、律の両親はいいって言ったの?」
「言うと思いますか? 何よりも世間体を1番に気にするあの人たちが」

 両親にはすべて事後報告だそうだ。
 僕と同様、律も家族とはなんとなく気まずいらしく、ほとんど実家には帰っていないらしい。

 てことは、接近禁止令なんてもう守らなくていいじゃん。
 これからは気軽に会える。


 そう思いたいのに、律が僕に一線を引いている気がして、うまく喜べなかった。

 現にこの今の2人の距離間がそうだ。

 手を伸ばさないと触れられない距離。

「律、色々と努力してたんだね」

 それに比べて僕は、何をしていた?
 中学と高校受験は失敗して親の期待に応えられず、大学は家から逃げられるように遠い場所にして一人暮らしを始めた。

 それなりに楽しい毎日だけど、律みたいに何か結果を残した訳じゃない。

 全く努力しなかった訳ではないけど、昔からあんまりアップデートはされていないような気がする。

「きみはどうなんです」
「僕? 僕は別に……」
「言いたくないならいいですが、1つだけ答えて下さい」
「何?」
「君の恋愛対象は男性なんですか」

 ココアを吹き出しそうになる。
 ストレート過ぎるだろ。
 よくもまぁ堂々と。

「どうなんです」
「えー、えっと、まぁ」

 食い下がってくる律の気迫に思わず頷く。

 言わなくても分かってるだろ、ムサシさんと会ってた時点で。

「それも、俺と会わなくなってからですか」

 律に言われて、どきりとする。

 中2の頃、僕にはほんの少しの期間、彼女がいた。一緒に帰っているところを律に見られたこともある。


 正直言って、昔の僕は普通に女の子が好きだったはずだ。

 だけど律の、あのおおきな手によって僕は塗り替えられた。

 あれから大して恋愛はしていない。
 けど、いいなぁと思う人は全て男性だった。

 男性がというよりは、律がいい、と思うようになっていた。

 僕の人生において律以上に魅力的な男性には未だ出会えていない。

「……俺のせいですか?」

 おずおずと問われ、返答に困る。

 なんだよその顔。
 まるで自分のせいだったら嫌だみたいな。


 そうだよ。律のせいだよ。
 そうやって暴露したい。

 僕はあの夏から離れられずに先に進めないでいると。

 じっと見つめていると、すぐにぷいっと視線を逸らされる。

 猫かキミは。

 たしか猫は、目と目が合うと喧嘩の合図だと聞いたことがある。敵意がないと相手に分からせるために目を逸らすという行動をするらしい。

 だが律の場合はどうなんだろう。
 僕とは気まずいのかな、と思ってしまう。

「別に、律のせいじゃないよ。5年もあれば、人の考えだって変わるし。僕がこんな風になってたって知って軽蔑した?」
「いいえ。ただ、気になっただけです」

 いつの間にか互いのカップは空になっていた。
 僕は2人分のカップを持ってキッチンへ入り、シンクへ置いた。

 水滴や汚れが1つもないキッチンの隅に、ビニール袋が置いてあった。

 持ち手のところが縛ってあって中は見えないが、形からしてカップ麺や惣菜の空き容器と割り箸だった。

 キッチンに汚れ1つないのは、もしかしたら自炊をしないことの裏返しなのかも。
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