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◇第3章◇優しくて明るいひと
28 待つのもしあわせ
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家で一旦着替えをしてから大学へ行き、授業を受けた。
悦びが抑えきれていなかったようで、いつも一緒にいるグループに「なんかいい事あった?」と昼ごはんを買ってテーブルに着席した時に指摘されてしまった。
僕はいつものように学食のテーブルを私物の除菌シートで拭きながら「ちょっとね」と笑みを零した。
潔癖症に理解のある皆はかけがえのない大切な仲間たちだ。
その日の夜、律に会うために電車に乗った。
ムサシさんと待ち合わせした駅を過ぎる時はちょっと緊張したけれど、律に会えると思ったら不安は吹き飛んだ。
近くのスーパーで塩化ビニール手袋を嵌めた手で夕飯の材料を購入し、両手に重たい袋を持って律のマンションへ向かった。
部屋番号を押すが反応がない。
念の為3度呼び出したけど、居留守ではなくてまだ仕事のようだ。
エントランスにはソファーが置いてあるけれど、そこで待つには目立ちすぎる。
僕はマンションを出て、近くで待つことにした。
ガラス張りになっているので、人の出入りはよく見える。花壇の縁に腰を下ろしてマンションの方を気にしつつ、料理アプリで作り方を予習した。
びゅうっと容赦ない風が吹くと、周りに植わっている木々が揺れ、冷たい空気が僕の体を包み込む。
今日は昨日よりも寒い。
体を縮こませながら待つこと1時間弱。
これだけ寒ければ、買った食材がダメになることはないなと安心していた時、どるんどるんと重低音を響かせながら1台のバイクが近づいてきた。
黒光りしているバイクはそのまま、僕の目の前で停まる。
乗っている男の人は長身で、長い両足を地面に付けて僕を見下ろしてくる。と言っても、ヘルメットをしているので表情は伺えない。だが何かを言いたげに僕に視線を送っているような気がする。
もしかしたら、ここにいるのは邪魔なのかもしれない。
僕が食材の袋を待って立ち上がると、ライダースジャケットにデニム姿の相手はすかさずヘルメットを取った。
サラリとした黒髪を手で整えたその人物は。
「やっぱり。来るなと言っておいたでしょう」
「え、律?」
「なんだか嫌な予感がしていたんです。いつから待っていたんですか」
「ついさっきだよ。ていうか律、バイク乗るんだね! あ、お腹は空いてる? 僕が作ってあげようと思って色々と買ってきたんだよ」
袋を見せると、律は嘆息を吐いて眉間にシワを寄せ、駐車場にバイクを停めにいった。
戻ってきた律が何も言わずに僕の手から食材の袋を取り上げた時、指先が軽く触れてドキリとする。
「ついさっき来たなんて嘘でしょう。手が冷たくなってる」
「律、今度バイク乗せてよ」
「嫌です」
「なーんでー」
「……千紘がこんなにワガママで図々しい人だなんて知りませんでした」
「そうかな? 昔からこんな感じだよ」
律はまた小さくため息を吐いた。
歓迎されていないのは十分肌で感じるけれど、僕は気付かぬ振りをして律と一緒にいることにした。
律は戸惑っているのだろう。
あの夏の日に他人には言えない2人だけの秘め事を作ったことで、気恥しさもあるのかも。
少しずつ、僕の方から歩み寄って律の心を開いていきたかった。
それであわよくば、僕のことを好きになってもらいたかった。
「連絡先、教えますよ」
「えっいいの?」
エレベーターが浮上している間に思いもよらぬことを言われてぱあっと明るくなるが、律は不本意だと言わんばかりの表情でスマホを弄っている。
「もうあんな所で待ち伏せなんてしないで下さい。もしかしたらと思って仕事を切り上げてきたんですが、案の定でしたよ。きみのことだから、俺が何を言ってもここに来るつもりなんでしょう。来る場合は必ず連絡を入れること。いいですね」
「うんうん、リョーカイッ」
