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◇第4章◇優しくて意地悪なひと
45 前の人
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「大丈夫だよ。俺、過去に律に振られてるし」
「えっ、告白したんですか」
「だってあんなにいい男だぜー? 好きにならない奴なんている?」
た、たしかに、と手を繋いでブンブンと振って同調したい気持ちを抑えて、さぁ、と首を捻った。
「でも『きみに恋愛感情を抱くことは一生無いです』ってきっぱり言われちゃったよ。まぁはじめっから期待してなかったから、傷つかなかったけどね」
ハッと僕は気付く。
律がまだやってこないのを確認し、僕は膝を折ってヒソヒソ声で尋ねた。
「あの、律の今の好きな人ってどんな人か知ってますか? 僕に似てるって言ってて、たぶん、同じ職場の人っぽいんですけど」
「好きな人? さぁ、そういう恋愛事情は俺ばっか喋ってて、律はほとんど話してくれないからなぁ。秘密主義なところがあるっつーか……」
仕事場で一緒になることが多いこの人なら、何か知ってるんじゃないかと思ったのだが。
ほっとしたような、少し残念なような気持ちになる。
「律は、好きな人がきみに似てるって言ったの?」
「はい。僕と同じくらいの背丈で、髪も茶髪らしいです」
「あぁー、1人それっぽい女の子はいるけど……その人結婚してるから違うよねぇ?」
「……たぶん」
「あ、今の律の好きぴは知らねぇけど、前に付き合ってた人なら知ってるぜ!」
「え、前の人?」
ドクンと心臓が跳ねる。
頭の隅では考えていたことだけど、どうやら律はこれまでに付き合った人がいたらしい。
「うん。たまに律のことを仕事場まで迎えに来てるのを見たことがあるから──」
「雷」
びちゃんっ、と向こうから濡れタオルが勢いよく飛んできて、雷さんの鼻にクリティカルヒットした。
ぎゃああと悲鳴を上げた雷さんは涙目で文句を言う。
「ひでぇ! 顔に傷が付いたらどうすんだよ!」
「いい加減にしないと、今日こそは本当に追い出しますからね」
「……はいはーい」
ちょっとやり過ぎたか、というように舌をペロリと出して、雷さんは僕らに背を向けて目を閉じてしまった。
いつの間にか僕の足元にいたチーが、すりすりとズボンの裾に体を擦り付けてから、雷さんの眠るベッドの下に潜り込んだ。
「色々、迷惑をかけましたね」
僕は謝ってくる律に首を横に振る。
「いつもああなの? あの人」
「そうですね。しょっちゅう振られたとか何とか言って、俺の所へ……最近は無かったので油断してたんですが」
しょっちゅうか。
僕の知らない2人だけの世界があることに歯がゆくなる。
明日の朝、律はきっと雷さんに手の込んだ朝ごはんを作るのだろう。
僕にしてくれたように、あの人にも親切にする。
「泊まってくんだね、あの人」
嘲笑するようにわざと冷たい声を出す。
不機嫌な僕に気付いてほしい。
どうしてこんな気持ちになっているのか、律にわかって欲しいから。
「そうですね。あのまま外に出しておいたら苦情が出て、俺がマンションから追い出されるかもしれないし」
けれど律は、穏やかさを崩さない。
少しは動揺して欲しいのに。
胸のしこりが取れなくてモヤモヤする。
こんな時は黙って帰るのが正解なのに、つい意地を張りたくなる。
「律の好きな人って結婚してるの?」
「えっ、告白したんですか」
「だってあんなにいい男だぜー? 好きにならない奴なんている?」
た、たしかに、と手を繋いでブンブンと振って同調したい気持ちを抑えて、さぁ、と首を捻った。
「でも『きみに恋愛感情を抱くことは一生無いです』ってきっぱり言われちゃったよ。まぁはじめっから期待してなかったから、傷つかなかったけどね」
ハッと僕は気付く。
律がまだやってこないのを確認し、僕は膝を折ってヒソヒソ声で尋ねた。
「あの、律の今の好きな人ってどんな人か知ってますか? 僕に似てるって言ってて、たぶん、同じ職場の人っぽいんですけど」
「好きな人? さぁ、そういう恋愛事情は俺ばっか喋ってて、律はほとんど話してくれないからなぁ。秘密主義なところがあるっつーか……」
仕事場で一緒になることが多いこの人なら、何か知ってるんじゃないかと思ったのだが。
ほっとしたような、少し残念なような気持ちになる。
「律は、好きな人がきみに似てるって言ったの?」
「はい。僕と同じくらいの背丈で、髪も茶髪らしいです」
「あぁー、1人それっぽい女の子はいるけど……その人結婚してるから違うよねぇ?」
「……たぶん」
「あ、今の律の好きぴは知らねぇけど、前に付き合ってた人なら知ってるぜ!」
「え、前の人?」
ドクンと心臓が跳ねる。
頭の隅では考えていたことだけど、どうやら律はこれまでに付き合った人がいたらしい。
「うん。たまに律のことを仕事場まで迎えに来てるのを見たことがあるから──」
「雷」
びちゃんっ、と向こうから濡れタオルが勢いよく飛んできて、雷さんの鼻にクリティカルヒットした。
ぎゃああと悲鳴を上げた雷さんは涙目で文句を言う。
「ひでぇ! 顔に傷が付いたらどうすんだよ!」
「いい加減にしないと、今日こそは本当に追い出しますからね」
「……はいはーい」
ちょっとやり過ぎたか、というように舌をペロリと出して、雷さんは僕らに背を向けて目を閉じてしまった。
いつの間にか僕の足元にいたチーが、すりすりとズボンの裾に体を擦り付けてから、雷さんの眠るベッドの下に潜り込んだ。
「色々、迷惑をかけましたね」
僕は謝ってくる律に首を横に振る。
「いつもああなの? あの人」
「そうですね。しょっちゅう振られたとか何とか言って、俺の所へ……最近は無かったので油断してたんですが」
しょっちゅうか。
僕の知らない2人だけの世界があることに歯がゆくなる。
明日の朝、律はきっと雷さんに手の込んだ朝ごはんを作るのだろう。
僕にしてくれたように、あの人にも親切にする。
「泊まってくんだね、あの人」
嘲笑するようにわざと冷たい声を出す。
不機嫌な僕に気付いてほしい。
どうしてこんな気持ちになっているのか、律にわかって欲しいから。
「そうですね。あのまま外に出しておいたら苦情が出て、俺がマンションから追い出されるかもしれないし」
けれど律は、穏やかさを崩さない。
少しは動揺して欲しいのに。
胸のしこりが取れなくてモヤモヤする。
こんな時は黙って帰るのが正解なのに、つい意地を張りたくなる。
「律の好きな人って結婚してるの?」
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