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◇第2章◇優しくて泣き虫なひと
14 過去の2人
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律のことは苦手だった。
たまに会えば僕を睨んでいる気がするし、きっと嫌われているのだろうと思っていた。
初めて話をしたのは、僕が幼稚園生の時。
玄関のところで1人で蟻を見て遊んでいたら、学校帰りの律に声を掛けられた。
「何してるの」
「蟻さんと遊んでる」
「ふーん……楽しいの?」
「わかんない」
僕は急に声を掛けられたのが恥ずかしくて顔が見れずに、俯いたままだった。
ふふっという笑い声を残し、律はすぐに去って自分の家へ入っていった。
あ、これたぶんバカにされたかなと、幼いながらに察してシュンとなった。
会話らしい会話をしたのは、僕が小1、律が小6の終わりの時だ。
1人で留守番をしている時に、律が家にやってきた。
「1人? お兄ちゃんは?」
「あ、いま、お母さんと出掛けてる」
律は教科書やテキストなどをどっさり手に持っていた。
どうやらそれは律が中学受験のために通っていた塾で使ったもので、僕の兄に渡すように親から言われたのだという。
その時に初めて、2つ上の兄が中学受験というものをすることと、おとなりさんが中学受験を無事に終えていたことを知った。
それよりも、怖いと思っていたおとなりさんが、意外と優しい声をしている方が驚いた。あれ以来、挨拶をするくらいしか会話をしたことがなかったから。
だから「また来るね」と踵を返した律に、思わず言ってしまった。
「優しいね」
僕としては、その声が、なんだけど。
律は困ったように首を振って笑っていた。
その夜、僕が習い事に行っている間に律は来てしまったようで会えずに残念だった。
兄に「りっちゃんって怖い?」と訊くと、全然、と首を傾げられた。
どうやら律は、元からそういう顔プラス、ちょっと人見知りらしかった。
小3の時、初めて律と2人で出かけた。
学習塾の夏期合宿へ行った兄が、3日目になって体調を崩したと連絡を受け、両親が迎えに行くと言って僕を律に預けた。
突然の申し出に、律は快く引き受けてくれた。
テレビで見てずっと行きたいと思っていた、ウォータースライダーがあるプールへ連れて行ってくれた。
僕はずっと上機嫌だった。
長い行列に並んで滑って、勢いよく水中に落下して水しぶきを上げる。
びしょ濡れになってもう1度、行列に並んで。
律は嫌な顔1つせずに付き合ってくれた。
りっちゃん、楽しいねぇ、楽しいねぇと僕は何度も律の腕を持って笑った。
「チーも、来年から塾に通うんだよね。頑張れ」
炎天下でかき氷を食べるとあっという間に手や口がベタベタになる。
舌を苺で赤く染めて、アスファルトの照り返しに目を細めながら、僕も中学受験をするらしいとその時に初めて知った。
僕は小3の終わり頃から塾へ通いだした。
けれどもともと、勉強は得意ではなかったので、成績はレベルの低いクラスの最下位だった。
僕よりも親が必死になっていた。
どうすれば成績が上がるのか、どこで兄とは差が付いてしまったのか、毎日頭を悩ませていた。
そんな中、毎年夏休みに律とプールへ行くのが恒例になっていた。
律が急に「今日はこれからプールです」と誘うのだ。
その日だけは、親は笑顔で「行ってらっしゃい」と言う。
開放感から、僕は毎年はしゃいでしまう。
それは僕が中1、律が高3の夏まで続いた。
結局、あんなに頑張って勉強したのに中学受験は失敗し、僕は公立中学へ通っていた。
後ろめたさから、高校はいい所へ行こうと誓い、また塾通いの日々が続いていた。
たまに会えば僕を睨んでいる気がするし、きっと嫌われているのだろうと思っていた。
初めて話をしたのは、僕が幼稚園生の時。
玄関のところで1人で蟻を見て遊んでいたら、学校帰りの律に声を掛けられた。
「何してるの」
「蟻さんと遊んでる」
「ふーん……楽しいの?」
「わかんない」
僕は急に声を掛けられたのが恥ずかしくて顔が見れずに、俯いたままだった。
ふふっという笑い声を残し、律はすぐに去って自分の家へ入っていった。
あ、これたぶんバカにされたかなと、幼いながらに察してシュンとなった。
会話らしい会話をしたのは、僕が小1、律が小6の終わりの時だ。
1人で留守番をしている時に、律が家にやってきた。
「1人? お兄ちゃんは?」
「あ、いま、お母さんと出掛けてる」
律は教科書やテキストなどをどっさり手に持っていた。
どうやらそれは律が中学受験のために通っていた塾で使ったもので、僕の兄に渡すように親から言われたのだという。
その時に初めて、2つ上の兄が中学受験というものをすることと、おとなりさんが中学受験を無事に終えていたことを知った。
それよりも、怖いと思っていたおとなりさんが、意外と優しい声をしている方が驚いた。あれ以来、挨拶をするくらいしか会話をしたことがなかったから。
だから「また来るね」と踵を返した律に、思わず言ってしまった。
「優しいね」
僕としては、その声が、なんだけど。
律は困ったように首を振って笑っていた。
その夜、僕が習い事に行っている間に律は来てしまったようで会えずに残念だった。
兄に「りっちゃんって怖い?」と訊くと、全然、と首を傾げられた。
どうやら律は、元からそういう顔プラス、ちょっと人見知りらしかった。
小3の時、初めて律と2人で出かけた。
学習塾の夏期合宿へ行った兄が、3日目になって体調を崩したと連絡を受け、両親が迎えに行くと言って僕を律に預けた。
突然の申し出に、律は快く引き受けてくれた。
テレビで見てずっと行きたいと思っていた、ウォータースライダーがあるプールへ連れて行ってくれた。
僕はずっと上機嫌だった。
長い行列に並んで滑って、勢いよく水中に落下して水しぶきを上げる。
びしょ濡れになってもう1度、行列に並んで。
律は嫌な顔1つせずに付き合ってくれた。
りっちゃん、楽しいねぇ、楽しいねぇと僕は何度も律の腕を持って笑った。
「チーも、来年から塾に通うんだよね。頑張れ」
炎天下でかき氷を食べるとあっという間に手や口がベタベタになる。
舌を苺で赤く染めて、アスファルトの照り返しに目を細めながら、僕も中学受験をするらしいとその時に初めて知った。
僕は小3の終わり頃から塾へ通いだした。
けれどもともと、勉強は得意ではなかったので、成績はレベルの低いクラスの最下位だった。
僕よりも親が必死になっていた。
どうすれば成績が上がるのか、どこで兄とは差が付いてしまったのか、毎日頭を悩ませていた。
そんな中、毎年夏休みに律とプールへ行くのが恒例になっていた。
律が急に「今日はこれからプールです」と誘うのだ。
その日だけは、親は笑顔で「行ってらっしゃい」と言う。
開放感から、僕は毎年はしゃいでしまう。
それは僕が中1、律が高3の夏まで続いた。
結局、あんなに頑張って勉強したのに中学受験は失敗し、僕は公立中学へ通っていた。
後ろめたさから、高校はいい所へ行こうと誓い、また塾通いの日々が続いていた。
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