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◇第3章◇優しくて明るいひと
31 好きな人
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「今日、仕事で少しバタついてしまって。納得のいく写真もなかなか撮れなかったので、八つ当たりしてしまいました。ごめんなさい」
座りながら頭を下げてきたので、僕は全く気にしていないという風に首を振った。
「いいよいいよ。急に来た僕が悪いんだし、写真を撮るのってなかなか難しそうだよね。僕はそういうセンスないから、スマホで風景とか撮っても上手く撮れないし」
「上手に撮れてたらそれは良い写真だ、とは言いきれないんです。やはり感情が伝わらないと。今日撮った写真は、何も伝わってこなくて残念でした。たぶん、昨日色々とあったから」
「あれ、もしかして僕のせい?」
「そうは言ってませんが」
ず、と律は目を閉じてマグカップを傾ける。
明らかに僕のせいだろう。
申し訳ないような、けどそれほど僕を考えてくれていたかと思うと嬉しいような複雑な気持ちで壁に掛かった猫のチーの写真を見る。
ルームライトに照らされて、グリーンの瞳がキラキラと輝いている。
なるほど、上手に撮れてるかではなく、感情を動かせるかが大事なのか。
例えば歌でもそうだ。上手でも全く心に響かない歌もあれば、少々音がズレていてヘタだとしても、心にすごく響くいい歌もある。
「どうしても上手く撮れない時はどうするの?」
「また時間を置いて挑戦します。それでも無理ならもう何も考えないです。ただシャッターを押して、記録しておきたい瞬間を撮る。昔はそんな感じで撮ることが多かったですから」
過去に思いを馳せているのか、律は微笑んでいた。
記録しておきたい瞬間を撮る。
それに1度だけ、僕が立ち会えた時があるのを思い出した。
「律さ、僕のことをスマホで撮ったことあったよね。あの写真ってどんな感じで写ってた?」
海に行った日。2人だけの特別な日。
家に帰りたくないのに帰らなくちゃならない、怯えと戸惑いでいっぱいな無理やりの笑顔を律に撮られた。
僕と会わなくなってから、律はその写真を見返したりしたのだろうか。
今も残してあったら嬉しい……そう期待したが、律は少し困り顔になった。
「そういえば撮ったような気もするけど……あの後に携帯を変えて、写真は引き継がなかったのでよく見なかったかもしれません。探せばどこかに残ってるかもしれないけど」
残ってるかもと、取ってつけたように言われると逆に傷付いた。
これまで数え切れないほどの写真を撮ってきた律に取って、僕のワンシーンなんてさほど特別じゃ無かったようだ。
「そっか。どんな変顔をしてるか、ちょっと見たかったんだけど」
「今から探してみましょうか」
「ううんいいよ、そこまでじゃないから」
そろそろ頃合いだと思い、レモンジンジャーを一気に飲み干して立ち上がった。
「じゃあ僕、帰るね。ご馳走様」
マグカップを洗うつもりだったが、「俺がやるから」と制止されて、律に手渡した。
律は僕の写真にさほど興味が無かったことを見透かされて負い目を感じているのか、気まずそうにマグカップに視線を落としている。
僕もなんとなく居心地が良くなくて焦った。そんな風に困らせたい訳では無かった。
「律ってさ、いま好きな人いるの?」
なのに僕はまた困らせるようなことを口走っていた。
顔を上げた律が目を瞬かせ、そしてふっと笑う。
「なんですか、急に」
「なんとなく。もしいるなら応援してあげようかなって」
そんなのしたくないのに、白々しいことを言ってしまう。
答えを聞くのは怖いのにわざと飛び込んでしまい、緊張から胸がバクバクしていたけど平然を装った。
律に好きな人がいてもいなくても、どちらも傷付くような気がした。
「いますよ」
座りながら頭を下げてきたので、僕は全く気にしていないという風に首を振った。
「いいよいいよ。急に来た僕が悪いんだし、写真を撮るのってなかなか難しそうだよね。僕はそういうセンスないから、スマホで風景とか撮っても上手く撮れないし」
「上手に撮れてたらそれは良い写真だ、とは言いきれないんです。やはり感情が伝わらないと。今日撮った写真は、何も伝わってこなくて残念でした。たぶん、昨日色々とあったから」
「あれ、もしかして僕のせい?」
「そうは言ってませんが」
ず、と律は目を閉じてマグカップを傾ける。
明らかに僕のせいだろう。
申し訳ないような、けどそれほど僕を考えてくれていたかと思うと嬉しいような複雑な気持ちで壁に掛かった猫のチーの写真を見る。
ルームライトに照らされて、グリーンの瞳がキラキラと輝いている。
なるほど、上手に撮れてるかではなく、感情を動かせるかが大事なのか。
例えば歌でもそうだ。上手でも全く心に響かない歌もあれば、少々音がズレていてヘタだとしても、心にすごく響くいい歌もある。
「どうしても上手く撮れない時はどうするの?」
「また時間を置いて挑戦します。それでも無理ならもう何も考えないです。ただシャッターを押して、記録しておきたい瞬間を撮る。昔はそんな感じで撮ることが多かったですから」
過去に思いを馳せているのか、律は微笑んでいた。
記録しておきたい瞬間を撮る。
それに1度だけ、僕が立ち会えた時があるのを思い出した。
「律さ、僕のことをスマホで撮ったことあったよね。あの写真ってどんな感じで写ってた?」
海に行った日。2人だけの特別な日。
家に帰りたくないのに帰らなくちゃならない、怯えと戸惑いでいっぱいな無理やりの笑顔を律に撮られた。
僕と会わなくなってから、律はその写真を見返したりしたのだろうか。
今も残してあったら嬉しい……そう期待したが、律は少し困り顔になった。
「そういえば撮ったような気もするけど……あの後に携帯を変えて、写真は引き継がなかったのでよく見なかったかもしれません。探せばどこかに残ってるかもしれないけど」
残ってるかもと、取ってつけたように言われると逆に傷付いた。
これまで数え切れないほどの写真を撮ってきた律に取って、僕のワンシーンなんてさほど特別じゃ無かったようだ。
「そっか。どんな変顔をしてるか、ちょっと見たかったんだけど」
「今から探してみましょうか」
「ううんいいよ、そこまでじゃないから」
そろそろ頃合いだと思い、レモンジンジャーを一気に飲み干して立ち上がった。
「じゃあ僕、帰るね。ご馳走様」
マグカップを洗うつもりだったが、「俺がやるから」と制止されて、律に手渡した。
律は僕の写真にさほど興味が無かったことを見透かされて負い目を感じているのか、気まずそうにマグカップに視線を落としている。
僕もなんとなく居心地が良くなくて焦った。そんな風に困らせたい訳では無かった。
「律ってさ、いま好きな人いるの?」
なのに僕はまた困らせるようなことを口走っていた。
顔を上げた律が目を瞬かせ、そしてふっと笑う。
「なんですか、急に」
「なんとなく。もしいるなら応援してあげようかなって」
そんなのしたくないのに、白々しいことを言ってしまう。
答えを聞くのは怖いのにわざと飛び込んでしまい、緊張から胸がバクバクしていたけど平然を装った。
律に好きな人がいてもいなくても、どちらも傷付くような気がした。
「いますよ」
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