僕のスマホに律の連絡先がきた。
理由は何であれ、5年振りに律の名前が表示されて嬉しい。
僕の粘り勝ちってところか。
悦びが抑えきれていなかったようで、いつも一緒にいるグループに「なんかいい事あった?」と昼ごはんを買ってテーブルに着席した時に指摘されてしまった。
僕はいつものように学食のテーブルを私物の除菌シートで拭きながら「ちょっとね」と笑みを零した。
潔癖症に理解のある皆はかけがえのない大切な仲間たちだ。
その日の夜、律に会うために電車に乗った。
ムサシさんと待ち合わせした駅を過ぎる時はちょっと緊張したけれど、律に会えると思ったら不安は吹き飛んだ。
近くのスーパーで塩化ビニール手袋を嵌めた手で夕飯の材料を購入し、両手に重たい袋を持って律のマンションへ向かった。
部屋番号を押すが反応がない。
念の為3度呼び出したけど、居留守ではなくてまだ仕事のようだ。
エントランスにはソファーが置いてあるけれど、そこで待つには目立ちすぎる。
僕はマンションを出て、近くで待つことにした。
ガラス張りになっているので、人の出入りはよく見える。花壇の縁に腰を下ろしてマンションの方を気にしつつ、料理アプリで作り方を予習した。
びゅうっと容赦ない風が吹くと、周りに植わっている木々が揺れ、冷たい空気が僕の体を包み込む。
今日は昨日よりも寒い。
体を縮こませながら待つこと1時間弱。
これだけ寒ければ、買った食材がダメになることはないなと安心していた時、どるんどるんと重低音を響かせながら1台のバイクが近づいてきた。
黒光りしているバイクはそのまま、僕の目の前で停まる。
乗っている男の人は長身で、長い両足を地面に付けて僕を見下ろしてくる。と言っても、ヘルメットをしているので表情は伺えない。だが何かを言いたげに僕に視線を送っているような気がする。
もしかしたら、ここにいるのは邪魔なのかもしれない。
僕が食材の袋を待って立ち上がると、ライダースジャケットにデニム姿の相手はすかさずヘルメットを取った。
サラリとした黒髪を手で整えたその人物は。
「やっぱり。来るなと言っておいたでしょう」
「え、律?」
「なんだか嫌な予感がしていたんです。いつから待っていたんですか」
「ついさっきだよ。ていうか律、バイク乗るんだね! あ、お腹は空いてる? 僕が作ってあげようと思って色々と買ってきたんだよ」
袋を見せると、律は嘆息を吐いて眉間にシワを寄せ、駐車場にバイクを停めにいった。
戻ってきた律が何も言わずに僕の手から食材の袋を取り上げた時、指先が軽く触れてドキリとする。
「ついさっき来たなんて嘘でしょう。手が冷たくなってる」
「律、今度バイク乗せてよ」
「嫌です」
「なーんでー」
「……千紘がこんなにワガママで図々しい人だなんて知りませんでした」
「そうかな? 昔からこんな感じだよ」
律はまた小さくため息を吐いた。
歓迎されていないのは十分肌で感じるけれど、僕は気付かぬ振りをして律と一緒にいることにした。
律は戸惑っているのだろう。
あの夏の日に他人には言えない2人だけの秘め事を作ったことで、気恥しさもあるのかも。
少しずつ、僕の方から歩み寄って律の心を開いていきたかった。
それであわよくば、僕のことを好きになってもらいたかった。
「連絡先、教えますよ」
「えっいいの?」
エレベーターが浮上している間に思いもよらぬことを言われてぱあっと明るくなるが、律は不本意だと言わんばかりの表情でスマホを弄っている。
「もうあんな所で待ち伏せなんてしないで下さい。もしかしたらと思って仕事を切り上げてきたんですが、案の定でしたよ。きみのことだから、俺が何を言ってもここに来るつもりなんでしょう。来る場合は必ず連絡を入れること。いいですね」
「うんうん、リョーカイッ」
僕のスマホに律の連絡先がきた。
理由は何であれ、5年振りに律の名前が表示されて嬉しい。
僕の粘り勝ちってところか。
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