きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第3章◇優しくて明るいひと

30 猫と僕

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「あぁ、そういえば餌の時間でした。あげてみますか」
「うん」

 渡されたキャットフードを床に置いた器に出すと、チーはすかさず近寄ってきて餌をガリガリと食べ始めた。
 見た目は可愛いけれどどこか獰猛な姿がギャップで、ふふっと笑ってしまう。

「律って猫が好きだったんだ」
「いいえ、元々は動物はそんなに。ですが保護猫センターでこの子を見つけて、どうしてもそばに置いておきたくなって」
「庇護欲出ちゃった感じ?」
「そうですね。けれど悩みました……溺愛したら、二度と手放せなくなりそうだって。だったら最初から、何もはじまらない方がいいだろうと」

 律はどことなく、秘密を打ち明けるような面持ちで切なく言う。
 旺盛に食べるチーを見つめる律の横顔はとても儚げで綺麗だった。

「でもこの目に見つめられたら、はじめずにはいられませんでした。飼って良かったです。辛いことがあっても、家でこの子が俺を待っていてくれると思うとたまらないです」

 律はふんわりとチーの背中を撫でた。
 繊細で細く長い指先が、僕の体をなぞったことがあるのかと思うと胸の奥がギュッと痛くなる。

「僕も本当は犬を飼いたいんだよね」
「犬派なんですか?」
「ううん、どっちかというと猫派なんだけど、昔から犬にはどうも好かれてないんだよね。だから飼って、心を通わせてみたいかもって」
「俺は勇気が出ないな。嫌われてるって感じたら、もう挽回しようって思えないかも」
「……うん、僕は思うよ。嫌われてるかもしれないけど、どうにか好きになってもらえたらいいなって」

 わざと意味深に言っていることに気付いただろうか。
 どうか気付いてと、律の横顔を見つめるけど、律はチーを見つめるばかりだ。

 あっという間に餌が無くなったので、律は器を持って立ち上がった。

「じゃあ、そろそろ帰りますか?」
「え、出来ればもうちょっと……」
「今日は泊めませんからね」
「え」
「当たり前でしょう。それにもう来てはダメだと言ったはずです。俺だって仕事があるんですから、千紘にばかり構っていられないんですよ」
「……む」

 僕と律に温度差があるのが嫌で、問いただしたかった。
 何でそんなに僕に冷たくするの?
 昔、どうして僕ともう会いたくないなんて言ったの?

 律が何を考えているのか知りたい。
 知りたいけど知るのは怖い、だから聞けない、けど気になる。

 矛盾がずっと頭をグルグルして黙り込んでしまった。

「……分かった。もう少ししたら帰るよ」

 律を困らせてはいけない。

 僕に帰って欲しい雰囲気を出しているんだから、それに従わなくては。
 僕は不器用だが、空気を察することには長けている。
 笑ってはいるが、内心しゅんとしていると、目の前にマグカップが差し出された。

「すみません、言い方がキツかったです。これ、レモンジンジャーです。飲みますか?」

 頷いてカップを受け取り、昨日と同じように並んでソファーに座った。
 昨日は端と端に座って随分と2人の距離があったのに、今日は互いに真ん中寄りに座ったので、ひじがほんの少し触れる距離でホッとした。
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