きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第4章◇優しくて意地悪なひと

42 いじめたくなる

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「あ、すみません。嫌でしたよね」

 律は察したように手を離した。
 僕の手を掴んだのは無意識だったのだろうか。

 チーは別の方を見ている。
 ううん、と僕はポットを置いて、何でもないように振る舞った。

「嫌じゃないよ。最近、除菌する回数も減ってきたんだ。今日家に上がる時だってジェルを使わなかったでしょ?」
「確かに、テーブルを拭く回数も減ってきましたね」
「だから大丈夫なんだよ。律に、触られても」

 すごーく意味深に言ったつもりだけど、「そうですか」と笑顔でかわされてしまった。
 キッチンから出ていった律の背中に視線を送る。
 律は僕を喜ばせるのが本当に上手だ。
 今日はなるべく手を除菌しないでおこう。

 触れられた手の甲を片手で摩ってから、カップにコーヒーを注いで律に出した。

 ひと手間かけたハンドドリップはとっても美味しい。
 何より、律が満足そうな顔をしているのが嬉しい。
 僕はどうでもいいから、律に喜んでもらいたいという気持ちが強い。




 2人で並んでテレビを観ていたら、オススメの人気デートスポットの特集が流れてきた。
 ここからさほど遠くない場所に新しくプラネタリウムがオープンしたらしい。
 ソファーに寝転がって見る無数の星々はきっと綺麗だろう。暗いから、こっそりキスなんかも出来る。

 もう師走だ。
 街は目に痛いくらいのイルミネーションが施され、大通りは幸せそうな人たちで溢れている。
 僕もできれば仲間入りしたい。

 なんとなくテレビを見続けていると、プラネタリウムを見たカップルのインタビュー映像が流れた。
 めちゃくちゃ綺麗でしたよー、と照れくさそうに答える彼女を暖かく見守っている隣の彼氏を見て、純粋に羨ましいなと思った。

 僕はチラッと律を横目で見る。
 テレビをただ見つめながらコーヒーを時折口にする律は何を考えているのか分からない。
 好きな人を誘ってみようかな、とか思ってるんだろうか。

「律、好きな人とは順調?」

 律は、けほ、と小さく咳払いする。

「聞いてどうするんですか」
「だって、こういう所に行きたいなって、今思ってたんでしょ?」
「……さぁ」

 涼し気な顔で返されてイラッとくる。図星か。

 あーあ、とつまらない気持ちになって、そして嫉妬心からいじめてやりたくなる僕は狭量なひとなのかな。

「誘わないの?  最近僕と会ってることが多いけど、その人とはご飯とか行ってないんじゃない?」
「千紘には関係のないことでしょう」
「ないけどさぁー、ちゃんとアピールしとかないと誰かに取られちゃうんじゃない? 大丈夫?」
「そうですね、はいご馳走様」

 立ち上がって向こうに行った律に向かって、内心あかんべーをする。

 都合悪い話になるとすぐに逃げるんだから。
 いつか絶対に本音を聞き出してやる。

 そんな時に、家のインターホンが鳴った。
 律がモニターを確認する。
 誰が写っているかはここからじゃ見えないが、律が嫌そうに、うわ、と小さく漏らした声は聞き取れた。

 宅配業者から荷物がたくさん運ばれてきたのかな、と思案しているうちに律が通話ボタンを押す。
 すると随分と陽気な男の声が、小さなモニターを通じて僕の耳まで届いた。

『やっほぉぉ律ー! 来ちゃったー!』
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