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◇第3章◇優しくて明るいひと
33 心に深く根付いている
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横になった僕のおでこを濡れタオルで拭きながら、律は膝を折って顔を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか」
心配そうに眉を八の字にする律の顔が近い。
は、はんそく……と思いつつも、勝手なことをした自分が恥ずかしくて、タオルケットで顔を隠した。
「すみません、強く言ったつもりは無いんですが。今日は君を悲しませてばかりですね」
「律のせいじゃないって。謝んなきゃならないのは僕の方。ごめん、勝手に見て……」
こんな気持ちになるなら初めからするなと、律の真っ直ぐな目に言われているみたいだった。
ムサシさんから助けてくれた時もそうだったのに。
僕はいつも後悔してばかりだ。
どうして繰り返してしまうのだろう。
「もういいですよ。見られてまずい物は特に置いていないですし」
それは嘘だ。
律は僕の見ていたファイルを取り上げた。
あのままページを捲られていたら困る写真でも入っていたに違いない。
……あぁ違う。
それよりも今は律に、苦い記憶を話さなければ。
「あのね、律。僕が潔癖症になったのは、ホントは理由があって」
律は僕の言ったことを考えるように、しばらく黙り込んだ。
何ですか、と問いかける目が僕に向けられる。
「僕、カンニングをしたことがあるんだよね。塾のテストが全然わかんなくて」
呆れられてもおかしくないのに、躊躇いを含んだ笑みをたたえている律に、ちょっとだけ救われた気になる。
「周りは難題をどんどん解いていくのに、自分だけできないのが凄く恥ずかしくて、焦ってたんだ。そんな時に、斜め前に座ってた男の子の答案用紙が見えて……全部丸写しした。その日の帰りに、その人が僕に話しかけてきたんだ。あんまり無理しないようにねって」
たぶん、僕が何をしたのか気付いていただろう。
相手は嫌な顔ひとつせず、無垢な笑顔を見せてきたのが余計に辛かった。
羞恥と情けなさでいっぱいで、お腹の中が焼けてしまいそうだった。
「家に帰ってからすぐ手を洗ったんだけど、それから止まんなくなっちゃって」
綺麗になっている気がしなくて、流してはまた洗ってを何度も繰り返し、風呂場でも長い時間をかけて全身をくまなく洗った。
石鹸で強く擦ったから肌が赤くなった。
僕のしたことを1番許せなかったのは、僕自身だった。
「そのあと、塾も勉強も辞めちゃった。親は僕に何も期待しなくなったから楽になったけど、どうしてあんなことしたんだろうって」
「仕方なかったんですよ。そうでもしないと、千紘はもっと辛くなっていたんでしょう。不安から自分を守ったんです」
目を細めて慰めてくれる律に甘えたくなるけど、僕は首を横に振った。
「仕方なかったで済めば、何でもOKになっちゃうよ。馬鹿なことしちゃってごめんって、何度も心の中で謝ってるんだけど」
「謝ってるって、誰に?」
「あ、カンニングしちゃった相手に」
既に変えることができない過去に執着しても仕方ないのは分かっているけど、どうしても頭から離れない。
除菌するたびにあの時の自分を憎んでしまう。
「そうでしたか。話してくれて、ありがとうございます。よく頑張りましたね」
律は僕を安心させるのが上手だ。
決していい内容ではないのに律は僕を褒めて庇ってくれる。
5年前のあの日もそうだった。
俺はずっと君の味方です。これから何があったとしても、それは決して忘れないで下さい──
その言葉を思い出し、胸がジクジクと傷んだ。
泣き出すのを堪えるために顔の半分をタオルケットで隠していたら、律に思いがけないことを言われた。
「心の中でじゃなく、相手に実際に会って謝ってみるのはどうでしょう」
「大丈夫ですか」
心配そうに眉を八の字にする律の顔が近い。
は、はんそく……と思いつつも、勝手なことをした自分が恥ずかしくて、タオルケットで顔を隠した。
「すみません、強く言ったつもりは無いんですが。今日は君を悲しませてばかりですね」
「律のせいじゃないって。謝んなきゃならないのは僕の方。ごめん、勝手に見て……」
こんな気持ちになるなら初めからするなと、律の真っ直ぐな目に言われているみたいだった。
ムサシさんから助けてくれた時もそうだったのに。
僕はいつも後悔してばかりだ。
どうして繰り返してしまうのだろう。
「もういいですよ。見られてまずい物は特に置いていないですし」
それは嘘だ。
律は僕の見ていたファイルを取り上げた。
あのままページを捲られていたら困る写真でも入っていたに違いない。
……あぁ違う。
それよりも今は律に、苦い記憶を話さなければ。
「あのね、律。僕が潔癖症になったのは、ホントは理由があって」
律は僕の言ったことを考えるように、しばらく黙り込んだ。
何ですか、と問いかける目が僕に向けられる。
「僕、カンニングをしたことがあるんだよね。塾のテストが全然わかんなくて」
呆れられてもおかしくないのに、躊躇いを含んだ笑みをたたえている律に、ちょっとだけ救われた気になる。
「周りは難題をどんどん解いていくのに、自分だけできないのが凄く恥ずかしくて、焦ってたんだ。そんな時に、斜め前に座ってた男の子の答案用紙が見えて……全部丸写しした。その日の帰りに、その人が僕に話しかけてきたんだ。あんまり無理しないようにねって」
たぶん、僕が何をしたのか気付いていただろう。
相手は嫌な顔ひとつせず、無垢な笑顔を見せてきたのが余計に辛かった。
羞恥と情けなさでいっぱいで、お腹の中が焼けてしまいそうだった。
「家に帰ってからすぐ手を洗ったんだけど、それから止まんなくなっちゃって」
綺麗になっている気がしなくて、流してはまた洗ってを何度も繰り返し、風呂場でも長い時間をかけて全身をくまなく洗った。
石鹸で強く擦ったから肌が赤くなった。
僕のしたことを1番許せなかったのは、僕自身だった。
「そのあと、塾も勉強も辞めちゃった。親は僕に何も期待しなくなったから楽になったけど、どうしてあんなことしたんだろうって」
「仕方なかったんですよ。そうでもしないと、千紘はもっと辛くなっていたんでしょう。不安から自分を守ったんです」
目を細めて慰めてくれる律に甘えたくなるけど、僕は首を横に振った。
「仕方なかったで済めば、何でもOKになっちゃうよ。馬鹿なことしちゃってごめんって、何度も心の中で謝ってるんだけど」
「謝ってるって、誰に?」
「あ、カンニングしちゃった相手に」
既に変えることができない過去に執着しても仕方ないのは分かっているけど、どうしても頭から離れない。
除菌するたびにあの時の自分を憎んでしまう。
「そうでしたか。話してくれて、ありがとうございます。よく頑張りましたね」
律は僕を安心させるのが上手だ。
決していい内容ではないのに律は僕を褒めて庇ってくれる。
5年前のあの日もそうだった。
俺はずっと君の味方です。これから何があったとしても、それは決して忘れないで下さい──
その言葉を思い出し、胸がジクジクと傷んだ。
泣き出すのを堪えるために顔の半分をタオルケットで隠していたら、律に思いがけないことを言われた。
「心の中でじゃなく、相手に実際に会って謝ってみるのはどうでしょう」
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